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難航せる「卓上万年カレンダー」開発②

お世話になっております。
富士リプロのTwitter(X)担当です。


ブランド立ち上げようか!の始まりから現在に至るまでの過程や運営のすべてに関わり、それらを記憶・記録し、語ることができるのは自分しかいないのに、語るつもりでいたのに、まだ語っていなかったんですよ。

語り部としての役割を果たすべく、死に物狂いでキーを叩いております。
死に物狂いとか言いながら甚だしく遅筆なのでどうしようもないです。


さて、弊社が運営する紙製品ブランド『ジデイク』で販売している「卓上万年カレンダー」という商品の開発について語る後編です。

前編はこちら

台紙の“でっぱり”が特徴的な「卓上万年カレンダー」


前の記事のおさらいを兼ねて、「卓上万年カレンダー」開発の流れをまとめます。

【きっかけ】
印刷会社である自社の強みを生かした万年カレンダーを作りたい
・紙製でリング製本
・他社商品と差別化できるような、見た目も機能も良い感じのやつ

【差別化・訴求ポイント】
1. 組立時の安定感・ビジュアル・紙質によって得られる「高級感」
2. 日めくりカレンダーとしての「視認性の良さ」
〈顧客価値〉
・老若男女を問わず一目で日付がわかりやすいこと
・カードをめくる際に倒れないこと
・丈夫で長く使用できること
・自宅/職場/店舗など場所を問わず使えること
・シンプルだけど空間のアクセントとなるような可愛さ/おしゃれさ

【開発課題①】
試作品を日めくりすると、4枚のカードの位置が不格好になることが発覚
→台紙に“でっぱり”を作り、カードの上下ズレを軽減させることに成功

【開発課題②】
“でっぱり”仕様にしたことで、折って組み立てるのが難しくなる
ここからが後編


難航せる「卓上万年カレンダー」開発①は、開発における悪夢の途中で切り上げたんでした。
悪夢はもう少し続くのでお付き合いください。


試作

【続・悪夢編】~目的が台無しになる~


「コレ買った人、自分で折って組み立てられますかね?」

2023年度「一瞬で夢から醒めた一言」大賞にノミネートされ、年末まで独走して大賞を受賞した言葉です。


で、我々が作って販売しようとしている「卓上万年カレンダー」も、一般的な卓上カレンダーと同じく平たい状態で販売し、購入者が台紙をスジに沿って折って組み立てる想定でした。

買うときやもらうとき、こんな状態が多いですよね

我々は折ることができます。設計や紙の特徴を知り尽くしているので。
試作品に初めて触れる総務部のTさんに組み立てをお願いしてみました。

「この状態から折って組み立ててもらえますか?」
「やってみます!」
(苦労している…)
「ごめんなさい。できなかったです…」
「いえ!ご協力ありがとうございます!」

Tさんの様子を見ていてわかったんですが、
折り方(ヤマ・タニ)がわからない
紙が厚くてそもそも折れない
…といった感じでした。

この時点でのマズいところを整理すると、結構マズかった。

“でっぱり”形状がユニークであるがゆえに組み立て方がわかりづらい
“でっぱり”があるせいで折る部分が多くなっている
厚い紙(しかも合紙)で折りづらい
全体のサイズが小さく、スジの間隔が短いせいで折るのにコツがいる
折る際に余計な力が入ってしまい、台紙が変形してしまいかねない

ユーザーにとって優しくないですよね。

完成図や組み立て方、注意事項の説明書きを入れたら良いってもんじゃないし、使う人にストレスを与えることがわかっていて商品を世に送り出すヤツがいるなら軽蔑します。
「別にいいんじゃない?」とか言うヤツが弊社にいなくて良かったです。


【組み立てやすくするために試してみたこと】
◆紙の目に着目

試作3_1~3_6

紙には「目」というものがあります。

紙を手で破るとき、まっすぐきれいに破りやすい方向がありますよね。
「破る方向に対して紙の目が平行である」ということです。
印刷において、それを「順目(じゅんめ)」と呼びます。

紙の目
紙の繊維の向きのこと。

・紙の目に沿うときれいに折れたり破れたりする
・紙の目に沿って丸まりやすい
…といった特徴を踏まえ、印刷会社では紙の目を考えて印刷物を作っています

「逆目(ぎゃくめ)」は「順目」の反対。
折ったり破ったりする方向に対して紙の目が垂直になることで、折りづらく破りづらくなります。

卓上カレンダーの台紙は、折り目に対し紙の目を「逆目」にすることが多いようです。

手書きで解説!卓上カレンダー台紙のこと

…ですが、開発中の万年カレンダーは紙厚やサイズのおかげで台紙の反りが目立たず、逆目にするメリットはありませんでした。

折りやすさは順目の方がまだマシだし、逆目にすると折り目で紙割れしやすくなる。
それなら順目で良し、ということになりました。


台紙は順目にすることが決まった。
でも、組み立てづらさは解決していない。
そして問題はもうひとつあった。

横から見た試作(底が浮いているのがわかる)

底面が安定しない。置いたときにグラつくのである。
しかも折っただけなので、せっかく作った“でっぱり”が伸びてしまう。
カード位置を揃える目的で作った“でっぱり”が役割を果たさなくなる。

そんなことがあっていいわけないだろ!


【組み立てやすくかつ安定させるために試してみたこと】
台無しにされた“でっぱり”の価値を取り戻し、安定を求める旅に出ます。
ここから台紙の底をいじり始めます。

試作3_3~3_6


◆底に切れ込みを入れ、“でっぱり”を固定する
→数パターン作成したけど、組み立てが複雑になるし安定もしなかった

試作3_4/底に切れ込み
試作3_5/底に切れ込み
試作3_5を横から見たもの


◆底部分で貼り合わせ、底を真っ平らにする
→リングで綴じる部分(上部のとんがっているところ)が開いていないため、“でっぱり”が伸びづらい
→底はツメを作って嵌め込めば安定感抜群になるけど、大変組み立てづらい

試作3_6(かっちりとしていて形としては好みだった)


どれもイマイチでなんかイヤでした。


時、すでに8月。
リアル悪夢を見るようになります。
自社のみでの開発は無理だと悟り始めました。



【救済編】~救世主現る~

9月上旬。
解決策を見出せずダラダラと続く悪夢に堪えられなくなった我々は、有限会社高田紙器製作所さま(東京都葛飾区堀切)訪問のアポを取り付ける。

高田紙器製作所さまは、紙にさまざまな加工を施して販促グッズや什器などを制作する会社。
アイデア豊富でものづくりにとても強い。


訪問帰りの、憑き物が落ちたような晴れやかな投稿を見よ。
スカイツリーなんか撮らせている。

さて、前後しましたが、9月6日に高田社長を訪問したわけです。
当日はこれまでの試行錯誤の流れをまとめた資料と試作品を持参。
(【試作③~】とか書いたスライドは、このとき用に作成した資料です。)

「このタイプのカレンダー、日めくりすると格好悪いんです」
「こういう“でっぱり”を作ってそれを解消したんです」
「でもそうすると買った方が組み立てられないし、安定もしないんです」
「どうしたものかと思いましてね」


高田社長は凄かった。
こちらの意図や希望、設計上の問題の瞬間的把握に拍子抜けした。
しかもその場で、すべてを解消する設計が頭に浮かんでいるようでした。

常に自分で何か生み出している人ってこんな感じかと嬉しくなりました。


「わかりました!こうなるのはOKですか?じゃあダミー作って送るので!」
という高田社長の心強い言葉に、商品開発悪夢編の終わりを確信。


もっと早くにご相談に来ればよかったね、高田さんまじメシアなどと帰りの車内で話していましたが、この日以来、試行錯誤といえば聞こえは良いが、それを必要以上に自力で続けるのは愚行であると考えるようになりました。


数日後、ダミーが届けられます。
“でっぱり”を差し込んで形を固定するという設計!

高田さんダミー:リング綴じ部分違い(開き/閉じ)と奥行サイズ違い(黒/白)の4パターン

カードを支えて位置を揃える“でっぱり”が、その役割を全うできている
平らな場所へ置いてもガタつかず、安定感がある
畳まれた底を広げるだけでOKなので、ユーザーに台紙を折らせる手間もない

神設計!!!


奥行のサイズ感はダミー白をさらに縮めた70mmに決定。
リングで綴じる部分の台紙が開いたものと閉じたものの2パターンで悩む、というのは楽しかったです。

開きは合紙した裏側のマスタード色がチラ見えして可愛いけど、2つのパーツを貼り合わせての製造です。
閉じはかっちりした頑丈な感じ、かつ型抜きした1パーツで済みます。

開いたものより底が安定するという理由で、閉じに決まりました。
閉じはリングがやや窮屈でカードがめくりにくかったのですが、リング径を変更することで解決します。

高田さんのホワイトダミー(上部が開いたものと閉じたもの)
実際の紙で作成していただいたもの(“でっぱり”差し込み前)

ほぼ完成したな……!と思いました。



【悪夢の最中の現実逃避編】

台紙の件で悪夢を見ていた時期、ソレから逃れるように月・日・曜日カードのフォントやデザインを進めていました。

フォントデザインに関する初期のもの(今見るとダサい)

「卓上万年カレンダー」にはマティスVというフォントを使用しました。
読みやすく、世代を選ばないと感じたためです。
ちなみに、「エヴァフォント」として有名なのはマティス-EBです。

上のスライドの通り、ベタ打ち(ベタ組)だとバランスが悪いので、字間を詰めたり広げたり、トータルで違和感のないように整えました。
これは営業本部長がやってくれた。


カードの紙の色もこの時点で変更を加えました。
最初は曜日だけが黄色でしたが、月も黄色にすることに。
メリハリがついて締まった気がします。

最終的にこのようになる

1枚目を日曜始まりにするか月曜始まりにするか、日は「0」か「1」か…とか考えていたんですが、2024年は1月1日(月)から始まったんですよ!

だから、カードをめくらない状態で「1」「0」「1」「Mon」になるようにしました。
この商品の発売開始日は2023年12月25日でした。



命名

商品名はかなり大事です。
こちらの商品はシンプルに「卓上万年カレンダー」になりましたが、とにかくアピールポイントを伝えにくい商品です。

命名大会時の資料

作り手としてアピールポイントとしたいのは「めくった際に生じる4枚のカード位置の上下ズレが軽減される」こと。

でもこれは伝わりにくい。伝えにくい。
「このタイプのカレンダー」を日めくりするとあんな感じになることを大半の方が知らない(こっちが勝手に騒いでいるだけ)から、どれだけ作り手が謳っても「不便に思ってたんです!こんなの欲しかった」とはならない。


どういうことか伝わらなくても、意地で入れたキャッチコピー的なもの
365日、4枚きれいに横並び

よんまいきれいによこならび、語感悪くないでしょ。

商品ラベルのイラスト

アピールが下手というのもありますが、発売以来「見た目がおしゃれ」ということで男女問わずお手に取っていただいているので十分嬉しいです。


カラーは「ボルドー」「ダークブルー」「ダークグリーン」の3色展開。
いずれも台紙に使用した紙(GAボード-FS)のカラー名称そのままです。

「さつまいも」「なす」「かぼちゃ」にすることも考えていました。
秋限定感が出て他シーズンでは購買意欲が下がるんじゃないかとか、「なす」は無理があるとかで却下となりました。



製造

台紙の2枚合紙・スジ押し・断裁・抜き加工を高田紙器製作所さまにご協力いただき、その後は弊社で穴を空け、カードをリングで綴じていきます。


リング製本は弊社の得意分野であると前の記事でも述べました。
当然、自動リング製本機を持っています。

しかし!
今回作るものは通常の卓上カレンダーとは勝手が違ったため、製本はすべて手動リング製本機での作業となりました。手動。

4連だし、小さいし、製本するのはクソ面倒なんですが、オンデマンド印刷部がきっちりこなしてくれました。

企画側と製造側の不和は多くの企業で起こるものだと思います。
最初から危惧していたし、最も気を付けたいと思っていたことでしたが、製造部門とのコミュニケーションは上手く行きませんでした。
こちら側が100%悪くて、現場に大変な迷惑をかけて結局折れてもらった。
本当にありがとうでごめんなさいです。


オンデマンド印刷部に製造をお願いする直前で微調整したことがあります。

「卓上万年カレンダー」をお手に取った方で、リングに違和感を持たれた方はいらっしゃるでしょうか。
敢えてそうした部分で、不良品じゃないよということを伝えておきます。


こちらの試作品では、リングの締めた部分がカードをすべてめくった表側にあります(赤丸)。

おそらくこうするのが普通。
表のカードによってリングが固定され、締め部分が隠れて見た目がきれいなんですが、その締め部分が邪魔でカードが浮いてしまう(上に引っ張りあげられてしまう)。

「月・日・曜日の4枚のカードを365日まっすぐ横一列に並べてみせる」
というミッションを完遂するために、脅威となるものは排除しなければならない。


だからこうした!
(下の写真:赤丸→青丸)

手前は完成品

リングの締め側は台紙の裏側に。
カードをリングでぶら下げ、“でっぱり”で持ち上げる。
できる限りそうなるようにしたかった。

リングがくるくる回るけど、1枚以上めくってしまえば気にならない

これが試作の最終形態となります。
微々たる変更が多くなってきたので、途中で試作何号なのかわからなくなりましたが、この形になったのは2023年11月9日のようです。



封入

商品ラベル(帯)はクラフトで!というのは、カレンダーの紙選びをしたときから決めていました。

巻いたらこんな感じ

このラベルは「情報」のためだけではなく、カレンダーを平たく折りたたむという「機能」を備えているんです。
手前味噌にはなりますが、この巻き方を思いついたとき、無駄がなくて最高にスタイリッシュだと思いました。

ここに通して
逆M字部分(底面になるところ)を畳んで巻き付ける
どうだ平たくなったろう

この帯を取って、底の部分をちょっと整えたらすぐ使える。
封入後の見た目も、使い始めるときの扱いやすさも、高田紙器製作所さまの神設計が効いてくる。


ちょうど良いサイズのOPPもありました。
表にラベルがかかっていないのが見た目のバランス的にも良かったと思う。

文具マーケット初出展の際の準備

2023年2月に企画会議的なものを始め、12月末に商品が完成しました。
思うように進まなかった時間がとにかく長かったです。



おわりに

2023年12月。
『ジデイク』のいくつかの商品をそれぞれ製造してもらい、商品撮影を行い、商品の封入作業を進めながらTwitter(X)でプレゼントキャンペーンを開始し、12月25日にオンラインショップをオープンさせて、年明け1月14日には文具マーケット(第4回)出展へ向けた準備をするというかなりギリギリでハードなスケジュールを何とかこなします。

この頃だったかな、Instagram担当と共に思考がブラック化したのは。
「金曜日はさ、帰らんかったら無限に時間があるように思わんか?」

圧倒的リソース不足が招いた事態ですが、良い勉強になりました。


商品の企画開発にあたっては、関係調整や役割分担といった進め方についても、商品そのものの設計や売り方・見せ方に関する知識や経験についても、いろいろな面で未熟さを露呈させてきました。
最初から最後まで上手くいったとは思っていません。

でも、徹底的にモノにこだわったことだけは褒めても良い気がします。

『ジデイク』というブランド名もコンセプトも、決まったのは最初の企画会議のずっと後でしたが、そのブランドを表す言葉のひとつである「こだわり」とかいうものがなければ、商品開発そのものがおざなりにもなおざりにもなって、結局頓挫していたと思います。

紙製品ブランド『ジデイク』のこと(ブランドについて書いた記事)


「卓上万年カレンダー」のビジュアルは文句なしにステキだと思うし、紙はいずれ劣化するとしても、長く使える丈夫な商品になっているはずです。

ぜひお手に取っていただきたい自慢の商品です。
『ジデイク』オンラインショップにて絶賛販売中。

卓上万年カレンダー
ボルドー
ダークブルー
ダークグリーン


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