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武術とビジネスデザイン〜守破離=バイアスブレイクから事業化へ〜

武道とイノベーション

2016年からハーバード・ビジネス・レビューで連載された濱口秀司氏のイノベーションについての連載論文「SHIFT」。

雑誌連載を読んでいたので電子本は未読でしたが、Kindleの読み上げ機能で移動中に復習できると気づき先週から再読して驚きました。

序文に「日本人イノベーション最強論」という書き下ろしの論文があるのですが、ここに武道や茶道など道を究める日本人の気質こそ、イノベーションを起こす最強の潜在能力だと書いてありました。

濱口氏によると、現代は「商業資本主義」→「産業資本主義」→「情報資本主義」の次の「発想資本主義」の時代に入っているとのこと。

「発想資本主義」の時代とは、次のような時代です。

最新の情報を持っていることは既に当たり前になり、それだけでは差別化できる価値を生み出せないため、そうした情報を独自の視点で切り取り新たなアイデアを生み続ける発想力とその実現力のセットが価値につながる。
SHIFT:イノベーションの作法より

濱口氏の唱えるイノベーションは、今までの事業領域と全く関係のない所謂「JUMP」型ではなく、これまでの技術や経験を活かしつつ、事業の方向性を異なる角度と大きさにズラす「SHIFT」型を指します。

このイノベーションの型に必要なのは、技術を突き詰めてシンプリファイしつつ、武道のように生き死にの世界でも通用するようにバランスを取る感覚で、日本人はその適性を世界的に見ても最も持っているそうです。

守破離とバイアスブレイク

そんな日本人に適性のある武道に「守破離」という言葉があります。
守破離(しゅはり)とは、

剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。
goo国語辞典

とされ、ドイツの哲学者ヘーゲルも弁証法として近い概念を提唱しています。

弁証法(的)論理学[編集]
ヘーゲルの弁証法を構成するものは、ある命題(テーゼ=正)と、それと矛盾する、もしくはそれを否定する反対の命題(アンチテーゼ=反対命題)、そして、それらを本質的に統合した命題(ジンテーゼ=合)の3つである。全てのものは己のうちに矛盾を含んでおり、それによって必然的に己と対立するものを生み出す。生み出したものと生み出されたものは互いに対立しあうが(ここに優劣関係はない)、同時にまさにその対立によって互いに結びついている(相互媒介)。最後には二つがアウフヘーベン(aufheben, 止揚,揚棄)される。このアウフヘーベンは「否定の否定」であり、一見すると単なる二重否定すなわち肯定=正のようである。しかしアウフヘーベンにおいては、正のみならず、正に対立していた反もまた統合されて保存されているのである。ドイツ語のアウフヘーベンは「捨てる」(否定する)と「持ち上げる」(高める)という、互いに相反する二つの意味をもちあわせている。なおカトリックではaufhebenは上へあげること(例:聖体の奉挙Elevation)だけの意。
wikipedia「弁証法」

ここで濱口氏のイノベーションを生み出す発想法である「バイアスブレイク」と「守破離」を比較してみます。

バイアスブレイクとは、文字通り「先入観や固定観念を壊す」こと。では誰の先入観なのかというと、その道のプロ=消費者ではなく「企画者の先入観を壊す」ところがポイントです。

武道でいうとフェイントで勝つのでは結果が安定しませんが、武芸者同士が見たことも聞いたこともない技を持っていれば勝つ確率はかなり上がります。
これは発想の転換なので、たとえば大工さんなど武芸者以外が見たことのある技ならOKです。

しかもその武道の身体操作法は利用しながら発想だけを変えた技を作れば、習得も早くできます。

ではどのようにこのような守破離のバイアスブレイクを行うのでしょうか?

イノベーションを起こす「SHIFT」の型

私は濱口氏の提唱するバイアスブレイクの基本構造は、下の図のようになっていると考えています。

まずテーマを決めたら、固定観念に囚われない状態でその道に精通している人にヒアリングを行い、より根本的な課題を見つけます。このとき課題はできるだけ多く設定しておくと、より深いバイアスを壊すヒントになります。

それからその課題群に対して、アイデアをできるだけたくさん出します。所謂ブレインストーミングです。

そして面白いアイデアが出たら、それを「みんなが面白いと感じた」=「一種の先入観から出たアイデア」と捉えて、さらにそのアイデアを要素分解してモデル化します。(先のリンク記事参照

ここでバイアスブレイク!
そのモデルを壊したらどんな発想ができるか?を強制的に考えてアイデアを出します。ここでいろんな切り口を組み合わせて壊し、組み合わせて壊しという思考作業を繰り返して、先に設定した課題をいくつもクリアできる「見たことも聞いたこともないけど、実現可能なアイデア」が出てきたら成功!となります。

時間があればさらにこのサイクルを繰り返すと、より深いバイアスを壊すことができますが、ビジネスには時間が限られているので、その中で最大の成果を出す意思決定と戦略を組み合わせて実行していきます。

これがイノベーションを起こす「SHIFT」の型になります。

SHIFTでアイデアが出たら

ここで全く新しいアイデアが出たら、どうやって実行するのでしょう?

見たことも聞いたこともないアイデアは数字で評価することができないので、ビジネスなら社内説得も販売後の売上予測もできません。

そんなときに役立つのが「β100」という手法です。
これは濱口氏が提唱するテストマーケティングの手法で、文脈・機能・体験の3つの要素に分けてプロトタイプを作り、実際にその商品・サービスが売れる場を可能な限りリアルにかつコストを抑え、スピーディーに再現して、実際に戦略上購入してくれる人たちにリアルに近い購買行動を行ってもらうことで、生に近いデータを得て、それを分析や意思決定に使うというものです。

そしてこのような売り場を作って、このストーリーで伝えたら40%の購入意思決定がなされるというデータが出たら、社内を説得して一気に製品化・サービスリリースするという流れになります。

合気武術とテストマーケティング

これは私が20年以上行っている「合気武術」の世界でも実際にあったやり方です。

合気という技術は、それまで力任せやタイミングや角度といった観点の武術がほとんどだったなか、武田惣角という武術家が柔術に修験道の手法を取り入れ(諸説あります)、相手の力を抜いてしまう技法に昇華させたことからはじまります。

そして武田惣角は、この技法を使って武術に興味がある地方の有力者を見たことも聞いたこともない不思議な技で魅了し、その口コミで各地を渡り歩きながら、一代で警察にまで指導をする「大東流合気柔術」という一大流派をなしました。

武田惣角は、一度見せた技は二度と同じ人には掛けなかったことでも有名で、これは秘密主義ということの他に、その場で思いついた技を試していたからではないかと言われています。つまりテストマーケティングで客の反応を見ていたということです。

ビジネスでも生の意見を仮の商品・サービスで得られれば、リリースへの勢いが圧倒的に高まります。
特に不確実性が高い、見たことも聞いたこともないモノなら、尚さらです。

ここまで来たら、あとは認識価値と認識価格のバランスや最初の100、次の2000の販売戦略をデザインや機能・顧客体験・ストーリーなど、何かがフックする仕掛けを組み込んで作り込み、あとはリリース!という流れになります。

バイアスブレイクを習慣にするために

バイアスブレイクはプロの先入観を壊して発想する手法です。しかし、先入観をその業界の中にいる人が見つけるのはなかなか難しいです。

そこで私たちは、バイアスブレイクと同様の手法を使ってゲーム開発をしている「ぷよぷよ」や「はぁって言うゲーム」を作ったゲーム作家、米光一成先生と協力して、一人でもバイアスブレイクができる習慣が身につけられるツールを開発しました。

それが発想力トレーニング文具「むちゃぶりノート」です。

むちゃぶりノートの使用例

「むちゃぶりノート」はテーマを設定したら、構成要素を8つ書き出します。

そしてシールに書かれた破壊的なむちゃぶりワードと組み合わせて強制発想し、アイデアを出します。

さらにそのアイデアと切り口からもう一段最後の発想して1セッション終了という流れになっています。

1回10〜15分で、続けてトレーニングすればバイアスブレイクして強制発想する流れが習慣化できます。

このビジネス発想力を鍛えるシリーズの第2弾を開発中です。

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