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ジェンダー・ギャップ指数を考える

6月22日の日経新聞で、「男女平等、達成率68% 政治・経済の壁なお 世界の格差指数 日本、過去最低の125位」というタイトルの記事が掲載されました。昨年の116位から順位を下げたというものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

世界経済フォーラム(WEF)が21日発表した2023年の男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中125位と過去最低になった。政治分野の低さが変わらず、経済分野は女性管理職比率の低さが足を引っ張る。世界全体でも格差はなお残り、WEFはこの差を埋めるにはあと131年必要だと指摘する。

調査は経済、教育、健康、政治の4分野に関する統計データから算出する。男女が平等な状態を100%とした場合、世界の達成率は68.4%。WEFは現状では世界での男女平等実現は2154年になると指摘する。

格差が目立つのは経済、政治の両分野。差を埋めるには経済で169年、政治で162年かかるという。国別にみると、首位は14年連続のアイスランドで91.2%。日本は64.7%、最も低い146位のアフガニスタンは40.5%だ。地域別では欧州や北米が高く、WEFは東アジア・太平洋地域の歩みが10年以上停滞しているとみる。ニュージーランドなどは上位だが、韓国(105位)や中国(107位)などは課題を抱える。

リポートでは労働人口に占める女性の割合が4割を超す一方、上級指導職の女性割合が10ポイント近く低い点も指摘。昇進を阻む「ガラスの天井」が依然存在するとした。

日本も政治(138位)や経済(123位)の低さが目立つ。経済は女性管理職の比率が133位にとどまるのが大きく影響している。働く女性がリーダー層になるにつれ減る構造がある。

23年版男女共同参画白書によれば、日本の就業者に占める女性の割合は45%で米国(46.8%)と大差なく、韓国(43.2%)より高い。だが管理職に占める女性比率は12.9%で米国(41.0%)を下回り、韓国(16.3%)より低い。民間企業の場合、係長級で24.1%いる女性が課長級で13.9%、部長級は8.2%に減る。

キャリアの階段が細くなる背景に何があるか。ロールモデルが身近にいないことや硬直的な働き方、家事・育児負担の偏りなどが指摘されるが、そのままでは企業の成長は期待できない。

ヒントはある。キリンホールディングスは入社後10年ほどまでに多くの業務を担当し、プロジェクトリーダーなどに挑戦する「早回しキャリア」で女性管理職育成を急ぐ。各段階で切れ目なく支援をし、「管理職手前」の層を厚くする。結果的に改善への早道になる。

経済で多様性がイノベーションを生むのはすでに世界の共通認識だ。投資家は組織の意思決定者に多様性を求め、取締役会が男性ばかりの日本企業にノーを突きつける。

この結果に関連し、周囲で「また日本が悪くなった」という感想も聞きましたが、必ずしも悪くなった、後退したなどとは言えないと考えます。ここでは3点考えてみます。ひとつは、この順位は「絶対評価」ではなく「相対評価」だということです。

絶対評価は、ある指標や基準に対して現状を可視化するものです。たとえば、オリンピックの競技で「100メートルを何秒で走ったか」の結果のスコアは、絶対評価となります。

一方で、「オリンピックでメダルをとったか、とったとしたら何色か」は、相手と自分を比べる相対評価です。仮に最終レースのライバルが皆不調であれば、自己最高記録や世界記録に遠く及ばなくても金メダルになるためです。逆に、皆好調であれば、自己最高記録を出してもメダルがとれないかもしれません。今回の指数は、この相対評価のほうに当たります。

日本の取り組みが後退しているわけではなく前進していて、他国のほうが改善の度合いが高かったからという捉え方が妥当なのかもしれません。

2つめは、上記にも関連しますが、順位だけではなく中身を評価するべきだということです。

別の記事を参照すると、前回1位だった教育が今回47位に下がっているのも、全体の順位ダウンに大きく影響しているようです。さらに内訳としては、「初等教育進学率」や「中等教育進学率」は完全に平等で1位、「高等教育(大学・大学院)進学率」が世界105位と順位を下げたようです。

しかしながら、日本で男性の進学者に対する女性の進学者の割合は97.6%のようで、極端に低いわけではありません。「ジェンダー・ギャップ」と聞くと、あからさまな差別的な扱いをイメージしがちかもしれませんが、(もちろんそうした要素もあると思いますが)イメージとは少し違う観点も要素に含まれているということです。

例えば、今年行われた統一地方選では、当選者に占める女性の割合は過去最高となりました。現状で十分というわけではありませんが、政治の領域でもギャップ解消に向かった動きにはなっているというのが実情ではないかと思われます。

3つめは、これらの結果から何をするかです。

もちろん、順位が下がったという現状にかまけていてはいけないと思います。そのうえで、「総合順位」という表層的な全体の結果も、そうなった要因を掘り下げてみると、何が影響しているのか、それは今後重要となる解決すべき課題なのか、課題であればどのような方策で改善していくかを決めて取り組む視点が大切だと思います。

その結果、例えば「このテーマに関連して近年取り組んでいる○○は概ね妥当で、効果が出るのはもう少し後になってからだろうから、引き続き今の取り組みを維持するべき」といった可能性もあります。

私たちが身を置く組織においても、こうした考察で現状評価することで目指すべき方向性が見えやすくなると思います。

ちなみに、同記事には「差を埋めるにはあと131年必要」とありますが、見方によっては、社会が何百年あるいは千何百年かかけて解決できてこなかった問題が仮にあと131年で解決できるのなら、ものすごい発展と進歩と言えるのかもしれません。

<まとめ>
相対評価の結果の中身を考察する。

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