オンラインレッスンの事例(2)
前回の投稿では、英会話教室の事業を展開しているA社の事例を取り上げました。コロナ禍によって教室事業が伸び悩んでいること、教室事業のオンライン化の難しさについて触れ、対面レッスンを単純にはオンラインに置き換えられないことを考えました。
一方で、A社事業の概況のもう1つの側面は、教育機関(学校や幼稚園等)向け事業の伸びです。
小学校・中学校・高等学校では、ALTと呼ばれる外国語指導助手(Assistant Language Teacher)の活用を積極的に進めています。皆さんの中にも、かつて受けた学校教育時代に、英語の授業で外国人のアシスタント教師がやってきた日があったことを覚えている人も多いと思います。ALTの効果的な活用ができている学校もありますが、そうでない学校が多く発展途上だと聞きます。そして、オンラインレッスンは、この従来型のALTの補完(あるいは代替)手段として相性が良いのだそうです。
授業でALTと話した経験のある人は当時の風景を思い出していただきたいのですが、ALTとうまく話せたでしょうか。私自身もそうでしたが、たいていうまく話せないものです。日本人にありがちな気質なのかもしれませんが、いきなり外国人の前に立たされても、児童は恥ずかしくてうまく話せないのです。
また、身に着けた文法や単語などが極めて限定的な状態でいきなり対外国人の実践ということに、物理的にも無理があります。持ちうる武器もほとんどなしに、敵に立ち向かっていくようなものだからです。そばにいるコーチたる日本人教師も、的確な指示を出すノウハウがありません。よって、ALTをなかなか活用しきれない現状があります。
これが、オンラインレッスンになることで、恥ずかしさを緩和してくれる効果があるのだそうです。企業活動でのコミュニケーションにおいては、「臨場感が対面に勝るものではない」という、オンラインの弱点が強調されることも多いものです。このことが、慣れないALTとの対話においては、恥ずかしさを軽減してくれるという逆作用をもたらすわけです。生徒からも、「かえって画面越しの方が、テレビを見ている感覚で、緊張せずにストレスなくできる」という反応もあることです。
また、周りにいる生徒も、ALTと話す学友を隣で「がんばれ」と応援したり、3人1組で協力し合いながら話すようALTから指示されたりすることで、会話が弾むそうです。そこに日本人教師も後ろから応援に加わることで、「奇妙な連帯」が生まれることもあるそうです。
A社営業担当者様も、「私は対面推進派だったが、ずいぶん印象が変わった。生徒が対面以上に英語で話そうとしているぐらいだ。日本人教師が、オンラインでALTと生徒が向き合う状況を、対面授業の環境以上に一歩引いて観察することができ、生徒の実際の会話力がどれぐらいあるのかをより客観的に把握しやすい効果もある。」と言います。オンラインレッスンに対する学校側のニーズはとても多く、特に地方圏の学校からは積極的な申し出があるそうです。地方圏では、そもそもALTを確保すること自体難しいという事情もあるでしょう。
幼稚園に対する事業展開でも手ごたえを感じているそうです。幼稚園は安全管理の観点から、学校以上に閉鎖的で、外国人を園内になかなか入れたがらないところも多くあります。その保守的な気質に、コロナ禍という環境変化がさらに拍車をかけたわけです。しかし、オンラインレッスンであれば、画面上に外国人を招待できるため、そのような制約も問題になりません。この1~2年で幼稚園向けのオンラインレッスン導入例が各地で出ているそうです。
レッスンのオンライン化はコスト面でも大きなメリットがあります。日本国内在住のALTの場合、継続的な出講を依頼すれば年間で数百万円かかります。しかし、海外在住の英語講師にオンラインレッスンで出講してもらえれば、大きくコストを下げられる可能性もあります。
例えば、フィリピン人はアジア圏の中でも英語力が高い人が多いことで知られています。また、学歴の高い人も多い一方で、フィリピンは以前から失業率が高く、名門フィリピン大学の卒業生でも職が見つからず失業している人が珍しくないそうです。現地の人材活用ニーズもあり、最近ではオンラインレッスンの事業所がにぎわっているエリアもあると聞きます。こうしたエリアで拠点をつくって日本とつなぎ、オンラインレッスンで出講できる仕組みをつくれれば、運営する企業、利用者、供給者である海外の人材の3者にとってメリットがあります。A社も、このスキームに発展の可能性を感じているそうです。
オンラインレッスンも、取り巻く条件とやり方次第によっては、発展の可能性があるという事例だと思います。
<まとめ>
レッスンのオンライン化が新たな市場をつくる分野もある。