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富士山自然図鑑⑥(ラジオ原稿)「毒を操る蝶 アサギマダラ」※無料

こんにちは。富士山五合目図鑑を担当します富士山ネイチャーツアーズの岩崎と申します。
このコーナーでは私の大好きな富士山で生きる植物をはじめとする様々な生き物たちにスポットを当てて、彼らの生き様や、思わず「へぇ~」と声を出してしまいたくなる興味深い生態を紹介していきます。
富士山に行くのが楽しくなる、新たな富士山の楽しみ方が見えてくる、そんな情報をお届けします!

さて、いよいよ富士登山シーズンがスタートしました!日本最高峰からのご来光を楽しみにしている方も多いと思います。富士山大好きな私も実はその一人です。
しかしながら、今回も五合目より下の知られざる魅力を紹介していきたいと思います(笑)

みなさんはアサギマダラという蝶をご存知でしょうか?
最近では大人気アニメ「鬼滅の刃」の胡蝶忍のモチーフとなり、一部で有名になったこの蝶は、幼虫期に毒草を食べ、自身の体に毒を蓄積することで外敵から身を守るという生態を持っています。
日本の伝統色「浅葱色」というとても薄い藍色の模様をまとった大型の蝶で、夏から初秋にかけて沢山のアサギマダラがここ富士山にもやってきます。「やって来る」ということは、ずっと日本にいるということではなく、実はこの蝶、渡りをするのです!個体によってはなんと2500kmもの距離を移動することが分かっています。日本で記録された個体が数日後には台湾で確認されたことさえあるのです。いくら大型の蝶とは言え、5~7cm位の蝶がひらひらと海を越えて国外まで大移動することには大変驚きます。
アサギマダラの渡りのルートはまだ完全には解明されておらず、民間レベルでその調査が続けられています。採取した個体の翅の浅葱色の部分に採取日と採取地を油性ペンで記してリリースします。別の地でその個体が再度採取されれば、移動のルートや速度が分かるというわけです。なんだかロマンを感じますね。
そして、その経路に富士山が含まれていることもとても興味をそそられます。実はこれには重大な理由があるのです!

1996年に上陸した超大型の台風17号によって富士山の一部で大変大きな倒木被害が発生し、これによって日当たりがよくなった広いエリアにヒヨドリバナという花がたくさん咲くようになりました。このヒヨドリバナの蜜がアサギマダラにとってとても重要なのです。オスはこの蜜に含まれる「ピロリジジンアルカロイド」とう毒成分を摂取することで性フェロモンを作り発情し、その後、メスの待つ繁殖地へとまた旅立つわけです。つまりヒヨドリバナが群生する富士山が効率よく「ピロリジジンアルカロイド」を摂取できる地として選ばれたわけです。

台風の襲来による自然の攪乱が新たな草原環境を生み出し、新たな生命の営みに繋がっていく。偶発的でありながらも結果としてパーフェクトなバランスを作り出していく自然の創造力に感動させられます。

今年の夏は旅する蝶アサギマダラを探して、彼らの渡りに思いを馳せるマーキング調査にチャレンジしてみるのも面白いですね!

それではまたお会いしましょう!富士山ネイチャーツアーズ岩崎でした。

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