IT大臣 オードリー・タン氏とゲーム作家 米光一成氏の思想から「ボードゲームの創作が世界を平和にする可能性を秘めている」と気づけた話。
世界に必要なのは「多重視点と創造的解決の場」。
そして、その視点は「ボードゲームの創作」を通じて養える。
そんな考えを持ったのは、「天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード」を読んだことがきっかけでした。
「向き合う」→「受け入れる」→「対処する」→「手放す」
この本のなかで語られる、国際的なオープンソースコミュニティの習慣が反映された問題解決の4ステップがこちらです。
「向き合う」とは、自分が執筆したプロジェクトの部分に対して、他者から提案された新しいアイデアを理解し、そのアイデアに表現された思想を自分の中にコピーしてみること。
「受け入れる」は、自分の中にコピーした他者の新しいアイデアが自分の案とは少し違っていても、より優れていたらそれを認めること。
「対処する」は、そのアイデアをプロジェクトに取り入れること。
最後に「手放す」は、それを世界中とシェアし、その成果物の独占権を放棄すること。
この4つのステップは、オードリー・タン氏が2006年にフリーソフトウェア国際会議の中で発表した、オープンソースプロジェクトを進めるための5つの共通の思想がベースになっています。
明確な未来予想図を持ち続けよう
許可より寛大さを
膠着状態を打ち破れ
共通認識は求めず、創造性だけを追求しよう
コードを使ってコンセプトを説明しよう
これらは、小規模な分散型のチームに最適で、リアルな交流はなくても、お互いの信頼関係と友情を育み、もめごとを最小限に抑え、開発を喜びに変える手助けとなる思想として紹介されています。
オープンソースプロジェクトと似ているボードゲームの創作
驚くことにこの思想は、「ぷよぷよ」や「バロック」などを開発したゲーム作家 米光一成先生が、ほぼ同時期の2007年に著書の「仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本」で、長年TVゲーム開発で培ったチームで楽しくプロジェクトを進めるためのポイントとほとんど共通しています。
例えばこれらの見出しです。
「冒険の地図(プロジェクトマップ)」を作ろう!
「NO」は禁呪!(イエスアンド)
退屈をぶっとばせ
人とアイデアを切り離す
アイデアをどんどん回す
特に「アイデアをどんどん回す」の項は
からはじまり、「コードを使ってコンセプトを説明しよう」の思想と共通しています。
また、米光先生は近年「はぁって言うゲーム」や「変顔マッチ」、「あいうえバトル」といったカードゲームやボードゲームを、数多く創作しています。
同時にそのポイントを大学や講座で教えていて、特に強調しているのが「アイデアはすぐプロトタイプとしてカタチにして、何度も実際に遊んでもらうこと」です。
遊んでもらって得られたフィードバックを一旦受け入れ、自分でも試してみて、優れたアイデアなら取り入れて、さらにプロトタイプを改良していく。
これもオープンソースプロジェクトと共通した考え方です。
「多様な視点」と「多重視点」の違い
しかしプロジェクトを複数の人で行っていると「多様な視点」が対立を生み、うまく進まなくなることがあります。
そんな状況でもオープンソースとアナログゲーム創作の思想が役立ちます。
先にオードリー・タン氏の問題解決の最初のステップが「受け入れる」だとお伝えしました。
そして「受け入れる」ためにオードリー・タン氏が強調することがこれです。
ところで、なぜ「多様な視点」ではなく「多重視点」なのでしょうか?
「多様な視点」は、複数の人がそれぞれの場所でバラバラな視点持っている状況をイメージします。
それに対し「多重視点」は、自分のイメージの空間に、それぞれの人の立場やアイデアを理解し、十分に説明できる<仮想の自分>を何層にも重ね合わせるという、主体的な能力です。
「多様な視点」では、あちらを立てればこちらが立たずで平行線に終わることも多々ありますが、「多重視点」という能力を使って傾聴すると、自分のイメージの中にいろんな人の意見や考え方が取り込まれ、重なり合って豊かな智慧が育っていきます。
そしてその智慧が「みんなに反対されなければ、全員の共通認識(コンセンサス)は必要ない」という、新たな創造的解決ルートを生み出します。
「多様な視点」と「多重視点」の違いは、「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の違いとも似た考え方で、ANAビジネスソリューションのサイトにわかりやすい図で示されています。
ゲーム創作の現場で大切な「イエスアンド」と「楽しい遠回り」
同様にゲーム創作の現場では、この多重視点による創造的解決へのアプローチは、「イエスアンド」という考え方で説明されています。
この「イエスアンドができる場」を作り出すことが一番大切で、本ではチームのメンバーを知るためにキャラクターシートをつくったり、インタビューをする手法が紹介されています。
そしてチーム内に共感が育まれたら、メンバーそれぞれの視点を受け入れやすくなり、「イエスアンドができる場」になるという流れができます。
そうして多様なメンバーの視点をいろんな角度から受け入れて、自分の思想と重ね合わせ、脳内を多層的な状態にしていく。
するとあるとき「対立を超えて、複数の問題を一気に解決するアイデア」が出てくる。
この一見遠回りな発想の方法を米光先生は
と表現していて、そのための発想力の鍛え方も多く提唱しています。
多重視点と創造的解決の場をつくるために
米光先生が作成した「むちゃぶりノート」は、一人でも多重視点を使って発想力を鍛えられる設計になっていて、チームで使うとさらに「イエスアンドができる場」づくりにも役立ちます。
またオードリー・タン氏は、多重視点による傾聴力を養うために、お互いに相手が話すことを5分ずつ絶対口を挟まず聴いて、話し手にその内容を説明するという練習法を提唱しています。
そうして人との会話だけでなく、文書やネット上の様々な思想と、「向き合う」→「受け入れる」→「対処する」→「手放す」の4ステップで、オープンソースやゲーム創作の現場のように対話を重ねていくこと。
その姿勢がイノベーションを生み出し、ただの夢だと思われがちなSDGsの実現を推し進め、世界に争いを解決する糸口を示してくれるのではないでしょうか?
2019年に米光先生のゲーム創作の思想を学んでから、社内で色々や試行錯誤をしてきましたが、今回オードリー・タン氏の本を読んでよりゲーム創作の思想に可能性を感じ、文章にしてみました。
長文にも関わらず、読んでくださりありがとうございました!
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