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安物の指輪を捨てられない

今年の3月に指輪を買った。ショッピングモールに入っている名前もよく覚えていない雑貨屋で買った1000円ちょっとのもの。
素材とかは詳しくない。チタンとかなのかな。わかりません。
DNA構造をモチーフにした可愛いデザインだった。指が太いから薬指には入らなくて、小指に嵌めると少し緩い。それでも世界一可愛いなと買った当時は思っていたし今も思っている。

突然ですけど夢女子という人たちがいて、私もそうだ。
夢女子については調べてください。
好きな男の子がいる。迷惑になってはいけないから名前は出さないけど、自然が好きで穏やかな男の子だ。彼がホワイトデーのプレゼントに贈ってくれた
という設定で指輪を買った。本気4割冗談6割で買った。恥ずかしさと嬉しさでウキウキして、友達にLINEを送ったりもした。


買ったその日のLINE

ドキドキした。楽しかった。ツルツルでキラキラの指輪を帰り道ずっと撫でていた。
入浴時に『お湯につけたらダメかも!』と思い外してリビングに置いていたら母がふざけて嵌めて遊んでいたのでもう二度と手の届かないところに置くようにした。

私の1年は本当に恥と愚かさで塗れていたことがフォロワー、友人、これを見てくれていた人たちには分かると思う。沢山怒られたし呆れられただろうという反省もある。
自分の人生がどうにか変わってほしいと暴走していた。調べ物したり支援してくれる人に相談したり。 その時も指輪をお守りみたいにつけていた。 好きな人からもらったお守りだからって思えた。

夏に転職した。障害者支援をしてくれる職場だ。最初の1ヶ月はぼちぼち行っていた。
9月。謎の頭痛で休みが増えた。精密検査をしたけど結果が分からなくて今も薬を変えてどうにかしている。
冬の終わりまでの毎日、頭痛と気分の落ち込みで通勤途中にあるコンビニに車を停めてべそべそ泣きながら休みの連絡を入れた。みっともないと思った。
出勤だからと外しておいた指輪を泣きながら嵌めなおした。安心できるのがそれしかない朝が続いていた。

見ないようにしていたが、塗装の剥がれ、肌に触れる面のザラつきが目立つようになった。
眩しかったゴールドは剥がれて中の銀色が見えたし、サビのような感触が気になった。修繕方法を調べたけど結婚指輪のような高級品ではないしそういった修理サービスは分からなかった。
肌に悪いから外しなさいと親に言われたがどうしても外せなくて応急措置だけして今でもつけたままだ。
好きな男の子にもらったという設定はもう薄らとしか残っていなくて、純粋なお守りとして離せなくなっていた。

似たようなデザインは見かけるが同じものはもう売っていない。プチプラのアクセサリーも流行りの移り変わりがあるのだなと思った。
多分人から見たらみっともないだろうなと思う。どこかで落として失くす時が来るかもしれない。
それならそれで良い。自然な流れで失くすのは『なんかそういう運命だったんでしょうね』と流せるから。
ただ、自分で捨てるとなるとそれは、なんか、今年の自分の悪足掻きとちょっとの功績と思い出を捨てるみたいで嫌だ。

実際外して捨ててしまえば案外それでも納得するかもと思うけどそれもできないから愛着が湧きすぎた。重症だ。
でも、ぼんやりと考えているのはちゃんと健康で仕事に復帰できて人並み……とは行かなくても平均点くらいの人間ムーブができるようになったらその時は、ありがとうの気持ちを込めてさよならができたら良いと思う。一人で立てる人間になれたら良いと思う。
なれるだろうか いや、わかりません。ちょっと保留にしときましょう。

失われた輝きと艶。
9ヶ月分の思い出と錆を捨てられないまま私は年を越すことにしている。
来年は捨てられるようになっていたら良いと思う。

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