中国で食材と戯る。(39) サーモン-1 アイヌ伝統の珍味 mehun
サーモンを捌く。 2022.1
" 三文鱼 san wen yu サンウェンユュ "、中国の刺身一番人気、サーモン。
もっぱら輸入物ですが、私のしる中国の20年、ずっと氷鮮ものが扱われていました。産地は様々、ノルウェー、デンマーク、チリ、ニュージーランド、などの大西洋サケ、アトランティックサーモンです。
早い時期には、売れずに冷凍されたもの、あるいは冷凍魚として輸入されているものも多く、2通りの価格で業者が納品していました。
年々、養殖の産地での質の向上、空輸から各地への配送(物流)の向上、中国での日本食を筆頭とする消費環境の向上が進み、見違えるような良い品を受けとることが可能になっていました。
私が好んで使用したのは、” 丹麦产 dan mai chan ダンマイツァン " =デンマーク産の 7 kg 前後。脂を好む中国人には” 挪威产 nuo wei chan ノーウェイツァン "= ノルウェー産が人気のようです。” 智利产 zhi li chan ジーリーツァン "は、
遠くから来てる割に20%程( ノルウェー/ デンマーク産との比較 )安く、脂のノリ、身の味、共にワンランク下、といった感じ。
鱗引きは、やはり左手の方が早く、牛刀を使用。
捌くときに右で出刃包丁という私の変態スタイル。
適度な脂と、風味の良い身の味。お気に入りのデンマーク産。使いやすい大きさに切り分け、冷凍してから刺身に使用していました。( アニサキスなど、寄生虫対策として昔からされてきた刺身サーモンへの段取り )
現在の水質管理の行き届いた養殖物はおそらく、そのまま生食に堪え売る食材かとも思えるのですが、魚屋、仕入れ業者が確固たる情報や証言を一度も示さなかったので、かつて日本で覚えた対策をできるだけ施すようにしていました。
外での飲食などで、見かける様子からすると生のままの方が鮮度良く価値があるような売り方をしているように見えたので多分、大丈夫なのでしょう。
中国、杜撰な食品や偽物は相変わらず横行していましたが、外国人の扱う類や外からの物に対してはかなり厳しく安全基準を作りますから。
食材に対してのリアルな情報が細かく伝わってこないのが、日本人一人仕事の厄介なところであります。昔のように、まず日本人に味見させたり、使い方を聞こうなんてことが必要ない時代に入っています。
なんなら、外国人より俺たちの方が最新のモノ知ってんだと言わんばかりに後回しにされたりもする。
優先的にサンプルや情報がこないのが地方出店の定め。食品業者ではないですが、世界からの食材の中国新規進出情報や商品を得るために、食品博覧会へ足を運んだ上海での仕事が懐かしくなります。
サーモンを受け取る。 2022.7
それはとある夏の日。仕入れのタイミングから、サーモン一本のみの発注。
いつもの常州便とは違うトラックで送るからと上海の業者から連絡があった。
常州の市内からは少し外れた地点へ、車を走らせ荷受けに向かう。中国ではしばしば見かける光景。。。高速出口や幹線道路のインター近くなどで路上にトラックを停めての荷物の受け渡し。
トラックとトラックのケツを合わせて、中の山積みの冷凍ホタテなんかをバンバン天地無用で放り投げてやがる。写真にも写ってるが地面に落としてもお構いなし。
2022年やで。ひと昔前の中国にタイムスリップしたかのような光景。発展してるのは表面だけで、見えんとこでは相変わらずやなぁ、とため息を着くと同時に自分の荷が不安になる。
案の定。冷凍ホタテ一色のトラックの中、臨時に積まれたらしき長い形の発泡ケースがひとつ。『 お前、その縦にしとるケース俺のサーモンちゃうんか! 』声をあげて当然、ズバリ私のサーモン。割れとるし。
その場で上海の送り主である、海産貿易の会社に連絡を入れる。とりあえず、引き取って、中見て話すことにする。
彼らも、ルート配送の者は自身の配下であるが、直轄でない運送屋にまでは管理が及ばない。私のクレームも処理しないだろうが、後のために起こるリスク、トラブルは伝えなければならない。
嫌われようが、喚き続けた20年。それに意味がある。
大きな箱に氷と、サーモンが一尾だけ、頭側が下になって立てかけられていた様で、皮が表面が少し傷んでる( 怒り )。
開くと、艶の良い鰓 (えら)と、腎臓。臨時便で捩じ込んでくれただけのことはある鮮度。間違いなくこの朝に上海に空輸されたばかりの魚だ。
幸い、身も全くの割れなどなく全くの問題なし。 しかし腹が立つ。
ノルウェー産サーモンを捌く。 2022.8
発注を入れたタイミングで、一番鮮度良く出荷できるのがノルウェー産になるということで、一日寝たデンマーク産を諦めてノルウェー産を調達。
何年振りのノルウェー産だろうか。見た目麗しく最高のコンディション。
季節がらだろうか、以前は脂っこく見てとれたものが程よいサシとなっているのが見える。お見事なサーモンでした。
季節は巡り、時代も周る。決めつけ、思い込みはいかんなと己に言い聞かせるのでした。
おまけ
サーモンの副産物。鮮度の良い腎臓がついていた時に、
北海道の伝統珍味 " メフン "(鮭の腎臓の塩辛)を作って見た。本来、塩漬けにして、洗って乾燥させてから保存して半年ぐらい寝かせて発酵させるのだが、これは3日間、塩で水分を締めただけの即席版で。
こんな大振り、かつ良い鮮度の状態でサーモンについてくることは滅多にない。
輸入前に内臓は全て抜き取られているからだ。北海道に10年暮らした私には宝物のように見えた。塩でしまった腎臓をサッと洗って口に含む。トロッとしながら柔らかな弾力がある、臭みはない、独特のコクがあり美味しい。
” メフン " 〜アイヌ1000年以上のの歴史を持つ伝統の保存食〜
アイヌと鮭のつながりは深い、” カムイチップ ( 神の魚 ) "と呼び、鮭は生活に欠かせない存在となっていた。鮭を獲る道具が北海道で出土しており、4000年以上前のものだとか。おそらく北海道原住民であった彼らのものだろう。
以前、どこかで ”メフンは1000年以上前からアイヌに伝わる伝統食だ ”、という内容の記事を読んだ記憶がある。
今、その文献を探しても見つからないのだが信憑性が高いと思い、信じている。
アイヌは、” 口承文化 "で自分たちの文字を持たなかった、なので記述があっての1000年かと思う、実際はもっと古く長い伝統ではないだろうか。
料理をする者として、魚の旬は身に栄養を蓄え消耗していない出産前という意識が常に付きまとう。
アイヌは狩猟、採取民族だが、自然との共存意識が高く、サスティナブルな民族であった。鮭は脂の乗ったり、子持ちになった物を捕まえるのではなく、産卵を終えて痩せたものを獲り、それを保存食として蓄えたようだ。山菜の採取なども常に資源枯渇などの起きないようなものであったようだし、採ったものは神に感謝を捧げ使い切る、そんな彼らの文化、精神性が大好きだ。
私は、若かりし頃に木を彫る生活の為に2年ほどアイヌと生活を共にしたことがある。その頃はその文化を深く知ることも無かったが、その後に料理をする人間となってから特にアイヌの文化、その精神性をリスペクトする人間になった。。。
中国で、ヨーロッパのサーモンを扱った話だったが、ふと手にした腎臓の記事からここまで書きたくなった。
ちなみに " メフン "という呼び名は、アイヌ語の " mehun / mehuru メフン/ メフル " =(鮭の腎臓、人間や動物は別) に由来するようだ。
以上
▼ 記事を追加しました。無駄なく食すサーモンの皮身 !