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中央省庁の退職率が上がっているが

11月3日の日経新聞で、「データ編(4)キャリア官僚、若手流出続く 年100人超、5年未満多く」というタイトルの記事が掲載されました。以前は離職ということがなかったキャリア官僚の間で、離職が増えていることについて取り上げたものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

霞が関で幹部候補とされる若手キャリア官僚(総合職)の流出がとまらない。人事院が5月に初めて公表した調査によると、入省10年未満の退職者は2018年度に100人を超え、19年度に139人に達した。20年度も109人と3桁の数字が続く。

特に多いのが入省5年未満の層だ。17年度に35人だったのが、18年度に70人と倍増した。採用者総数に占める5年未満での退職率も15年度入省で11%に達した。近年は1年未満で辞める人も1%前後の水準が続く。

転職先の公開データはない。よく聞くのはコンサルタントのほか、民間企業で政府との折衝を担う渉外のポストだ。シェアリングサービスやフィンテックの拡大で、IT企業が従来あまり接点のなかった国土交通省や厚生労働省などと協議する場面が目立つようになった。

もちろん大量退職の根っこには中央省庁の働き方や待遇面でくすぶる不満がある。人事院は人数が少ない割に業務が集中する30~40代の処遇やワークライフバランス改善の支援などの手を打つが、人材流出を止める取り組みはまだ緒に就いたばかりだ。

上記から感じるのは、望まない離職を起こさないようにすることと、離職全体に対する評価とを、分けたほうがよいだろうということです。

組織の慣習が非生産的なためにうんざりしたり、本来は意義のある仕事でありながらもそのことを感じられないために展望を見失ったりして離職が発生しているのであれば、もちろん問題です。記事の内容からは、それらしいこともありそうな感じもしますので、組織的な課題かもしれません。

以前より倍率が低くなっているとはいえ、中央省庁はなんとなく応募して採用されるような仕事ではないと思います。高い志と仕事の目的意識、意欲を持ちながらも、本来望まないネガティブ離職となっているのなら、予防・減少させたほうがよいと言えます。

一方で、離職率では民間企業より格段に低いと言えます。新卒就職者の1/3が3年以内に離職するという目安からすると、5年以内の退職率11%は低く抑えられています。1年未満では1%です。民間企業ではなかなかない水準です。

同日付の日経新聞の別記事「「官邸1強」の後(4)草刈り場の霞が関  退職しても役所の仕事」では次のように書かれています。(一部抜粋)

「うちの人材のどういった点を評価されているんですか」。およそ1年前、国土交通省の幹部は東証プライム上場企業の担当者に遠慮がちに聞いた。国交省は課長補佐級の中堅の民間への転職が相次いでいた。この企業も受け入れ先の一つだった。

デジタルや金融のような専門的な分野では役所と企業が共同で規制づくりを担うことが多い。フィンテック企業freee(フリー)の小泉美果・金融渉外部長は「天下りではなく、役所と折衝できる人材の需要が高まっている」と話す。

小泉氏自身、総務省に約12年勤めた経験を持つ。銀行や証券、保険などの縦割り規制の緩和で21年11月から始まった金融サービス仲介業の自主規制団体で理事も務める。

海外企業も「ルールのプロ」を貪欲に求める。米アマゾン・ドット・コムは資源エネルギー庁の元課長、公正取引委員会の競争政策の専門家らを傘下企業も含め相次ぎ採用している。

人材の流動化がうまく進めば、経験を積んで様々なスキルを高める柔軟なキャリアを築きやすくなる。文部科学省出身で渉外コンサルのマカイラ(東京・千代田)の最高経営責任者(CEO)を務める藤井宏一郎氏は「米国などでは、政府から民間に出て専門性を高めた人材が政府に戻って政策決定や通商交渉で活躍している」と指摘する。

「回転ドア」は日本では終身雇用の慣行もあって根づいてこなかった。例えば厚労省は一部の技官を除き出戻りが事実上難しい仕組みだった。官僚の仕事にやりがいや展望を見いだせずに途中で辞める人がいるとは想像もしていなかった。

いま大量離職の危機で風穴があきつつある。厚労省の若手有志は19年、再雇用に道を開くべきだと提言した。21年度から退職者も対象にした採用制度が始まった。河野太郎デジタル相は「役所を辞めて民間に行った人に『デジタル庁に来ないか』というお誘いを真剣にやっていく」と表明した。

途中で辞める人がだれも出てこない前提で人材マネジメントを想定するのは、通常外の考え方だと言えます。現状のほうが自然だと言えるのではないでしょうか。

また、中央省庁出身者が民間企業で重宝されたり、民間企業を経験した後に回転ドア式に出戻りしたりすることは、人的資源の有効活用、官民双方での生産性向上という点で喜ばしいことだと思います。

以前、大学時代の学友が国家公務員として就職が決まったときに「一生勤めるわ。公務員は途中で辞めたらできることがない」と言っていました。今では、だいぶん景色が変わってきたのではないかと、両記事からは感じます。

中央省庁にこのような離職の選択肢ができたこと、離職による人材のポジティブな流動化も全離職ケースのうち一定の割合を占めていること、そもそもの離職者割合も民間企業に比べて高くないことなどを考えると、(トータルで悪化はしているのかもしれませんが)冒頭のタイトルの記事から受ける印象ほど事態が悪いわけではないように感じられます。あるいは、捉えようによっては、以前よりあるべき姿に近づいていると言えるかもしれません。

何をあるべき姿と定義するかによって、現状に対する評価も変わってくることのひとつの例ではないかと感じました。

<まとめ>
人材の流動化はあらゆる領域で起こっている。


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