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管理職の準備を促す組織的な取り組み

7月8日の日経新聞で、「女性管理職、「幸せ」の理由は 積水ハウス、やる気引き出す2年研修」というタイトルの記事が掲載されました。女性人材の管理職就任を促す取り組みを取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

日本では管理職への就任は敬遠されがちで、特に女性は消極的と言われる。だが積水ハウスが2023年、全社員を対象に実施した「幸せ度」調査では女性管理職のスコアが一般社員を上回った。昇進を目指す女性社員も多い。背景に実践的な育成プログラムの存在がある。時間をかけて管理職のスキルを教え、意欲を引き出している。

アンケート調査は日本の幸福学の第一人者でもある、慶応義塾大学大学院の前野隆司教授の監修で実施した。23年11月6日から27日にかけてグループ会社も含めて2万3117人が回答。設問は「私は自分の人生に満足している」「最近2週間は、熱狂した気分であった」など全114問で、「全くそう思わない」から「とてもそう思う」まで7段階で答える。これらの回答を100点満点で換算して算出した。

このうち積水ハウス単体の女性管理職155人の平均スコアは71.72点で、女性の一般社員(65.59点)を6ポイントほど上回った。男性管理職(70.73点)や男性の一般社員(65.96点)よりも高い結果となった。

女性の管理職比率はグループ全体で4.34%にとどまる。男性より少ない分、管理職に登用された際の喜びや責任感が大きい可能性もある。

「こんなに幸せな気持ちになるとは思っていなかった」。22年4月に初めて管理職に登用された、デザイン企画グループの足立奈穂グループリーダーは語る。

就任以前は仕事が増えると考え「大変だろうと思っていた」。実際には、部下に仕事を任せると「予想以上の成果物が出てくる。グループの皆が自分を支えてくれることに気が付き『ありがとう』と言う機会が増えた」と振り返る。足立氏に感謝されることが多いという部下の男性も「『幸せ』の好循環が起きている」と感じている。

上記から想像したのは、管理職の担うマネジメント業務について、偏ったイメージが先行しているのではないかということです。

私が仕事で関わる非管理職の人の間でも、管理職について魅力を感じないという話は多く聞きます。業務や責任が増えることに加え、「ハラスメントや労務管理への対応が厄介そう」「残業手当がなくなることも含めて、対価が割に合っていると思えない」といった声があがります。確かに、そういう面もあります。

そのうえで、同記事に見られるように、組織のメンバーに仕事を任せて全体で大きな成果物をつくりだすのを主導できる、その過程の中でメンバーと共に成長できるなど、本来のマネジメント業務のやりがいがイメージできていない人も多そうです。

知らないことはそもそもイメージもできません。マネジメント業務のイメージを持ってもらうために、本来のやりがいと、業務の進め方や壁にぶつかったときの対応方法の考え方など、積極的に伝えて吸収してもらう機会をもっと持つべきなのかもしれないと感じます。

同社は、自社なりのやり方でそのことを実現しているということだと思います。同記事の続きを一部抜粋してみます。

足立氏が「ここで学んだことを最大限生かしている」と語るのが、14年から始まった女性管理職育成プログラム「ウィメンズカレッジ」だ。同社の女性初の執行役員が創設に関わった。毎年20人近くの女性が参加し、業務時間を活用して2年間かけてマネジメントのスキルや考え方を学ぶ。

初年度は様々な企業の女性管理職がどのように課題を解決したかなど、ケーススタディーから学ぶ。2年目は各自が業務内容に応じた課題をテーマに設定し、解決状況についてプレゼンしながら報告する。最後には社長に対して10分弱、成果報告の機会も与えられる。

19年5月から参加した足立氏は「管理職になるための意識が高まった。特に『困っている部下を放置していると状況は悪化するばかり。絶対に放置してはいけない』と学んだ」と振り返る。新入社員に対して週に1度は面談するなど、部下とのきめ細かなコミュニケーションも欠かさない。

プログラムの創設当時は上司からの推薦を受けて参加する社員が多かったが「現在は本人が自ら手を挙げることがほとんど」(山田実和執行役員)だという。現場監督を務める女性が「会社で今、一番管理職になりたいのは私です」と立候補するなど、憧れも強くなっている。

積水ハウス単体の女性管理職は23年度で158人。プログラム新設後の15年度の37人から4倍以上拡大し、ロールモデルも増えた。時間をかけて実力をつける研修が、自己肯定感や意欲につながり、高い「幸せ度」にも寄与している。

世間では管理職になりたいと考える女性は少数派だ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが23年12月に全国5000人弱に実施したアンケート調査によると、課長相当以上の管理職を目指したいと答えた女性一般社員は15.5%にとどまった。男性一般社員の24.8%も大幅に下回った。

積水ハウスは育児休業の制度を拡充するなど、子育てと仕事の両立支援にも力を入れてきた。3歳未満の子どもがいる男性社員の1カ月以上の育休取得率は100%だ。管理職を「罰ゲーム」にしないために、社員が働きやすい環境の構築も必要になりそうだ。

マネジメント業務について理解を深めて関心を高め、必要なスキルを先取りするうえでたいへん有効な取り組みだろうと見受けられます。そのうえで、「ウィメンズ」に限らず、「メンズ」も対象になってよい内容ではないかと感じました(メンズ用の別のプログラムも存在しているのかもしれませんが)。男性人材も、案外このような機会のない会社が多いと思われるためです。

別の調査も見てみます。パーソル総合研究所の「働く10,000人 成長実態調査2022」では、「管理職意向」(現在の会社で管理職になりたい人の割合)について、2018年と2022年の比較で、次のようになっています。左から、2018年、2022年の結果です。

男性20-24歳: 47%、44%
男性25-29歳: 44%、37%
男性30代: 38%、33%
女性20-24歳: 19%、24%
女性25-29歳: 19%、20%
女性30代: 18%、18%

女性人材の管理職意向は、まだ低いながらも、若い世代ほど高まっている結果となっています。これは、各社による多様性推進や女性活躍推進の取り組みが高まっていて、それに若い世代ほど反応しているという、成果を見てとれるひとつの指標ではないかと想像します。同記事から連想すると、同社についてはこれらの数値を上回っていそうだと想像します。

一方で、男性は減少傾向です。

同じパーソル総合研究所による別の調査「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」では、各国で管理職になりたい人材の割合が、次の通りとなっています。左から、全体、男性、女性です。対象の18ヵ国・地域で、日本は最下位となっています。しかも、17位のオーストラリアから大きく数値が離れています。

1位:インド   90.5%、91.8%、88.5%
2位:ベトナム  87.8%、89.0%、86.5%
3位:フィリピン 80.6%、81.8%、79.1%
4位:中国    78.8%、79.3%、78.4%
5位:マレーシア 73.6%、82.3%、65.3%
7位:フランス  68.9%、74.5%、64.5%
13位:アメリカ  54.5%、65.7%、48.4%
17位:オーストラリア 38.0%、46.1%、33.1%
18位:日本    19.8%、27.0%、13.8%

これを見ると、ほぼすべての国で女性のほうが割合が低くなっていて、特に先進国と呼ばれる地域は男女差が大きくなるというのが、大まかな傾向と見てとれそうです。そのうえで、日本はそもそも性別などに関係なく低い傾向が見てとれます。

日本の人材投資は取り組みが不十分なことが指摘され、例えば対GDP比の人材投資規模や学びに使っている時間が、国際比較すると低いなどということがよく指摘されます。そのような結果が、こういうところにも表れているのかもしれません。

すべての人が管理職に向いているわけでもなく、すべての人が管理職を担うべきというわけでもありませんが、マネジメント業務について知り、必要な準備を促すための取り組みは、もっと行われてもいいのではないかと考えます。同記事の例は、そのことを示唆していると思います。

<まとめ>
マネジメント業務を知るための、体系的な機会をつくる。

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