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「敬老の日」亡き母が喜んだ孫からの心のこもった最初で最後の贈り物

もうすぐ「敬老の日」ですね。

「長年社会に貢献してきたご老人を敬愛し、長寿を祝い、福祉への関心を深める」ことを意味しています。

私の子供の頃は、「敬老の日」になると祖父、祖母に私ができる精一杯のプレゼントをしたものです。

その中で、今でも一番覚えていることは、「祖父と祖母の似顔絵」を描いてあげたこと。

当時小学生だった私は、リアルに描くことが似顔絵だと思いこんでいたところがあり、しわの一本一本や眼球に至るまで、本物そっくりに描いてしまったのです。

そして出来上がった絵はまさに、リアル肖像画?グロテスク?

あとで、可愛く描くことも似顔絵だと知ってからはちょっと後悔。

でも、祖父、祖母はすごく喜んでくれて、額に入れて飾ってくれました。

そんな嬉しかった思い出があります。

さて、今回はもうすぐ「敬老の日」ということで、おしゃれな亡き母と娘(私)と孫(娘)とのちょっとした可愛いやりとりのお話です。


🍎そろそろ「敬老の日」が気になる娘と嫌がる母

祖父と祖母が亡くなってからは、「敬老の日」の意味は知っていてもお祝いすることはなくなっていました。

そして両親も年齢を重ね、孫もできたことだし、ある日、私はふと気になり始めたのです。

両親の「敬老の日」を私もそろそろ祝わなくてはいけないのではないかと。

というのも、私の周りで孫ができたことをきっかけに、年齢問わず敬老の日をお祝いしているということが私の耳に入ってきたからなのです。

そこで、私は母に尋ねました。
「そういえば、敬老の日をそろそろお祝いしたいなと思っているんだけど・・」

母は、少し長めのウエーブした髪を整えながら、少し困った顔をして言いました。
「うーん。それは・・・ね。やっぱりしなくていいよ。」

今度は、長く伸びた爪にローズ系のマニキュアを塗りながら得意げに答えます。
「あのね、私はまだまだ若いのよ。敬老の日を祝われるとなんだか急激に歳を取った気分になるのよね。」

「じゃ、もう少し年齢がたってからね。長生きしているご褒美としてね。」
と私は答えます。

すると、今度は爪に塗ったマニキュアを乾かしながら、母は少しむきになって答えます。
「気持ちはありがたいけれど、絶対に娘だけには、祝われたくないのよ。」

「でも、母の日は、毎年お祝いしているじゃない?いいじゃない、お祝いしてもらえるんだよ。それってお得じゃない?」
と私が答えると

「母の日?それは嬉しいのよ。だって、私はいつまでもあなたのママだもん。」
そして、少しおどけたように口びるをを少し突き出して、甘えたそぶりを見せます。

そのときの私には、今一つ理解できませんでした。
「ふーん。そういうものなのかな?」

私がそういうと、キラキラした指輪をはめ、ネックレスをつけながら、またまた得意げに答えます。
「そういうものよ。それが母親というものなのよ。きっと、私と同じ年齢がきたら、あなたにも分かるときがきっとくるわよ。」

「それじゃ・・・行ってくるね」

今日の母のコーディネートは、モスグリーンのふわっとしたブラウスとオフホワイトのフレアースカート。

そして、少し高いパンプスをはいて、手を振りながら、楽しそうにいけばなのお稽古に出かけて行きました。

🍎小学生の娘もそろそろ「敬老の日」が気になるお年頃

「ねぇ、ねぇ、学校でね「敬老の日」の話聞いたんだけど、私もおじいちゃんとおばあちゃんに何かプレゼントしたい!」
敬老の日を前に娘が言い出します。

「あっ、でも、ちょっと待って。おじいちゃんは大丈夫なんだけど、おばあちゃんは大丈夫かな?」
先日、母とそんなやりとりをした私は、少し心配になってきました。

「なんでー?ダメなの?」
大好きなおじいちゃんとおばあちゃん。
娘からしたらお祝いしたいはずなのです。

「なんでだろうね?そうだ、直接おばあちゃんに聞いてみたら?」
私は娘に直接電話をかけるように伝えます。

「うん、そうする!」
娘はおばあちゃんに電話をかけて、何かプレゼントしたいと伝えています。
あれ、おかしいな?
なんだか娘もケラケラと笑いながら楽しそうにお話しています。

電話が終わると、娘はとても嬉しそうに私に言います。
「おじいちゃんとおばあちゃんがありがとうだって。楽しみにしているって言っていたよ。」

腑に落ちない私は、電話を代わって母に尋ねます。
「あれ?敬老の日祝われるの嫌なんだよね。いいの?」

すると母は笑いながら答えます。
「それはそうなんだけど、孫は特別だから。嬉しいのよ。それに、〇〇ちゃんからしたら、どうしたって、おばあちゃんだしね。」

私は少し茶化すように母に言います。
「じゃ、それに便乗して、娘の私もお祝いしてあげようか?」

「うーん、それは、やっぱり・・・遠慮しておくね。」
母は、なんだか嬉しそうに答えます。

「その基準が私には、よく分からないけど、プレゼントが用意できたら行くね。」
「OK!美味しいケーキ用意して待っているね。」

電話を切って私は思いました。

美味しいケーキ?それはこっちが本当は用意したいんだけどな・・?

さて、娘はおじいちゃんとおばあちゃんに何をプレゼントするのかな?

🍎小さな亀に込められた娘の思い

「これ、これがいいよ。」

娘が元気よく指を指したのは、小さな「日本庭園」を作るミニチュアのキットでした。

「他にもいろいろあるけど、これでいいの?」

「うん、これ私一人でできそうだし。これじゃなきゃ意味がないの。」

確かに娘が選んだキットは、小さくて娘一人でも作れそうなもの。
でも、意味がない・・・っていうのは?

「ママ、よく見てよ。ここに亀さんがいるでしょう。」

よく見ると、一匹の可愛い小さな亀がいるではありませんか。

「本当だ。亀さんがいるね。そうか、この亀さんが可愛いから選んだんだね。」

そういうと娘は、少し不満そうな顔をしながら説明を続けます。
「ママ、鶴は千年、亀は万年っていう言葉知ってる?私、おじいちゃんとおばあちゃんには長生きしてほしいの。」

そんな優しいことを考えていたなんて・・・。
私は少し感動してしまいました。

「じゃ、ママは?長生きしてほしい?」
感動してしまった私は、娘に意地悪な質問をしてしまいました。

「そっ、そっ、それはママにも長生きしてほしいよ。そんなの当たり前でしょう。そんな変な質問しないでよ!」

「さっ、お家に帰って早速作らなくっちゃ!」

娘は少しぶっきらぼうに答えて、ちょっと恥ずかしそうにしながらレジに向かって行きました。

🍎小さな日本庭園作り

袋を開けると、小さな可愛いパーツがたくさん入っていました。

私が手伝おうとすると、

「ダメ、私が作らなくては意味ないんだから。もしかして、ママも欲しいの?これはダメだよ。ママのは後で作ってあげるから。」
そういうと娘はもくもくと作り始めました。

綺麗に整備された「日本庭園」は、私の憧れでもあります。

京都に旅行に行ったときに見た「日本庭園」

心が清らになるような澄んだ空気感。

なぜか、姿勢もピーンとしてしまう心が洗われる感じ。

また、行きたいな・・・。

さて、娘はというと、砂を巻き緑を作り、竹とお花を植え、竹ぼうきをそっとおきます。
そして、「日本庭園」に必ずっていうほどある「つくばい」と「石燈籠」を建てます。
最後に、娘のお気に入りの小さな亀をのせたら完成。

「おじいちゃんとおばあちゃんがこれからも長生きできますように・・・」

娘は、そっとつぶやきながら、小さな亀を優しくのせました。

🍎あのときの母の気持ちが、なんとなくわかった気がします

「おじいちゃん、おばあちゃん、これ長生きできるように作ったよ。」

娘がプレゼントを差し出すと、両親は大喜びでした。

「ありがとう。おじいちゃんもおばあちゃんも〇〇ちゃんのために、すごく長生きするからね。」

それから、皆で美味しいケーキを頂きました。

私はケーキを食べながら、少し考えていました。
なぜ、母は「母の日」はお祝いするのに「敬老の日」は嫌がるのか。

私はこのとき、母の気持ちが少し分かったような気がしたのです。

もしかして、母親というものはいつまでも娘には、昔と変わらず若々しい母親として接してもらいたいのだと。

隣でにこにこ笑っている娘を見て、私もなんだか妙に納得してしまったのです。

その本当の答えは、このときは母にはあえて確認しませんでした。

その答えが分かったことで、私は少し得した気分になっていたのです。

また、この時から、そんな可愛い母を、一層愛おしく思えるようになりまし
た。

こんな私の少し照れる気持ちが湧いてきたことも母には内緒です。

その日から、実家の和室の飾り棚に、娘の優しい思いが詰まった小さな日本庭園が仲間入りしたのです。

そして、このプレゼントが母が受けっとった最初で最後の「敬老の日」のお祝いになりました。

それからも母や父とは毎週のように食事に出かけていたので、敬老の日だからと意識することもなくなってしまいました。

可愛い水戸黄門さまとおばあちゃんのお手玉


今はもう母は亡くなってしまいましたが、このときの母の年齢に少しずつ近づいてきている私。

母と同じような思いになってきていることに、少し微笑ましく思う私なのでした。


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