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うつ病の私が見ている世界 第14話

 相変わらず、午前三時には目が覚めてしまう。
 更年期でも、こういうことがあるらしいけれど、私は今、うつ病の更年期の人なのだろうか。
 それでも、ベルソムラ錠10mgを飲むのをやめてからは、一時間は長く眠れるようになったので、良いのだけれど。
 
🍎 夜更けのタバコと罪悪感と

 午前三時に目が覚めると、どうしても、一服したくなってしまう。
 喫茶店のオープンシフト(開店準備から昼前まで)の仕事をしているから、このまま起きていても構わないのだけれど、なんとなく目にした『統合失調症の典型例』にあった『生活リズムの乱れ』が、私を困惑させる。
 どうしてこんな早朝に目が覚めてしまうのだろう。
 布団を抜け、そっと寝室の引き戸を閉める、
 洗面所の棚に隠すように置かれたタバコいれを手に、浴室に入る。
 換気ボタンを押して、そっとタバコを吸う。
 早くリスパダール錠を飲んで仕舞えば不安も焦燥も霧散するのに、時刻が早すぎて服用に戸惑いがある。だからタバコを吸うのだろうか。
 それとも私は喫煙者になってしまったのだろうか。
 電子タバコが普及してから、タバコの、あの独特の匂いは格段に減った。
 それが良いのか悪いのか、こうしてひっそり喫煙する者にはありがたい。
 別に夫から譲ってもらった電子タバコなので、隠れる必要はないのだろうけれど、『良いお母さん』の呪縛が、私にそれを許さない。
 もちろん、喫煙する母親を罵るつもりは毛頭ない。
 そして母親でなくとも。
 昔見たドキュメンタリー番組で、愛煙家の高齢の女性ピアニストの特集を見たことがある。彼女は実に自然にタバコを吸い、譜面を追い、美しい音色を奏でた。
 昔の外国映画では破天荒で、愛に溢れた母親の喫煙シーンはいくらでもあった。
 もちろん健康には悪いのだけれども。
 
 2本吸って、吸い殻を水に浸し、キッチンペーパーに包んで捨てた。
 風呂用洗剤を撒いて、入念に風呂を掃除する。
 うつ病と言われ、服薬するようになってからというもの、やたらに家の掃除をするようになった。これもアカシジアの一つなのだろうか。
 アカシジア。
 抗うつ剤などの服用でひき起こされる副作用の一種。
 ソワソワと落ち着きがなくなり、動かずにはいられなくなる症状。
 人によっては怒りを伴ったり、ぐるぐると歩き回る人もいるらしい。
 洗剤を流し、乾いたタオルで風呂中を拭き上げる。浴槽、鏡、床面、シャワーヘッド、シャンプー類のボトル。
 この頃にはすっかりタバコの匂いも消えていた。
 よくやく落ち着いて、洗面所に戻ると、まただ。
 洗面ボウルの脇に置かれたデジタル時計の表示。
 午前三時三十三分。
 もうずっと、この時刻。
 私は何かの呪詛にでもかけられているのだろうか。

 午前四時、我慢できずにリスパダール錠を服用した。
 リスパダールOD錠の服用を始めて以来、幻視も幻覚も幻聴も無くなった。
 今はただ、それが少し寂しい。
 音を立てぬように、床を掃き、廊下もトイレも掃き清め、モップをかける。
 洗濯機は階下に響くので回せないが、汚れた衣服をドラムに入れる。
 窓を拭き、洗面所とキッチンを磨いた。
 連日の作業で、どこも汚れたようには見えないが、これを連日繰り返す。
 連日、ルーティン。これが重くのしかかることがありませんように。

 午前五時。
 お茶漬け。紅茶。少し眠くなったので、珈琲。
 リスパダールの副作用か、飲んでしばらくすると眠気に襲われる。
 でも、もう数時間後には出勤なので、眠りたくはない。
 眠気を我慢すること十数分、次第に脳がクリアになってきた。
 朝夕の服薬と言われているリスパダール錠だが、私は最初の一錠を早朝に服用してしまうので、朝と昼にリスパダール、夕方に、睡眠前にと言われたレキソタン錠2 2mgを飲んでしまう。こんなことしてるから、生活リズムが崩れてしまうのだろうか。
 でも、このレキソタン錠2は、なかなかに具合が良く、服用すると活気が出る。
 朝昼晩でレキソタン錠2を出してもらえたら良いのにな。
 単に、リスパダール錠が1mgで、レキソタン錠が2mgだから、容量の違いなのかもしれないけれど。

 夜が明けた。
 真夜中から降り続けた雨も、小康状態となったようだ。
 今日はだいぶんに気温が下がるらしい。
 皆様の一日が、素晴らしいとまでは行かずとも、良いものでありますように。

 第15話に続く  
 

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