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自律型人材を考える(2)

前回は、自律型人材についてテーマにしました。自律型人材とは、やるべきことに対して他者からの指示なしで自ら行動できるだけではなく、やるべきこと・やりたいことが何かを自ら考え、行動できることなども持ち合わせている人材だとしました。

そして、従業員自身の側、企業の側双方を取り巻く状況から、一人ひとりが自律型人材であることがますます必要となっているということについても考えました。

それでは、どのような考え方やアプローチが、自律型人材の育成につながるのでしょうか。大前提として、「自立を経由して自律に至る」があると言えます。

このことをゴルフで例えてみます。私たちは、打ちっぱなし練習場に行って我流で練習しコースをひたすら回ることで、そのうちうまくなるだろうと考えがちです。しかし、一部のセンスのよい例外的な人材を除き、ほとんどの人はうまくいきません。(私も我流で何度か回ってどうにもならなかったため、現在凍結中の状態です)

スイングを我流で体得しようとするより、最初のうちはレッスンプロに指示してもらってその通りにひたすら振ったほうが、結局上達が早いわけです。この段階では、練習を心底面白いと感じる人は少ないでしょう。

やがて、言われた型通りのスイングが少しずつできるようになり、ボールがまっすぐ飛ぶようになって練習の成果を実感するようになります。自ら積極的に型を忠実に再現しようと行動することができるようになり、レッスンを卒業します。自立できたと言えるステージです。

さらには、型を自分流にアレンジしてより遠くに飛ぶようなスイングにしたり、キャディの助言を傾聴しながらも別の意志決定をしたり、キャディに逆質問をしながら意志決定して結果に責任を持つようになる。このステージに至ると、自律と言えるのかもしれません。当初からいきなり自律はできないわけです。

このことは、領域や時間軸の長さを問わず、あらゆることに共通しているのではないでしょうか。多くのスポーツでは、通り一遍の型をまず身につけることから始まります。教育は、まず義務教育があって、高等教育があります。義務教育では、学習者の意志に関係なく、大人や社会が生きていく上で大切だと決めたカリキュラム・学科内容を型通りに学ぶという要素が、その多くを占めます。自分が本当に学びたいと思うことを学べるのは、高等教育以降になるのが、ある意味自然なのかもしれません。

近年、知識の詰め込み教育だけではなく、思考力を高めるための教育が大切だという考え方が広がっていて、私もその考え方には賛成です。そのうえで、情報・知識を取り入れるという一定のインプットなしに、思考するというスループット、行動し何かを生み出すというアウトプットには至らないはずです。

そして、自立のために型を覚えるための取り組みは、えてして面白くないものです。国語や算数の義務教育で、「以前は解けなかった問題が解けた」というような、小さな達成感や面白さを感じる場面もあるかもしれませんが、それらの勉強プロセスの大半は面白くないでしょう。

リーダーシップ理論の中に、SL理論(Situational Leadership=状況対応型リーダーシップ)という考え方があります。担当している業務に関する部下の成熟度に合わせて、指導者の関与の仕方を調整しようという考え方です。SL理論によると、部下の成熟度に対する指導者の有効な関与の仕方は、下記のようになります。

<部下>           <上司>
1.能力低+意欲・自信高    指示中心型(高指示+低支援)
2.能力低+意欲・自信低下   指示・支援型(高指示+高支援)
3.能力高+意欲・自信不安定  支援中心型(低指示+高支援)
4.能力高+意欲・自信高    委任型(低指示+低支援)

1.のように、意欲はあるが担当業務についての知識や技能も持ち合わせていない初心者の部下対しては、指導者は指示命令中心で教えることに集中し、部下にはできることを増やすことに集中してもらったほうがよいというわけです。1.の状態でその業務を委任されても、部下はどうしていいか分からず困ってしまい、しなくてもよい失敗をし成果にもつながらないということになってしまいます。

3.や4.のようにできることが増えてきた状況では、あれこれ指示して管理せずとも、部下は相応に動いて成果を上げてきます。部下の裁量に任せて創意工夫を促したり自由に考えてもらったりして指導者はそれを支える、あるいは別の新しいステージ1.の業務を与えて新しい業務についてやり方を教える、というように、あるべき指導者の関わり方も変わっていきます。

上司として部下がどういう状態なのかを見極めたうえで、適した関与の仕方をすれば、結果として両者の満足度・生産性ともに上がるということを、SL理論は示唆しています。

前回から取り上げてきた「自立」と「自律」のテーマでいうと、1.2.は自立にも至っていない状態、4.が自立の状態、自律は4.に到達した先にあるもの、と例えることができるのかもしれません。

各社で時々聞くのは、従業員が新たに任された業務に対して1.や2.の非自立の状態であるにもかかわらず、いきなり自律型人材のような動きを期待され、期待と実態が一致せず成果が上がっていないということです。

例えば、プレイヤーとして与えられた仕事をやり切り成果を上げてきた人材を、期待の人材として経営幹部候補に抜擢したり新規のプロジェクトに加えたりして、「自発的に企画してみて」などと、本人にとって未知の企画業務をいきなり任せてしまうとします。中にはその状態からでもうまく企画を立ち上げられる適性の持ち主もいますが、大半の人はやったことがなければ戸惑って右往左往することになります。これまでの仕事で成果を上げ自立してきた人材であったとしても、未知の種類の仕事で自立、ましてや自律できるとは限りません。

プレイヤーがマネジャーになるのも同様です。自分の守備範囲の中で特定の業務に集中しているプレイヤーと、他者の仕事も含めて所属組織全体を取りまとめるマネジャー業務は、種類の違うものです。種類が違う以上、やり方についての知識をインプットすることが必要となります。

「マネジャー業務をやっているうちに、誰からもどこからもやり方を教わらなくても、なんとなく勘所をつかんでマネジャーとして自立してできるようになる」のは、一部の人材であって、すべての人材ではないわけです。しかしながら、十分なインプット機会のないままマネジャー業務を任せているという事象は、多くの企業ではよく見られることです。

前回も取り上げたように、私たちはこれまで以上に早い育成・成長を求める環境に置かれています。企業が個人が自立するまでの知識や技能のインプット、そして自律するまでの支援に時間と資金をどこまで投資するべきかというのは、なかなか難しいテーマです。そのうえで他方では、いろいろな分野で効率よく生産的に学べるアプリなどのインプットツールも発達してきています。

使える手段は有効に活用し、インプットの質と量を高めていく。インプットさえすれば自律に至るというわけではありませんが、十分なインプットなしには自律の手前の自立にも至らないというのは、確かだと言えます。指導者が直接教えるか、教材を指定するなどして独力で学んでもらうか、方法はいろいろありますが、少なくともインプットの方法を定義して提示することは指導者側のアクションとして望まれるところだと考えます。

今いろいろなところで言われている「リスキリング」という取り組みも、「より活躍できる領域で自立できるように、インプットをしましょう」というのがその本質ではないでしょうか。

続きは、次回以降考えてみます。

<まとめ>
自立を経由して自律に至る。自立には知識・技能の十分なインプットが必要。


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