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菩提酛どぶろく仕込み

菩提酛どぶろくづくりは、不思議なベールに包まれた神秘的な発酵でありながら、当たり前のようなわたしたちの暮らしの中で育まれ、尊い文化として脈々と繋がれてきました。
かつて今のような設備がない時代、水とお米だけでぶくぶくと泡立つ発酵を初めて見たわたしたちの先人は、一体どんな気持ちがしたことでしょう。
わたしは、「やっぱり」と思ったのではないかと思います。
それは、確信に近いものだったのではないか。
今も昔も、生きていると「もしかして」と思うことに幾度となく出会います。まさか、そんなばかな。でも体中が反応して警鐘を鳴らしている。
間違いない、と訴えかけている。素肌が泡立つような感触。ずっと前から、知っているような気がする。懐かしい。
頭では納得がいかないのに、細胞が証明している。

菩提酛づくりのどぶろくは、まず『そやし』という乳酸発酵水を育てることから始まります。
必要なのは、お米とお水だけ。日本酒の造りに使われる洗練されたお米とは違って、食卓で頂くのと同じお米粒を使います。
そんなお米を生のまま水につけて、その中におむすびひとつ。
毎日一回それをもんで、何日かしたらその液体は白く濁り、爽やかな酸味が出てきます。
水面には、ぷくり、ぷくりと小さな泡があがって、集まっては弾け、また下からぷつぷつとあがってきます。
4~5日して酸っぱい匂いが強くなってきたら、漬けておいたお米と包んであったおむすび、そやし水に分けて、そこへ出来立てのこうじを投入。
ぱらぱらと拝むように手でほぐしながら、水麹をつくります。
ざるあげしたお米は蒸して、人肌程度に粗熱がとれたら水麹とよく混ぜて、最後にとっておいた🍙の中身を上に塗って、仕込み完了。
次の日は、そのおむすびペーストも中に混ぜ込んで、全体に新しい空気がいきわたるように混ぜます。
気温にもよりますが、何日かそれを続けていると、醪がとろりと溶けてきて、甘い香りと味がしてきます。
発酵が進むと、ぽつ、ぽつ、と話し始めます。
さらにそれを何日か続けていると、今度は甘さの中にお酒のような味がし始める。
どぶろくの誕生です。

なんてことはない毎日の中にうまれたもうひとつの命。それがどぶろく。
何度も仕込んでいると、それが当たり前になりそうになりますが、本当はそうじゃない。
今日もたくさんの命が生まれて、死んでいく。
わたしたちは皆その狭間で出会い、別れます。一瞬の出来事です。
どんなに大切な家族や友達でも、一緒に暮らしている動物でも、そのいのちが重なり合う時間はほんの僅かです。
ぷくぷくと生まれては消えていく泡を見ていると、人として生まれたいま、そのかけがえのない時間の中でできることは何かなと、考えます。
微生物たちは、生まれて繋いで死んでいく。
何の疑問も持たずに与えられた条件に反応し、できるだけの役割を果たし、去っていく。
そしていつか戻ってくる。使命でもなく、運命でもなく。

こんななんてことのない日常の片隅に、この菩提酛は息づいていて。
その呼吸を感じていると、「やっぱり」と、思うのです。
わたしは、これを知っている。ずっと。

かえってきたいのちに、何度も何度も別れを告げて、また明日、また明日はって。
泡が消える前に。静かな海の前に。

Reaching out to heaven.

届くことのない天に、そっとやさしく触れるような行為。
いつか本当に届く日は来るのだろうか。



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