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なぜ博士進学は嫌がられるのか

こんにちは、ヒラタです。親戚と話す度に「いつまで学生やってるの?」と言われます。私自身が博士進学する前に、この問題に触れておきましょう。


はじめに


世の中には二種類の人間がいる。博士課程に進学したことがある人と、進学したことのない人だ。

「博士」と聞くとなんだか迫力を感じるが、何がすごいのか良く分からない。恐らく物知りなのだろうが、その知識は社会の役に立つのだろうか。働かずに研究してられるほど実家が太いわけでもないし、博士課程に進むと就職先がなくなる、という噂も聞く。やはり進学しないほうが良さそうだ。

大抵の使い手はそう考える。しかし、東京大学という魔境においては、圧倒的な親ガチャ、教授陣の情報操作、そして「自分ほどのハイスペックならなんとかなる」という謎の自信により、D進志願兵が毎年一定数現れる。


無論、彼ら全員が戦死するわけではない。中には圧倒的な成果を上げ、若くして教授まで成り上がる猛者もいるだろう。しかし、彼らの中には、一生を学問に捧げるほどの気概はなく、博士号取得後は脱アカして企業就職もアリだな…と企てる不埒な輩も紛れている。


今回は、そういう適当なノリでの博士課程進学に伴う潜在的デメリットについて紹介する。


1. アカデミアは自浄作用を持てない



コネ入社、収賄、脱税…。企業には、常に腐敗のリスクが付き纏う。こういった政治臭を打ち消す役割を担うのが、市場である。そもそも企業は経済的に自立した存在ではなく、市場を通じて顧客や株主からお金を受け取ることで存続している。


仮に企業が不正に手を染めれば、その情報は瞬く間に市場へ拡散し、信用を失う。結果として、売上の減少や株価の暴落といった形で報いを受けることになる。
より悪質なケースでは、責任者の名が市場のブラックリストに載り、業界内でのキャリアが閉ざされる。このように、企業は市場の厳しい監視のもとで活動することで、自身の健全性を維持している。


一方で、研究機関には顧客も株主もおらず、外部の素人がプロの研究者の不正行為を発見することは極めて困難である。専門性が高い分野であればあるほど、その閉鎖性は増し、検閲のハードルも上がる。


残念なことだが、こういったファクトチェックの甘さをhackして研究予算枠を勝ち取ろうとする研究者は無数にいる。

・大量に相互引用して自陣営の研究価値を高く見せる
・1つの成果を何本もの論文に分け、成果を多く見せる
・再現性の乏しい実験データを成果物に仕立てる
・今後、社会実装される可能性があるかのように偽る


誇大広告の全てが悪とは思わない。しかし、20代の殆どをこういった環境で過ごすと、善悪の価値観が歪む可能性がある。アカデミア以外の進路も検討されている方は、上記の行為を当然とは思わず、「嘘がバレた場合のリスク」を忘れないでほしい。

2. 市場価値が相対的に下がる



教授たちが「博士のような専門人材は、代替が難しく市場価値が高い(だからD進しろ)」と学生に説くことがしばしばある。


「自分にしかできない仕事」というフレーズは一見すごそうだが、企業目線で見るとそれほど魅力はない。なぜなら、属人性の高い専門スキルが会社で活かされることは稀だからである。

答えは②。博士人材は①か③。


結果として、修士卒 or 博士進学で市場価値には大きな差が生まれる。

[修士で就職した場合]
・市場価値(年収)は新卒入社時に一気に上がる
・給与は毎年単調に増加し、成果に応じてボーナスも
[博士に進んだ場合]
・大学によらず、在学中の年収は平均200-300万円
・どんな成果を出しても基本的に固定給


つまり、一度も就職しないまま博士に進むと、就職・結婚の場で「これまで年収300万以下でしか働いたことがない人」として扱われかねないということだ。


世の中金が全てではないが、そういった一般キャリアからの相対的デバフを自覚することは重要である。逆に、在学期間中に「年収XXX万円で雇われる」という経験を積んでおけば、博士卒業後の給与交渉も多少有利に進められるかもしれない。

3. キャリアの合理化が難しい



博士課程は大変だが、卒業後にアカデミアに残るのはもっと大変である。不安定な雇用の下で、数少ないポストをめぐって優秀な同期と争う。給与は上がらないのに、研究と無関係な業務は増えていく。


博士号取ったけどこの先はキツそうだから、と脱アカする者も多い。彼らに対して、企業の採用担当はこう尋ねる。

「なぜ企業研究者や社会人博士ではなく、博士進学を進んだんですか?」
「弊社で働きたいのに、博士号を取ったのはなぜですか?」


研究が目的であれば、博士進学以外のキャリアパスは複数存在する。
就職が目的であれば、博士号を取る必要は必ずしもない。


そのため、博士進学の経緯を合理的に説明できる人間は少ない。結局のところ、面白そうだから進学しているのであり、それ以上でもそれ以下でもないのかもしれない。


だが、オールマイト理論で押し通せるほど、昨今の採用面接は甘くない。衝動的に博士進学を決めると、その代償を将来必ずどこかで支払うことになる。

おわりに



今回は「周囲から博士進学が嫌がられる理由」というテーマを扱った。


博士進学というルートを選べば、あなたの人生ゲームの難易度は格段に上がるだろう。


しかし、他のルートでは手に入らないアイテムや経験値も少なからずある。大学、研究室、研究テーマ、休学期間といった選択肢の広さも、このルートならではの魅力である。

「もう普通の人生ゲームには飽きた」


そんなプレイヤーにとって、博士進学は新感覚のエクストラステージになりうる。



ただし、覚えておいてほしい。このゲームにリセットボタンは存在しない


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