お菓子爆弾。
#20230917-232
2023年9月17日(日)
習い事のレッスン後、子どもたちはラウンジでしばしくつろぐ。
笑ったり、喋ったり、お菓子を交換したり。賑やかだ。
今日は用事がある子が多いらしい。「またね」「今日はお母さんが早く帰ってこいって」「もうお迎え来てる!」と手を振りながらラウンジを通り過ぎていく。
ノコ(娘小4)はそんな流れから少し遅れて出てきた。お尻をさすっている。
「ママ、滑ってお尻ぶつけた……」
「あら、大丈夫?」
お尻をなでると、ノコは私の横にぴったりくっついて座った。
ラウンジにはノコと同じ4年生の女子1人、男子1人が残り、お菓子を食べはじめた。
2人はせっせと食べながらもお喋りも盛んだ。ちぐはぐな会話だが、それなりに盛り上がっているのが不思議というか、おもしろい。
ノコは会話に加わるでもなく、その2人をじっと見つめている。
女子のほうはノコとなにかと揉めているせいか、ノコに話を振る気配はない。ノコは私の隣を離れると、じりじりと2人に近付いていった。視線を話すほうに向けるので、女子を見たり、男子を見たりと忙しない。
お喋りに加わる様子もないのに、距離が近い。
そのうち、視線が変わり、女子がバッグから出すお菓子とそれを食べる口元に向けられる。お菓子を見、口元を見る、また出すお菓子を見る。
「ノコさん、そろそろ帰ろう」
私が声を掛けてもノコはうんともすんともいわない。
お喋りをしたいわけでもなさそうなので、ラウンジに残っている意味がわからない。
「ノコさーん、帰ろう」
なんだかお菓子をくれという圧力をかけているように見え、私はもう一度声を掛ける。
女子のほうがノコをちらりと見て、笑みひとつなく飴2つを無言で寄越した。
ノコはそれを受け取る。「ありがと」といったのか、いっていないのかも聞こえない。
「ノコさん、いただいたなら何ていうの?」
本当は「ありがとう」という言葉を強いたくない。自発的にいってほしい。ただ彼女との関係がよくないなか、お礼のひとつもいわないのは気になる。
「交換するお菓子がないときに、いただくだけなのはよくないよ」
ノコがじろりと私を睨む。
「いっつも私があげてるし! そのとき、くれないし!」
1つあげたら1つもらうというルールがあるわけではないが、「お互い様」というのはある。
あげたり、もらったり。
お菓子好きのノコは、「これ、いる人!」と誰かがいうと、必ず手を差し出す。まるでお菓子を食べたことのない子のようにだ。
そのため「もらうなら、あなたもあげてね」とノコが食べる分とは別に交換用のお菓子を用意してある。ただ習い事への持ち物の準備はノコがしているので、今日みたいにギリギリまで支度を拒否した日はバッグに入れていないことがある。私としてはおおらかにお菓子のやりとりをしてほしいが、ノコはあげるときも律儀に「このあいだ、くれたから」といい、渡すときに「何かくれる?」という。
ノコのお小遣いで用意したお菓子ではない。もう少しコミュニケーションの一環として、ゆるく一方的にならずに交換してほしいが、それはノコには難しいのだろうか。
――お互い様。
どう伝えたらいいのだろう。
友だちへの挨拶だと例えればいいのだろうか。「ヤッホー」と肩を軽く叩き、「ヘヘヘ」と振り返る。そのとき、交わされる笑みと笑み。
でも、挨拶ひとつにしても「〇〇ちゃんはこのあいだ私がおはようっていったのに、いってくれなかった」と数日前のこともいうノコに軽い挨拶はありえないのかもしれない。
お菓子をあげる、もらう。
人と人とのやわらかなやりとりが爆弾の投げ合いみたいに見えてしまう。
お菓子爆弾。
その攻撃力はいかほどか。
のどかな風景が戦場となる。