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完全年功序列・家族主義で成果を上げる(4)

前回までの投稿では、万松青果株式会社の紹介記事をテーマにしました。同社が「年功・勤続年数序列・家族主義」を掲げてうまくいっている要因として、「年功・勤続年数序列・家族主義を掲げる理由を自社の存在意義と関連付けて明確にしていること」「自社の価値観に合った人の採用を徹底していること」「年功・勤続年数序列・家族主義を促す組織活動を日々徹底していること」の3つを考えてみました。

4つ目の要因は、多様な人材を受け入れていることです。

BizHint記事で専務取締役中路和宏氏は次のように話しています。(一部抜粋)

従業員が次から次に辞める時代が続き、本当に苦労しました。私自身も30年前の入社以来、長年の間、社員と折り合いが悪くて毎日会社にいくのが嫌で仕方がありませんでした。周りは自分より年上の人ばかりで、自分の考えが全く通じなかったからです。

私が入社した当時は父が社長でした。私以外の従業員は皆同じタイプの人達で、その中で私はいわば「異質な人間」でした。「会社を変えよう、新しい取り組みをやろう」という私の行動は、そういった人達にとっては心地よいものではなく、結果として居心地が悪くなり辞めていったのだと思っていました。

私もそういった状況に対して「彼らから気に入られること」を考えて行動した時期もありました。しかしそれでも従業員はなかなか定着せず、うまくいきませんでした。

振り返ってみると、 私は結局「自分が良かれと思ったことを一方的に押し付けていた」 と気付きました。日々、従業員が抱えている何かしらの問題やそれぞれの気持ちを最優先に考えていませんでした。

そのような「意識のズレ」に気が付かないまま接していたので、何をやっても従業員の理解は得られず、どんな取り組みも成果に結びつきませんでした。

――うまくいくようになったのには、何か変化があったのですか?

一つは採用の変化です。多くの失敗を経て、私なりに導き出した答えは 「当社の組織がうまくいくには、様々なタイプの人がいることが大事」だということです。例えば、市場で働く人というのは「健康で、力持ちで、はきはき返事ができる」というイメージが一般的かもしれません。しかし今、私はそういう方は採用しません。

「こんな人は私の周りにはいないなあ」と思えば、即採用します。振り返ってみると、いつも似たような人を採用していたんです。「こんな人」という基準がどこかにあって、それに沿った人を(良いなあ)と思って採用してしまう。似たものどうしというのは、うまくいかなかったんですよ。

この採用基準は従業員にも公言し、またそういった理由を説明した上で採用していますので、自然と異質な人を認める社風が育ちました。今当社にはいろいろなタイプの従業員がいますが、この方針がお互いを認め、フォローし合い、前に進んでいく組織に変化できた礎になったと考えています。

私は長年、会社での人間関係に苦労してきました。その結果、様々なタイプの人を採用し、それぞれを尊重する今の形に辿り着きました。そういった経験から、仕事の内容より「どんな人と仕事をするか」「その人たちと一緒にやっていける自分が想像できるか」が採用においては一番重要で、それがクリアできれば「仕事はなんとかなる」と思っています。~~

上記のような採用基準が他社でもそのまま当てはまるとは限りませんが、同社の採用に対する考え方をよく表していると思います。

「年功・勤続年数序列・家族主義」と聞くと、「同質のタイプの人で固めた組織」を思い浮かべがちかもしれませんが、その必要性はないことに気づかされます。私たちの身の回りにある家族も、家族内にいろいろなタイプの人がいるわけですので、それと同じことですね。

今組織における「多様性」が課題テーマとして各所で取り上げられています。組織として創造的なアイデアを形にしながら、イノベーティブな商品・サービスの開発や社内変革を実現させていくうえで、人材の多様性は大切だと思います。同社の例からは、多様性の観点から認識すべき人材マネジメントの考え方に気づかされます。

・自社の経営理念やビジョンに共鳴する同質の人のみを歓迎するのではない

・自社の経営理念やビジョンに共鳴しながらも、それぞれ異なる強み弱み・資質・志向性などをもった異質な人を歓迎し、マネジメントしていく

ちなみに、同社のユニフォームは一律ではなく、多岐にわたるデザインから従業員が好きなものを選べるのだそうです。青果仲卸という業種、年功序列・家族主義といった考え方からは、一律のユニフォームではないかと想像しがちです。しかし、このあたりも、「会社の経営理念への共鳴と実践は求める。しかし、そのことと、同質人材による一律的な働き方を求めることとは別である」という、同社のポリシーが感じられます。

IT関係の人と知り合って(ホームページ作成を)勧められました。当社は卸売業で取引先もほぼ固定だったので、「ホームページは必要ない」とずっと思っていました。新しいことに率先して取り組む性格ではあるのですが、いまいち目的が見い出せなかったんですよね。

でもふと「あ、やろう」と思ったのです。理由は 「当社の従業員とその家族に、会社の考えを伝える」ため。

実は私は、子どもの頃から家業である青果卸という仕事にあまり誇りを持てなかったのです。私は周囲の子どもと同じように、サラリーマンの家庭のような、いわゆる「普通の生活」がしたいと思っていました。朝ごはんに家族が揃っていない、生活のサイクルが他所とは違う……。当時は家業のことを漠然としか知らず、ただただ違和感を抱えていました。

それを思い出したときに、従業員やその家族が、当社の仕事や考え方を理解して、自分や家族の仕事に誇りをもってもらいたい、と思ったのです。そういった背景があるので、前述の「応募者の奥様がホームページを見て電話いただいた」という出来事は本当にうれしかったですね。

HPの作成目的も、「年功・勤続年数序列・家族主義を周知すること」としていること(それだけではないかもしれませんが)が明確に見てとれます。HPを見てみると、従業員の家族の写真も数多く掲載されていて、年功序列や家族主義などについて丁寧な説明がなされています。

このあたりからも、「自分はこの会社に合う・合わない」を明確に感じさせる効果があるはずです。自社の伝えたいメッセージを、メディアを自社なりにいかに的確に使って伝えていくかは、やはり大切なことだと思います。

以上、4回にわたって同社に関する示唆的な記事を参考に、会社の理念に合う人を集めて成果を上げるマネジメントのヒントについて考えてきました。振り返ってみると、同社の大切にしたい文化をつくって維持するために、相当な努力をしていることがわかります。

例えば、最近話題になることが多い「心理的安全性」についても同じことが言えると思います。「心理的安全性を追求しよう」と叫ぶだけで、それが文化として根づくわけでもありません。追求するために自社なりに何をどのようにやっていくかを定義して継続的に実践する。それによって目指す文化に近づいていくのだと思います。

<まとめ>
自社の目指す文化を実現させるために、何をどのように取り組むか決めて実践する。


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