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難航せる「卓上万年カレンダー」開発①
お世話になっております。
富士リプロのTwitter(X)担当です。
カレンダーや手帳の売り場が充実するシーズンです。
新しいものは気分が上がりますね。お気に入りは見つかりましたか?
突然ですが、印刷会社である弊社の強みのひとつは、卓上カレンダーの印刷・リング製本・封入・納品を一貫で行っていること。
毎年お盆明けからカレンダーの仕事が忙しくなり、今まさに繁忙期といった感じです。
皆さまが手にすることになるタレントさんやアニメのカレンダーは、弊社で製造したものかもしれません。
そんな印刷会社が、2023年度内のローンチを目指してD2C向け紙製品ブランドを起こすことになった。
そして、年内ギリギリの23年12月25日に『ジデイク』という名前でオンラインショップをオープンさせます。
ジデイクオンラインショップ
ぬるっと始まった新ブランドプロジェクト、話し合うまでもなく商品はカレンダーと決まりました。
リサーチやブランディングと同時進行で複数の商品企画・開発を行っていきましたが、最初に手掛けて最後まで悩まされたのが、こちらの「卓上万年カレンダー」です。
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先に、万年カレンダーというものについて一般的な説明をしておきましょう。
万年(まんねん)カレンダーとは、年度が限定されておらず、今年も来年も再来年もずっと使い続けることができるカレンダーを指します。
木製や金属製・アクリル製など、素材はさまざま。
弊社の商品のような1日表示(日めくりやキューブなど)のほか、1ヶ月表示のものもあります。
長く使用するものなので、インテリアとしての価値を重視したおしゃれなデザインの商品が多いですね。
さて、『ジデイク』の万年カレンダーは紙製です。
前置きが長くなりましたが、その開発にそこそこ苦労した話が本記事の内容になります。
先出ししておきますが、開発は以下の図ような過程を辿りました。
商品名やキャッチコピー的なものを考える際、「何にこだわったのか」を振り返るために作成した資料です。
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企画
「欲しいと思うカレンダー案出して」で始まったD2C向け商品企画MTG。
2023年2月のことでした。
私は自他ともに認めるパワポ芸人(現在はCanva)であります。
メンバーの認識に齟齬が生じることを極度に嫌うので、初めから明確なイメージを共有できるよう図やイラストを描いて資料を作成しています。
以下のような商品案を出しました。
没案の供養も兼ねて、当時のプレゼンスライドの一部を貼り付けます。
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「(売れなくて)在庫が残っても何とかなるよう万年にしよう」
ということで上記のものたちはお見送りされ、オマケ程度に提案した超絶シンプル万年カレンダー案が採用されます。
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経験に基づく持論ですが、自分の意見や提案を伝える際「得体のしれない情熱や狂気によって他人を呆れさせ、戦意喪失させる」ことは大変有効です。
調査分析を徹底し、スマートな論理展開を繰り広げるってのは前提です。
どうしても通したい考えがあるとき・ライバルに勝ちたいとき、最終的に差をつけるのは狂気みたいなもんだと思う。
本気出せば黒歴史日記帳の商品化は実現したはず。
脱線しましたが、こうして万年カレンダーの開発を進めていくことになりました。
この商品には大きくわけて2つのものを求めています。
1. 組立時の安定感・ビジュアル・紙質によって得られる「高級感」
2. 日めくりカレンダーとしての「視認性の良さ」
その上で、ユーザーにとっての価値を以下のように定めました。
老若男女を問わず一目で日付がわかりやすいこと
カードをめくる際に倒れないこと
丈夫で長く使用できること
自宅/職場/店舗など場所を問わず使えること
シンプルだけど空間のアクセントとなるような可愛さ/おしゃれさ
用紙選び
プレゼン資料を見てわかる通り、万年カレンダー初期案には「独創性がない」んです。
他社の類似商品との差別化を図るため、まずは「紙にこだわって高級感を出す」ことから始めました。
弊社は印刷会社!紙の見本帳がたくさんある。
ここは神田!竹尾さんの見本帖本店まで徒歩で行ける。
とにかく紙を触りまくりました。
Instagram担当とともに色や厚さ、気になる紙を片っ端から書きとめ、竹尾さんへ試作用の紙を購入しに行きました。
紙は小さくカットされたものなら厚く感じられますが、そこそこ大きなサイズを手に取ってみると印象が変わります。
高級感のあるカレンダー台紙とするには物足りない厚みに、我々は「なんか薄いんよな」と思いながらGAボード-FSという紙を購入し、見本帖本店を後にします。
帰社して「なんか紙薄いんですよ!」と上司に言うと、「合紙すればいいじゃん」と軽く言われました。
(コストかけて)いいんですか!!!と大きめの声で飛びつきましたね。
合紙すれば厚くできるだけでなく、表裏で紙の色を変えることも可能。
これには狂喜です。
合紙(ごうし)
2枚以上の紙を貼り合わせ、紙の強度を上げる加工法のこと。
※同じ漢字の「合紙(あいし・あいがみ)」は印刷物の間に挟まれた紙。
枚数の区切りの良いところで挟まれたり、印刷の裏移り防止のために挟んだりします。「間紙」とも書きます。
試作
【驚愕編】~試作1号で見えた課題~
台紙の用紙は「GAボード-FS」か「カラープラン-FS」で悩んでいました。
合紙することで選択肢が増えたわけです。
異なる銘柄同士を合紙することもできます(貼り合わせづらい紙もある)。
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結局、台紙の表側のみ3色展開で、台紙裏側とカードの色は共通になります。
試作1号ができあがったのは5月上旬でした。遅い。
一見良さげな試作品だったんですが、「卓上万年カレンダー」開発における最大に厄介な課題がここで発覚してしまうんです。
数字や曜日が印刷されたカードをめくって、いろいろな日付にしてみました。
……!
4枚のカードの位置がバラバラやないか!!!!!
なんて不細工なんだろうと思いました。
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安直に高級感を「紙」に求め、カードをそれなりの厚さにしたせいで……!
これではいけない。
365日、どの日だって4枚のカードが一直線に位置しなければならない。
月・日・曜日をストレスなく読み取れるという意味での「視認性」を追求していかなければならない。
先に述べた顧客価値のうち、
老若男女を問わず一目で日付がわかりやすいこと
愚かにも、これはフォントの問題になるとばかり考えていたんです。
「視認性を高める」ためには「4枚の上下ズレを軽減させる」ことも必要だということが、このときになってわかりました。
このズレが気にならない人もいるのかもしれません。
でも、作り手が「不細工不格好あり得んくらいダサい」などと酷評した以上、弊社が世に送り出してはならないものになってしまいました。
これを克服できないなら商品化はしない、と決めました。
【悪夢編】~問題が次々に襲い掛かる~
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小さなカードには厚みがある。
4連のうち、最大枚数は月の12枚。
よりによって月カードの幅が広い(1枚あたり最も重い)。
めくって後ろにまわった分の重さで、表のカードが上に引っ張られるのは当然のことでした。
考えてみればそうだし、最初っから類似商品買って確かめておけよと思うし、「自分たちで考えてものづくりするの初めてだから」も通用しないけど、試作するまでわからなかったんですよね。愚かにも!
醜悪なる4枚バラバラをどうにかするため、試行錯誤しては新たな問題にぶつかって…を続けていくことになるわけですが、やがて我々はその悪夢に堪えかね、とある企業のもとへ設計のご相談に行くことになります。(次の記事で書きます)
【めくっても4枚のカード位置が揃うよう試してみたこと】
◆リング径の変更 → 意味なかった
◆カードの紙厚を薄くする → 意味なかった
◆営業本部長の妙案(!)
↓
「台紙にステージみたいな“でっぱり”をつけて、カードを乗せるかたちで支えられるようにしてみる?」
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本部長の案は光明が差した瞬間でした。
すぐに試作。金曜日だったのを覚えている。大変気分が良かった。
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――― これいけるやん!!!
――― 見た目も特徴的になって「独創性のなさ」がクリアになったねえ!
――― 出っ張り部分は名入れ(BtoB)もいけそうじゃない!?
などと喜んだのも束の間でした……
「コレ買った人、自分で折って組み立てられますかね?」
確かInstagram担当がこの言葉を放った。彼女は冷静であった。
「「「無理でしょうな!」」」
To be continued...