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サーベイのフィードバックを考える

先日、ある企業様で組織サーベイのフィードバックを受ける予定があるというお話を聞きました。従業員満足度調査がテーマのサーベイのようです。そのサーベイ結果は、ほとんどすべての項目で他社の平均値等を上回っていて、他社水準と比較しても良好だということです。

サーベイを請け負った会社の担当者が、実施企業様に対する結果フィードバックに来られることになっていたのですが、事前のご連絡時の開口一番のお話が下記だったそうです。

「貴社の結果は大変良好です。ほとんどすべての項目のアウトプット数値が、実施企業全体の平均値を上回っています。改善を要するような目立った悪玉因子があまり見当たらず、当日何をフィードバックするのか困るぐらいです。」

一見すると望ましいお話のようにも見えますが、私は若干違和感がありました。それは、上記のお話は次の2点を前提にしているように感じられたからです。

1.ある項目要素で他社平均を下回っている場合、その項目要素は当該企業にとって問題となる。
2.フィードバックは、弱み要素についての指摘とどう改善するべきかを行うのが、その中心的な活動である。

1.について、他社平均を下回っている要素が、自社の問題になるとは限りません。問題とは、「あるべき姿と現状のギャップ」です。他社平均を下回っている要素が、自社のあるべき姿とあまり関係がなければ、問題にはならないのです。

従業員満足度に関して例えば、「仕事と生活のバランス」要素に対する満足度が低い企業があったとします。しかし、その企業が、非常に高い給与水準の企業で、かつ激務であることが業界内外でも有名で、入社する人も中にいる人もその前提で働いていれば、問題になる可能性は低いでしょう。「仕事と生活のバランス」要素に対する重要度認識が低いからです。

同様に、ある部署で雇用されている人の多くが、ライフイベント等の事情で仕事を限定的に行いたい、今は自己成長云々は必要とせず、ある程度の社会的な活動をしながら多少の給与をもらえればよい、と考えていたとします。この場合、同部署では「自己成長の機会」「十分な金銭的報酬」といった要素は、やはり問題になりにくいでしょう。

何が「問題」だと定義するのかは、当事者であるサーベイ依頼企業が決めることです。どの要素がどのような状態であったら、自社としては問題と認識すべきなのか、サーベイ依頼企業の側は整理しておくべきです。また、フィードバックを行うファシリテーターは、サーベイ結果を伝えながらその点も引き出すようなファシリテートが望ましいと思います。

2.に関連して、「フィードバック」の領域にお詳しい立教大学 中原淳先生のブログで、拝読した以下の内容を紹介します(一部抜粋)。

~~せんだって、演出家の鴻上尚史さんの著書「演劇入門ー生きることは演じること」を読んでいたら、興味深いことが書いてありました。鴻上さん曰く、

「この演出家の指示のことを、日本ではダメ出しといいます。僕はこの言葉が嫌いです。ダメだしということは、ダメ、つまりは、マイナスなことしか言われないということです。何が悲しくて、けなされるために、演出家の周りに集まらないといけないのでしょう。ここはよかったよ、とポジティブなことも言われるから、ひとは集まれると思うのです。英語では「Note」といいます。演出家のノートに書いてあるものを言いますよ、そこには、良いことも、悪いことも書いてますよ、という意味です。僕は、日本でも、この言い方が定着しないかな、と思っています」(同書p84より引用)
  
 まさに慧眼。この御指摘、日本にある「ダメだし文化」を批判なさっていると感じました。これと同様のことは、僕もいつも感じています。日本におけるフィードバックの多くは、謎のダメ出し文化に汚染され、いつも、負の方向ばかりに向きやすいと思うのです。

 フィードバックとは、そもそも「相手の行動のプロセスやアウトプット」にまつわる情報を、相手に「おかえしすること」です。それは相手にかえした情報が、相手の行動を補正し、相手が成果創出を行えるサポートになりうるからです。

 そして、そうした情報には、そもそも「ポジティブも、ネガティブも」ありません。また「辛口も、甘口もない」のです。ポジもネガも含めて、観察したものを「鏡」のように返せばいいのです。~~

フィードバックは上記の通り、問題を指摘して改善のためにすべきことを考えることだけが、活動内容ではありません。例えば、強み要素(あるべき姿に近づくために、武器として有効に使えるもの)を改めて認識して、その武器をどのようにより有効活用できるかを考えることも、活動内容の一部です。

同社様には、上記の視点を踏まえた上でフィードバックを依頼すること、サーベイ請負企業が善玉・悪玉を決めて各要素の報告時間の長短を決めるのではなく結果の事実をまんべんなく伝えてもらうよう依頼すること、の2点をアドバイスた次第です。

「他社に比べて」「他者に比べて」と聞くと、私たちは「平均志向」を持ち出して身構えがちです。そもそも、平均を下回る要素が問題とは限らないという点に、留意するべきだと思います。

<まとめ>
何が問題となるかは、組織・人によって異なる。


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