解放論的質的研究
堀正嗣著「障害学は共生社会をつくれるかー人間解放を求める知的実践ー」明石書店を読み、初めて知ったのだが、自分自身の質的研究の立ち位置そのものだと感じたし、当事者性を肯定的に取り扱う質的研究を進めるうえで非常に重要と思われるので紹介する。
・解放論的質的研究は、従来の障害研究の批判に立って開発された障害学の研究方法である。p58
・「解放論的」パラダイムは、「障害をつくり出す構造及び過程を組織的に脱神秘化すること、そして障害者のエンパワメントの促進のために、研究共同体と障害者の間の活発な対話を確立すること」p59
・「障害の社会モデル」に依拠する研究である。p60
・解放論的障害研究の原則(p60~)
①統制:研究過程全体にわたり障害者の参加がある(ここでいう「障害者」とは、「位置的主体化」を果たしている当事性を担っている人である)
②説明責任:研究結果の意味するところを、障害者を含むすべての関係者に対して適切な方法で公開する
③実際的な成果:生活の中にある無力化する障壁に対して障害者がより良い位置に立てるように努める
④障害の社会モデル:障害の社会モデルを厳守する。障害に関わる問題に対する全体的なアプローチを求める障害者の要求を反映している。解放論的障害研究は障害者と彼らの家族が直面している経済的・構造的・文化的障壁に焦点をあてる
⑤「客観性の問題」と厳格な方法論の必要性:研究者は存在論的・認識論的位置を明確に公表する
⑥研究方法の選択:研究方法の選択はプロジェクトのニーズおよび障害者の要求を反映したものである
⑦経験の役割:有利で恵まれた立場の多数派である健常者のニーズに沿って組織されている社会によって障害者が無力化されていることを明らかにするために、障害者の経験・ナラティブ・物語に関する議論は環境的・文化的文脈に明確に位置づけて行う
・参加型研究のプロセス(p67~)
①問題を記述する
②なぜ解決が必要なのか
③問題の原因は何か
④どのように問題を解決すべきか
⑤解決により得をするのは誰か
⑥新たな問題が発生したか
→受け入れられる場合→⑦解決策を実行する
→受け入れられない場合②に戻る
・「当事者研究」について(p69)
当事者研究では、自分自身の困りごと(問題)を語る(記述する)ことから始まり、「解決策を実行する」ことで終了する。そのすべてのプロセスを当事者が仲間との共同作業を通じて行うという意味で、究極の当事者参加研究だといえる