【カオス病院 #14】ブラックリスト入りした男~大暴れ編~
(前編「ブラックリスト入りした男~襲来編~」を見てね!)
ガンガンガンガン!!
突如、診察室の扉をたたく音が急に鳴り響いた。
「おい!! 紹介状まだかよ! おっせーよ! ふざけんなァァァ!」
「ひぃ!!」
私はすぐさま再び用心棒・筋さんを呼び出し、対応してもらった。遠くでクレーマーさんの怒鳴り声が聞こえる。
私は必死に紹介状を作成するが、まともに診察もできなかったため内容に非常に困っていた。紹介先である無難病院の人達にも申し訳なく、思うように文章が浮かばなかった。
言い訳をすると、紹介状の作成はクラークの業務の中で一番難易度が高く、本来であれば時間をかけてゆっくり作成するものである。作成に一時間以上かかる場合すらある。
クレーマーさんの怒鳴り声による恐怖も相まって、私は極限状態だった。ほとんど感覚のない指で必死にキーボードを叩いた。画面の文字がグニャリとゆがむ。
更に、見るに見かねた他の患者さんがクレーマーさんに怒る声や、筋さんの必死に仲介する声が聞こえてきて、プレッシャーで泣きそうになった。
結果的に10分ちょっとで書き上げることができたのだが、私にとっては永遠にも思えるような時だった。
「……できました!」
乙女先生に確認してもらい、なんとかクレーマーさんに紹介状を渡す。クレーマーさんは私から奪い取るように受け取った。
そして突然その場で携帯を取り出し、電話をし始めた。
「今、カオス病院なんだけどー。うん。そう。具合悪いの」
ここでは電話は禁止だが、とにかく一刻も早く帰ってほしかった私は黙って見守っていた。
(家族に迎えを頼んでいるのかな……?)
ほどなくして病院の玄関に到着したのは、クレーマーさんの家族が運転する車ではなく、救急車だった。
救急車から隊員たちが困った表情で降りてくる。
「あのー、救急車を呼ばれた方って……」
「あー、おれおれ!」
「え!?!?」
なんと、さっきの電話の相手は119番だったのだ。
私の反応で全てを悟ったのか、隊員さんたちは救急車を容易に呼ばないでほしいことを話し始めた。もちろん素直に聞くはずもなく、クレーマーさんは語気を強める。
三度目の騒動に筋さんをはじめとしたスタッフたちが集まってくる。
「ったく、なんだよ! お前らムカつくなぁ!」
暴れだすクレーマーさんを筋さんが素早く羽交い絞めにする。放せ! と暴れるが、びくともしない。そしてついに事務長が現れた。
「これ以上は警察を呼びます。申し訳ございませんが、他の患者さんの迷惑になりますので、うちの病院へは今後一切立ち入らないでください。これはその誓約書です。もし立ち入られた場合は問答無用で警察を呼びます。ここにサインして頂けますか?」
事務長が幻とも言われる出入り禁止の紙を渡す。
「あぁ!?!?」
「……警察呼びますね」
「待て!! ……サインします」
さすがに警察はまずいと悟ったのか、大人しくサインをした。
誓約書を投げつけ、
「もう二度とこんな病院にはこないからな!!!」
と捨てセリフを吐き、手に持っていた紹介状をその場をビリビリに破り捨て、立ち去った。
その場にいた全員が唖然としながらも胸をなでおろした。緊張の糸が切れ、和やかな空気が流れる。
……私一人を除いて。
私は、無残にも粉々に散らばった紹介状に釘づけになっていた。
あんなに頑張って書いたのに……。
強い風が吹き、粉々の紹介状たちは宙を舞い、どこか遠くへの空へ飛んで行った。
著者:藤見葉月
イラスト・編集協力:つかもとかずき
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