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波が荒すぎて、乗り切れません。

#20230730-183

2023年7月30日(日)
 夏休みといえば、億劫なのが昼食だ。
 小食のノコ(娘小4)と2人きりなので、そんなに気負わなくていいはずなのだが、未だ開口一番「ヤダ」続行中なので気が重い。

 「ママァ、今日のお昼、なに?」
 「うーん、野菜スープに卵を落として、それとおにぎりにしようかな」
 「ヤダ!」
 そう返されて、冷蔵庫をのぞきながらいくつかひねり出しても「ヤダ」が続く。ノコが食べたいというものは食材がなかったり、手間がかかるものだったりしていい返事ができない。
 私もむーくん(夫)も子ども時代は食卓に並んだものを食べるのが普通で、料理をする親に向かって「食べたくない」といった記憶がない。
 だから、ノコがワガママに感じてしまう。
 施設にいたときも食事に対して「食べたくない」「これはイヤ」といっていたのか、我が家に来ていうようになったのか、それはわからない。
 もし、いいたかったのにいえなかった過去を取り戻したいのなら、叶えてあげたいと思うが、なんせ夏休みははじまったばかり。料理が得意というわけではない私は続くと苦痛になることは下手にしないほうがいいと思ってしまう。

 昨日、今日に後まわしにした宿題には手をつけず、ノコは朝から音の発生源になっている。
 九九や歴史上の人物、元素記号を歌にしたお勉強CDを何回もかけて歌いまくり、次はおもちゃのピアノがついている幼児向けの絵本を出してきて、スイッチを押しまくる。自動演奏が流れるなか、それとは別な曲を弾く。
 ノコと暮らすようになって気付いたこと。
 私は耳が弱い
 特に電子音が辛い。ノコのおもちゃの類いがそれに当てはまる。
 耳の疲れにノイズキャンセリングのヘッドホンやイヤホンがいいと聞くが、どうなのだろう。
 耳や頭を覆われるのも苦手なのでーーだから私はネックスピーカーを愛用しているーーわずらわしくなるだろうか。
 静けさと天秤にかけてみないとわからない。

 「じゃあ、ノコさんがお昼を作ってみる?
 試しにいうと、ノコが顔を輝かせた。
 「作る、作る、作る! サンドイッチ作りたい!」
 この頃ノコはチョコチップが入った細長いスティックパンしか食べない。私はライ麦パンが好きなので食パンの在庫はない。
 「食パンはないよ。ベーグルならあるけど」
 「それでいい!」
 ベーグル、トマト、スライスチーズ、それと蒸したブロッコリーがある。
 「鶏ももを焼いたのがあるけど、使う?」
 「使う、使う!」
 ノコは自分専用の包丁を取り出すと、いそいそとキッチンに立った。
 「ママはあっち行ってて。できたら呼ぶから」
 手を丁寧に洗うこと、気を付けて包丁を使うことをノコに念押しし、私は悠長にソファーに寝そべった。せめてテーブルに食事のセッティングをしようとしたら、それも自分がやるという。
 ちょうど娘も中学生になると昼食の用意をしてくれるので楽という話を耳にしたばかりだった。所詮他人様よそさまの話だとうらやましい気持ちにパタンとふたをしたら、思いがけず叶ってしまった。

 「ママァ、用意できました! どうぞ来てください」
 テーブルの上には、ランチョンマットが敷かれ、皿には輪切りにしたトマトにこまかく切った茹でブロッコリーが盛られていた。マヨネーズの瓶も出してある。残りものの鶏もも肉は電子レンジで温められ、1人1枚スライスチーズが置いてあった。パン皿には、具材をはさめるように横切りしたベーグルが待っている。
 上出来だ。
 こまかに指示しなくともここまで用意できるようになったのかと驚く。
 皿も私が選んだかのようで、ノコがよく見ていることがわかる。
 「すごいじゃない! ママが何もいわなくてもここまで作れるなんて。豪華なランチだよ!
 ノコは嬉しそうに体を揺らす。
 「ママママ、パパよりスゴい? パパだったら、こんなふうにできない?」
 そこは微妙だが、ここにむーくんはいない。褒めるときは褒めよう。
 「そうだね、パパだったらこうならないね」
 満足げにノコは笑い、くすぐられたかのように身をよじる。
 さすがに自分が作った料理だからか、残さずしっかり食べた。
 「ママママ、ママママ、食べた食器は下げなくてもいいよ。洗うのも私がやるから」
 なんてこったい。上げ膳据え膳とは!
 夏休みの昼食はノコに任せるのもありかも、と横着者の私はその可能性に思わず頬がゆるんでしまう。

 その1時間後。
 すてきな"お姉さんノコ"は、あっという間に姿を消した。
 終わらない宿題に癇癪かんしゃくを起こし、計算ドリルに大きくバッテン印を書き殴り、ページを破り、丸め、投げてしまった。
 「そのドリル、学校に提出するんじゃないの?」
 「1学期のだからしない!」
 本当にそうなのか?
 ここまでに派手に破られ丸められちゃあ、修復しようがないけれど。

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