
株式上場の意義(2)
前回の投稿では、株式上場の主なメリット・デメリットについて取り上げました。主なメリットとして、1.直接金融で資金調達できる、2.社会的な信用を得られる、3.経営権譲渡・事業承継がスムーズにできる、4.ガバナンス(統治)が効きやすい、の大きく4つとしました。デメリットとして、経営権の不安定化、コストの増大を挙げました。
https://note.com/fujimotomasao/n/n4b5c8a395c28
CAMPFIREなどを中心に、クラウドファンディングが盛んになりつつあります。クラウドファンディングとは、「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」を組み合わせた造語で、「インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達する」ことを指しています。
資金調達といえば、一般的に金融機関からの借入や関係者・ベンチャーキャピタルによる出資などがあげられます。クラウドファンディングは、そういった資金調達にはない「手軽さ」や「拡散性の高さ」、「テストマーケティングにも使える有用性」といった点が魅力的な新たな資金調達の仕組みとして近年注目されています。
中でも、「こんなモノやサービスを作りたい」「世の中の問題をこう解決したい」といったアイデアや想いを持つ人は誰でも“起案者”として発信でき、それに共感し「応援したい」「モノやサービスを試してみたい」と思った人は誰でも“支援者”として支援できる、双方にとっての手軽さがクラウドファンディング最大の特徴といえます。
クラウドファンディングは、資金や支援者へのリターン(特典)のあり方によって主に6つのタイプに分類されます。購入型、寄付型、融資型、株式型、ファンド型、ふるさと納税型です。(以上、CAMPFIREのHPから引用)
知人に教えてもらって気づきましたが、パナソニックなどの大手企業も、CAMPFIREを通じて資金調達して自社の新製品開発を行っている事例が散見されます。例えば目標金額の資金を集めて新製品を開発、開発した成果物を出資者への特典として届け、その後の大衆販売を目論むという例です。
なぜ資金力のある大手企業がわざわざクラウドファンディングで資金を集めようとするのでしょうか。もちろん、ファンを増やすための宣伝効果、テストマーケティングとして消費者の反応を見るためといった目的もあるでしょう。しかし、(憶測ですが)大きな効果が「開発のスピード感」ではないでしょうか。
大手企業は、何かと意思決定に時間がかかります。数十億、数百億円の余剰現預金のある企業にとって数百万円、数千万円程度の投資はさほどの財務インパクトはありません。しかしながら、一定額以上の予算を使うとなると、多くの管理職の印鑑が必要な稟議書、予算会議での審議、膨大な根回しなど多くの時間がかかるでしょう。調整している間に開発陣も疲弊し、外部環境が変わるなど経営戦略上も負のリスクが指摘できます。
クラウドファンディングであれば、投入するのは自社の予算ではなく外部の資金です。失敗して目標金額が集まらなければ、実行しなければいいだけです。「通常の予算充当は何かと面倒だ。こうした余計な手間がかからなくて済む」というのが、大手企業がクラウドファンディングを使う理由のひとつではないかと推察します。冒頭の4つのメリットのうち、直接金融での資金調達が、十分可能であるというわけです。
もちろん、クラウドファンディングで数千億円規模を集めるなどは、難しいかもしれません。しかし、新興企業でそこまでの規模の資金調達が必要でない場合は、上場して資金調達せずともクラウドファンディングで十分な場合も多いでしょう。株式上場という概念・方法が確立された時代には、このような方法はなく、株式以外の直接金融の方法がほとんどありませんでした。今は、このように資金調達の方法も多様化しています。前回のコラムで、「新興企業がこれから新たに上場を目指す意味はあまりないと考える」としたのも、このことが大きな要因です。
私は以前、株式上場を目指す新興企業に関わっていたことがあります。同社では当時のビジネスモデル上、時期による繁閑がどうしてもありました。よって、人件費などの固定費を大きく上回る売上が出せる月と、固定費の拠出が難しい月とがありました。しかし、「上場するには、単月でも黒字が続いたほうが評価が高い」という理由で、売上を捻出するための「押し込み営業」が、それ以前にも増して横行するようになりました。
加えて、準備のために監査法人に多額の費用を払う必要があります。その分も営業で取って来いという号令がくだっていました。規程や細かいことのルール化に執着する必要もあります。社員は疲弊し、次々と離職していきました。
同社では、設備投資を必要としない事業のため、資金調達は基本的にほとんど必要ありませんでした。その上で、何を目的に上場したいのかを尋ねていったところ、突き詰めると「経営陣のプライドと自己満足」だったようです(それだけではなかったようですが)。当時、案件対応のスピード鈍化や社員の定着の悪さなど、様々な組織問題が見受けられました。「上場を凍結すれば多くの問題は解決するのではないか?」と申し上げましたが、やめることはありませんでした。結局、今日時点でもまだ上場していないようです。
創業社長には、上場するというのが自身の夢となっている人が多いものです。上場によって自社が実現させたいこと、そのことに上場が必要不可欠である理由が明確化され、戦略がストーリーとしてつながっていれば、もちろん意義はあると思います。しかし、その夢が単に創業者の個人的な思いにしか過ぎないのであれば、お客様や社員にとっては何も関係ないどころか、害悪にすらなりえるものでしょう。
前回の投稿で取り上げた大山社長の考えは、この観点からも実に整理されたものだと言えると思います。もちろん、大山社長の場合は、非上場でもよい会社をつくるための考え抜いた方法論と実践の徹底が共存しています。これらあっての「自社は非上場でよい」という結論です。そうでない場合は、上場という方法を選ぶのもありでしょう。
上場の有無は、自社の理念、中長期のビジョンを踏まえた上で、判断することが必要です。
<まとめ>
株式上場のメリットと言われた要素は、別の方法でも実現できるようになってきた。