【カオス病院 #12】ギャルばあちゃん
私の病院は変な人……もとい、個性的な人が多い。
あまりにキャラが濃いので、ベテラン看護師から
「本当……なんっなの、この病院は! 変な人多すぎ! こんな病院初めてだよ!」
「本当だよね……もう辞めたい……変人に付き合ってられないよ……」
という悲痛な声を聞いたことがある。なぜこんなに変人だらけになってしまったのだろうか。地理的な要因なのか、何かの呪いにかかっているのか……神のみぞ知る。
キャラ濃い軍団の筆頭者であるのが、ギャルばあちゃんだ。名前は渋谷原子(しぶやはらこ)さんという。彼女は、最近米寿を迎えた高齢のご婦人である。うちの病院へは、主に血圧の薬のために定期通院している。これだけであれば、いわゆる普通のおばあちゃんなのだろうが、彼女は決定的に他のおばあちゃんとは違う点がある。
そう、彼女はギャルなのである。
こうして書くと、ギャルの定義について考えさせられるが、一度会ってみたら誰もが納得すると思う。
「ヤッホー!」
「あ、渋谷さん! こんにちは!」
渋谷さんは挨拶も若い。化粧もつけまつげを付けたフルメイクだ。
今日の彼女のファッションは、ニット帽と大胆に胸元が開いた黒のカーディガン。紫のタイトスカートからのぞく網タイツがまぶしい。そして極めつけは10センチヒールのブーツと、爪から3センチくらいはみ出した付け爪だった。うーん、今日もなんてファッショナブルなのだろう。
彼女の姿を見ると、いかに自分がつまらない人間か思い知らされる。
「付け爪、可愛いですね」
「でっしょー? でもね、これ……百均なの~!」
「えぇー! そうなんですか! さすが渋谷さんですね」
付け爪にはしゃぐ私たちは、会話だけ聞いたら完全に同年代だ。
「あ! でもヒールは本当気を付けて下さいね? 雪も降ってますから……ぺったんこ靴の私でも転ぶことありますし……」
「大丈夫! 超ゆっくり歩いてるから! それに、ヒールで美脚見せは欠かせないからね~」
彼女は数多くの変人の中でも、楽しいタイプのめんどくさくない変人なので皆に慕われている。
「網タイツ、めっちゃ攻めてますね!」
「これね~チュチュアンナで買ったの~! ほら、今日は服が地味めだから、アクセントがほしくって」
正直、アクセントどころではないが、不思議と似合っているのが渋谷さんのすごいところだ。
「なるほど! 確かに今日は色が控えめですもんね。勉強になります~」
渋谷さんファッションは勉強にはなるが、自分では絶対に真似しないので参考にはならない。雑誌で例えるならば、渋谷さんはeggで私はBAILAなのだ。
「じゃあ、私これからWEGO行くからまたね!」
「お大事に~!」
歳を取れば取るほどに、新しいことを受け入れるのは大変な労力だと思う。多少難があったとしても、古くて履き慣れたゆるゆるのパンツを履いてしまうように、現状維持で精いっぱいになりがちだ。
でも、それではいつまでも時代に取り残されたままだ。手間やお金がかかっても、新しい何かを吸収していくことが、若さの秘訣なのかもしれない。
著者:藤見葉月
イラスト・編集協力:つかもとかずき
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