オンラインレッスンを考える
前回の投稿では、日本人の留学者数の減少について考えました。留学には様々なハードルがあること、そしてそのハードルを軽減する方法のひとつとしてオンライン留学について取り上げました。留学に限らず、様々な領域の学び活動をオンラインレッスン化することについて、可能性の広がりが指摘されています。
ウィズコロナの社会生活環境下で、私たちの活動の様々な側面がオンライン化されてきました。個人の生活シーンも企業のビジネスシーンでもDX化がさらに進み、BtoC(消費者向けビジネス)もBtoB(法人向けビジネス)でも、オンラインでニーズを解決することが今後もさらに広がっていきます。そして、このことは、教育(レッスン)についても例外ではありません。
2000年代の初め頃から、eラーニングと呼ばれる学習形態が見られるようになりました。日本大百科全書の定義によると、eラーニングとは「インターネットやマルチメディアなど電子媒体を利用した教育システム」とされています。私もかつて2000年代初頭に、日本初のオンライン経営大学院で、eラーニングをベースにした修士課程で学んだことがありました。それまで、対面方式しか方法がなかった学びの領域でオンラインという方法が可能になったことを体験し、その斬新さ、発展性の大きさを痛感したのを覚えています。
それ以来、eラーニングは社会全体に普及していきましたが、講師がもっている知識を一方的に受講者に伝える「情報伝達型講義」を電子媒体に乗せただけに過ぎないものも多く見られました。しかし、今では学習者の能動的な参加を求めるアクティブラーニングに関しても、オンラインでかなりのことがなされるようになってきています。
また、コロナ禍をきっかけに、従来eラーニングと呼ばれてきた教育システム以外の分野でも、レッスンのオンライン化が見られるようになりました。今では、オンラインレッスンのサービス対象となる技能等は多岐にわたっています。代表的なサービスのオンライン英会話をはじめ、語学、音楽、アート、ボードゲーム、運動、料理、IT・プログラミングなどに広がっています。
「オンラインレッスン」を、ここでは「双方向の通信システムを活用し、インターネットを通じて何らかの知識や技能等を習得するための機会を提供すること」と定義してみます。この定義に沿うと、世の中にある、ありとあらゆる教えるための活動が、オンラインレッスンという形をとりうることになると言えるでしょう。
オンラインレッスンの市場規模はどれぐらいあるのでしょうか。上記のようにオンラインレッスンに当てはまる活動の方法・あり方は多種多様ですので、オンラインレッスンの市場規模すべてを明確に算出するのは困難です。例えば、英会話教室の市場の中でも、オフラインとオンラインのレッスンが何%ずつの割合で使い分けられているかを割り出して、それぞれの市場規模を特定するのは不可能でしょう。その上で、eラーニング市場の動向は、オンラインレッスンの市場全体の動向を概観する上で参考になるデータだと言えます。
矢野経済研究所による国内eラーニング市場に関する調査結果によると、2020年度以降のeラーニング市場規模は大幅に拡大中であることが伺えます。理由は言うまでもなく、コロナ禍によるeラーニング需要の高まりです。2020年度の国内eラーニング市場規模は、前年度比22.4%増の2,880億5,000万円になったことが見込まれています。2018~19年度は7~9%程度の伸びであったため、明らかに伸び率が高くなったことが見て取れます。そして、2021年度は3,100億円を超えることが予想されています。
内訳としては、法人向け(企業・団体内個人を含む)のBtoB市場規模が845億5,000万円(前年度比23.6%増)、個人向けのBtoC市場規模が2,035億円(同21.9%増)となっていて、法人向け個人向けどちらの市場でもコロナ禍による需要の高まりを受けて大きく市場を拡大させる見込みとなっています。
従来のeラーニングというカテゴリーに入らないオンラインレッスン市場についてはどうなのでしょうか。少し古いデータになりますが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2016年にまとめた調査事業報告書によると、「教養・技能教授業務」の売上高は8,697億円、事業所数は78,632となっています。その内訳は、スポーツ・健康が2,887億円、外国語会話が1,700億円、音楽が1,137億円、書道が224億円などです。これら市場規模の最新動向を把握できる有力な情報はなかなか見当たりませんが、2015年までほぼ横ばいの推移となっていること、そして人口減少といったマクロ経済環境から想定すると、この数字が現在まで横ばいか微減であることが想定されます。
そして、2020年コロナ禍発生以降の市場規模については、一時的な消費者行動の変化が含まれるため、実態の予測が難しいというのが実情でしょう。これら諸活動は衣食住の中でも不急のものです。コロナ禍発生によって消費者の支出が減少している分野も予想される一方で、旅行・外食といった需要を置き換えて伸びている分野もありえます。いつの時点でコロナ収束宣言がなされるのか、それによってこれらの諸活動への支出がコロナ前の水準に戻ったうえでどの程度伸びるのかは、想定が難しいところです。
しかしながら、確実に言えそうなことは、これら諸活動においてのオンライン市場は今後飛躍的に伸びるだろうということです。上記で見られる教養・技能教授業務の市場規模データは、ほぼすべてが従来型のオフライン形式によるもので占められているはずです。仮にウィズコロナ時代も市場規模自体が同等で推移したとしても、その内訳としてオンラインという業態が占める割合は間違いなく高くなります。個人の学習形態として、オンラインレッスンのサービスが一般化する環境がさらに加速化することは、eラーニング市場の動向を見ても明らかだからです。
加えて、巣ごもり消費という新たなライフスタイルが定着すれば、上記のeラーニングと合わせてオンラインレッスン全体で兆円単位の市場となって、さらに拡大していく可能性も期待できそうです。
こうして改めて市場の全体像をとらえてみると、レッスンのオンライン化には市場としてとても大きな可能性が感じられます。続きは、次回以降の投稿で考えてみます。
<まとめ>
オンラインレッスン市場は今後飛躍的な拡大が予想される。