売上と付加価値を伸ばすDXの姿〜デジタルガバメンス・コード2.0とBtoBビジネスの未来を考える〜
最近耳にするようになった、DXセレクションやDX認定制度に興味はあっても何から取り組めば良いか、公開されている中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引きなどから読み解くのはなかなか難しいです。
本noteでは、BtoB中心の中小製造業企業としてDXセレクションに応募するにあたり、弊社のDXの取り組みとビジョンを「デジタルガバメンス・コード2.0」にそってまとめることで、ステークスホルダーや読んでくださる方の参考となるよう公表することを目的としています。
デジタルガバメンス・コード2.0
2020年フジイ印刷が全国中小企業クラウド実践大賞岡山大会で奨励賞をいただいて3年。当時は事務印刷会社として、事業の将来を見通すために社員の事務職をゼロにし、付加価値を生み出す活動にリソースを集中させることを目標とした取り組みについて発表しました。しかし、コロナ禍とDXの大きな波のなかで事業環境はさらに大きな変化を必要としています。
そのような環境のなかで、経済産業省からあらゆる企業の価値を向上させるDXを目指して、そのマイルストーンとして公表されているのが「デジタルガバメンス・コード2.0」です。
「デジタルガバナンス・コード」の柱は以下の4点です。
1.ビジョン・ビジネスモデル
2.戦略
2−1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策
2-2.ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
3.成果と重要な成果指標
4.ガバナンスシステム
この柱にそってDXの要素を組み立てることで、企業価値が向上するというのが基本的な筋立てになります。
1.ビジョン・ビジネスモデル
弊社を含む多くの中小企業がコロナ禍で仕事の絶対量を減らし、売上を減少させています。特に印刷業はパソコンが普及した20年前からデジタル化の波を受けており、コロナ禍でのリモート化やペーパレス化によって売上減少に拍車がかかっています。そのような流れのなか地域の雇用と賃金レベルを向上させるためには、利益構造を見える化して全社員と共有し、受注1件あたりの付加価値を向上させるために、製造業なら内製化による多能工化とタイムマネジメントを全社一丸となって進める必要があります。
そのためには、全社員に会社の利益構造が見えるシステムを導入すると同時に、この取り組みはコスト重視の圧力経営を目指すものではなく、全社員の雇用と幸せを守ることが目的だということに共感してもらうことが第一歩となります。
さらに、既存の事業領域が構造的に縮小していく企業は、技術が活かせる領域への多角化も必須となってきます。多角化の際にもどんぶり勘定にならないために新規事業と既存事業を分けた利益構造の見える化が力を発揮します。
弊社のビジョンは、製品毎/部門毎/事業毎の時間付加価値(売上ー外部購入経費を活動時間で割ったもの)を基準に、収支管理と利益構造を見える化して全社でコスト意識の向上を図るとともに、売上を向上させる営業戦略にも社内WikiとKPI管理をリレーションさせるシステムを開発し、売上と付加価値を伸ばすDXへの進化をお客様とともに目指すことです。
そのためのビジネスモデルは、自社でシステムの再現性や効果を検証し、2024年中に製造業を中心とした中小企業の方々に私たちが開発した統合情報システムをご提供して、それぞれのステークスホルダーの方とともに売上と付加価値を向上させるお手伝いを事業化していきます。
具体的には、基幹システムとしての機能に加えてBIレポート・ダッシュボード機能を具備し、経営層からフロント・バックオフィス業務に従事する従業員の方まで幅広く利用可能なクラウドシステムを開発して、今まで弊社の事務印刷事業でお取引があった企業様への直接販売と、地域商社様との連携を通じた間接販売の両輪による事業展開を予定しています。
2.戦略
先に説明した通り、弊社は「全社員に会社の利益構造が見えるシステム」を、広く同業を含む幅広い企業様に活用していただき、弊社を含む企業の全社員の雇用と幸せを守ることを目指しています。
そのために本事業では、FileMakerという30年以上の歴史と実績があり、非常に拡張性と柔軟性があるデータベースアプリケーションを使って、様々な企業が今後事業を多角化しながら生産性向上を目指していくために必須となる、管理会計視点でのクラウド型基幹システムを開発し、中小企業でも導入しやすい価格帯でご提供します。
このシステムでは、FileMakerのデータベース連携の柔軟性を活かし、営業・顧客情報・生産・在庫・請求・経営・勤怠などの企業にまつわる主要なデータをリレーションさせて、事業部・部門ごとのリアルタイムに売上付加価値の予実管理や生産性を見える化します。
FileMakerの開発については、すでに自社で8年以上要件定義からフロー設計、レイアウト作成まで行ってきた運用実績と基幹システムを開発して改良を重ねてきた知見があります。
また今回正式なFileMakerのアライアンス企業との業務提携により、開発長期運用に関する人的リソースの問題もクリアできました。
さらにより多くの企業に使っていただく戦略として、賛同企業に販売権を付与した形で購入してもらい、自社の効率化や多角化を図りつつ、賛同企業にはシステム販売という新たな事業の立ち上げも可能なビジネスモデルを構築する計画です。
2−1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策
今回採用するFileMakerには、無料の動画とテキストで学習できる「FileMaker オンライン学習」が基礎・初級・中級・実践編とそろっており、本事業のアプリはすべて公式の学習内容にそって開発されます。そのためこれらの学習リソースはそのまま実践的な社内外の教育に活用することができます。
さらに中級まで履修し資格認定の中級まで取得すれば、アプリを利用する企業内でカスタム化ができる権限付与を行い、社内のシステムを教材としてカスタマイズを自社で行うことによるリスキリングができる体制を整えていく予定です。
また運営については、5年前にシステム開発の事業化を試みたときに社内で開発サポートをするとあっという間に人的リソースが不足し、サポートができなくなった反省から、社外のFileMaker開発資格を持ったFileMaker Business Alliance(FBA)企業と協業し、開発環境やサポート体制を整えています。また本事業のシステム内にサポートの受付と管理表をビルドインすることで、スピーディーで正確なサポートを実現していく計画です。
弊社内においても、FBA企業から定期的なスキルアップ研修を受講し、継続的にDX人材の育成を行っていく予定です。(3年でFileMaker認定試験2名合格者育成目標)
2-2.ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
FileMakerを提供しているClaris社はApple社の100%子会社であり、プラットフォーム自体も30年以上継続している実績もあるので、他のクラウドサービスよりサービスの継続性では安心材料となります。セキュリティもApple社基準で整備されており、プラットフォームとしてのセキュリティレベルも一定以上です。
さらに岡山県内の中小企業のDXを後押しする産学官金連携支援コミュニティ「DXサンライズおかやま」から伴走支援を受け、機能面やセキュリティ面のチェックに加え、投資回収シミュレーションやビジネスモデルのブラッシュアップを行い、技術面でもビジネス面でも一定の評価をいただける事業内容になってきています。
3.成果と重要な成果指標
本事業は弊社が開発したアプリケーションを、データ移行から実際の運用まで隅々までテストと本番運用を行なったうえで、不具合や使い勝手を改善したサービスを他社に提供します。そういう意味で弊社内でのテスト運用をどのように進めていくかが大変重要になってきます。
またアプリケーションの範囲が、営業、販売請求見積、仕入外注、工程生産原価在庫、勤怠管理など基幹業務を広範囲に含み、入力をできるだけ少なくするためのデータ連携を行うため、テストスケジュールとマイルストーンをさらに細かく設定し、より確実性を向上させるテストを順次実施していく予定です。
最終的に2024年内に全てのテストを完了し、他社へのサービスインができることが目標です。(すでに同業他社1社への導入が決定しています)
この後は、最低3ヶ月に1社以上の契約を行うというマイルストーンを達成していくことで、32ヶ月で初期投資額が回収できる計画となっており、新機能などの追加開発も継続して行なっていく予定です。
そして本事業で開発するシステムが重要評価指標としている「事業部毎の時間付加価値」について、弊社内でもシステムを戦略的に活用し、本事業単体で3年後に5,000円/時間を達成することが目標です。
4.ガバナンスシステム
弊社では経営者自らがバックオフィス業務全般を行いながら、その業務を自動化や外部化することでDXを推進してきました。
本事業はその集大成と言え、今まで断片的だった効率化システムを集約して、データを有効活用するための基盤に生まれ変わらせます。そして売上と付加価値を生み出すために必要な仕組みと一つのシステムに統合することで、社員みんなが経営視点で主体的に仕事ができる環境を作り上げることが主眼となっています。
このようなシステムを開発していくには、それぞれの業務経験とシステムに関する知識も必要ですが、伝票を中心としたバックオフィスの印刷物を製造してきた弊社のノウハウや、率先してDXに取り組んできた経験を活かすことで、他の企業にはできない売上と付加価値を生み出すことに特化したシステムを開発できると考えています。
またセキュリティについては、サービス提供企業各社ごとにクラウドサーバーを用意し、さらにApple社のセキュリティ基準に準拠した、FileMakerの標準認証システムを使うことでセキュリティレベルを担保します。
プライバシーについては、システム面で情報アクセス権セットを細かく設定できる仕様にすることや、情報を扱う関係企業同士がNDSや秘密保持契約を結ぶことを必須とする予定ですが、DXサンライズおかやまに参画する実際のシステムベンダー様からアドバイスをいただき、さらに保護レベルのアップを図っていきます。
最後に
弊社は小ロットで会社案内からカタログ、チラシ、冊子、販促品など手で触れる印刷物の制作に強みがあります。しかしお客様から言われるままにOEMのようなものづくりをしていては、いつか受注が消えてしまう可能性はいつまでも拭いきれません。
このサイクルを脱却するには、訴求効果が見込める印刷物群をソリューションとして提供するしかないと考えています。
印刷物とは製品サービスのコンセプトを可視化したものです。そのためお客様が掴めていない、訴求効果が見込めるコンセプトを先んじて掴む、またはお客様と協力してコンセプトを掴む活動がキモとなります。
弊社では2019年から毎朝の朝礼をやめ、その時間を40分のアイデアミーティングにあてて、DXのための人的資本ではなく、アイデアを生み出す人的資本に投資してきました。
DXは一度仕組みを作れば、ほとんどの業務をシステムが回してくれます。システムが回るようになれば、社員は定型業務を可能な限り短時間で終わらせ、クリエイティブな業務に従事できるようになります。
BtoCのビジネスと比べて、BtoBのビジネスはニッチな市場を対象としているため公のデータが少なく、統計的なマーケティングやMAなどの効果も薄くなります。そのためBtoBのビジネスでは、顧客の生の声からニーズを拾う必要があります。
今年は統合基幹システムをリプレースしますが、そのなかに製品サービスのコンセプトをもとに展開する販促資料のwikiデータベースの管理も可能にする予定です。
これによりコンセプトとアプローチが一対になって管理できるため、ABテストも容易になり、客先の反応を見ながら販促資料の改良を行ったり、製品自体のアップデートにも活かせるようなデータドリブンの販促システムが出来上がると考えています。
ここまで出来ればBtoBでも売上を伸ばし、付加価値を向上させるDXを達成するという夢が実現すると言えるのではないでしょうか。
これまでのDXの歩み(補足資料)
2015年に基幹業務システムリース更新に多額の費用が掛かるため、クラウドサービスを検討するもセキュリティやレスポンス、費用対データ容量の問題からオンプレの自社開発システムをFileMakerで制作することを決定した。ハードウェアをWindows PCにするとOS更新リスクがあるため、モバイルファーストでコストを抑え、Macでも運用できるシステム構成にすることでサーバー費用を抑えられた。
2017年にはシステムの選択肢が絞られることで逆に会計事務所の選択肢が増え、会計給与システムのクラウドパッケージへの移行にも成功する。
2018年に経理担当役員の引退に伴い、会計業務をアウトソーシングする必要が出てきたため、2年かけて銀行FBサービスの出入金データをクラウドストレージにRPAで定期ダウンロードし、基幹システムで半自動消し込みした上で、会計システム用の仕訳としてクラウドストレージ経由で記帳代行会社に渡すワークフローを確立。同じフォルダと確認用Google chatを会計事務所と共有することで、第3者チェックが随時出来る体制になっている。
さらに2018年にビジネスフォン端末のリース更新が高額なためクラウドPBXに移行し、外出先でも固定電話や内線が受けられる体制になった。これにより経理担当のほかに電話担当の営業事務も廃止できたことで、事務職はゼロになった(社長が1日30分程度現金管理と入金消し込みするだけ。外線は基本担当者が自動音声案内で切り分けて直接受ける)。
また社内のNASに管理されていた膨大なデザインデータも社外から安全にアクセスできる全文検索サーバーを導入、固定IPを通じて基幹業務データにもモバイル端末でアクセスできるようになった。さらに固定ドメインメールもGmailで送受信できるようになったため、リモートかつモバイルで客先とのやりとりは全て完結するようになった。
2019年にコロナ禍で業務量が減ったタイミングで残業もゼロにし、変則労働から完全週休2日に移行した。勤怠管理システムも自社開発し、分単位の有休取得ができるようにした。申請も簡易化しGoogle chatで随時可能にした。
基幹業務システムは当初から製品ごと分類ごとの推定営業利益が出る仕組みにしていたが、2023年に時間付加価値を重視した予実管理の仕組みにアップデートし、個人の賃金はクローズにしつつ月初に社内の経営数値を透明化して危機意識の共有を図った。
さらに基幹業務も可能な限り入力を減らして、販売予実管理・見積売上請求管理・入金管理・在庫管理・生産管理・工程管理・発注管理・勤怠管理・スケジュール管理・営業管理・BIダッシュボードを一体でリプレースするプロジェクトとしてスタートを切った。
補助金活用も検討したが、開発スピードが遅くなる問題があるため断念。その後システムを数社で共同出資して開発することで1社あたりの負担を減らしつつ、外販も可能にする提案が受け入れられ、融資を受けられることになる。時間付加価値の向上にフォーカスを絞ったシステムとすることで、社員みんなの雇用を守り、賃金上昇を目指すコンセプトに共感していただいた同業他社と共同開発することが決まった。
県外の同業他社からヒントをもらい、多角化と多能工化の効果を可視化できる事業部別・部門別に時間付加価値が管理できるシステム構成にバージョンアップしつつ開発が進んでいる。
2019年までの業務効率化でコスト削減は進み赤字体質からの脱却が出来たが、コロナ禍で売上が減り再び赤字体質に転落。売上向上を図るためMAやSFA/CRMなど検討したが、入力負荷の割にBtoBビジネスへの有効性が乏しく断念した。一旦諦めかけた営業DXだったが、KPI数値管理を前提とした日報管理手法を学んだことでスケジュールと一体になった営業管理システムの開発もあわせて進めている。
最終的に地方の中小製造業を中心とした企業にシステムをできるだけ低価格で使ってもらい、一緒にそれぞれの地域の雇用を守り、世界的に低いとされる労働生産性を向上を目指していくのが今の夢である。