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立ち話すること2時間!~虫友さんとバッタリ遭遇~

#20240918-467

2024年9月18日(水)
 雨天でなく、かつ午前中に予定のない日は、できるだけ走りに出ている。
 スロージョギングと呼ばれるゆっくりしたペースで走るもので、会話をしても息が上がらないくらいの速さがいいといわれている。
 「ゆるラン」「ゆるジョグ」ということもある。私はもっぱら「ゆるジョグ」と呼ぶ。

 今日は、走り出してすぐ年配の女性が笑顔で駆け寄ってきた。
 「東京マラソンに出るの? 頑張ってね、頑張ってね」
 音声コンテンツを聞いていた私は慌ててイヤホンを外す。
 「出ないです、出ないです」
 否定の意味で手を振ったが、女性はにこやかに手を振り返しながら去っていってしまった。

 たった3km弱。
 走るのは20分ほど。
 マラソンなんてまったく視野にない。
 突然のできごとに無駄に心拍数があがってしまった。

 鼓動を弾ませながら走っていくと、帽子をかぶり、首もとまで垂れるフェイスカバータイプのマスクをした女性とすれ違った。
 私が走る遊歩道は、閑静な住宅街のなかにありながらも朝に晩にと走る人、犬の散歩をする人、ウォーキングをする人とわりと人通りがある。見知らぬ人でもすれ違いざまに会釈することはある。
 「こんにちは!」
 ぺこりとその女性が頭を下げたので、私も反射的に返した。
 だが、年配の女性ならともかく、私より若そうな女性が――なんせ目しか見えないのでよくわからないが、声まで出して挨拶するのは珍しい。
 思わず彼女を追いかけた。
 「待って、待って、待って! もしかしたら知っている方ですか?」
 彼女が笑って、帽子を脱ぎ、マスクを取った。
 「そうですよね、こんなんじゃわからないですよね」
 なんとご近所の「虫友さん」だった!
 知らぬ人だと流さず、呼び止めてよかった。

 彼女とは幼い頃昆虫好きだった息子さんを通じて知り合った。
 なかなか同性で虫好きの人と出会うのは現実世界では難しい。しかもご近所でなんて貴重だ。
 「前に森谷もりやさんが走っているって聞いたから真似してみました」
 10歳ばかり年下の彼女がまぶしく笑う。
 「でも、全然走ったことがないからほんのちょっとだけなんです」
 家の裏まで並んで走る。
 1人で走るとついペースがあがりがちだが、彼女と喋りながらだとスロージョギングに適した速さになった。

 9月に入っても暑い日が続いていたが、今日は日陰なら心地よい。
 爽やかな風が流れている。
 彼女と最後に会ったのは、子どもたちの夏休み前だった。
 まだ幼稚園に通う小さな子どもがいる彼女はよく隣の公園で遊んでいる。
 「夏休みが明けたら、またランチでも」
 そう互いの健闘を祈りながら、酷暑の夏休みに突入した。
 虫つながりで知り合ったので、どうしても昆虫の話題が中心になり、個人的な話はあまりしたことがなかった。
 知り合うきっかけになった上のお子さんはもう中学生になった。

 最近、ノコ(娘小5)にスマートフォンスマホを持たせる時期について考えているところだった。
 習い事先にはスマホを手に1人で来る子どもたちが大半だったが、通っている小学校での所有率は知らない。
 中学生になると、部活動の連絡ももっぱらスマホでするという。だが、あくまでそれは「世間一般」の話であり、地域の里親たちがする話であり、ノコが通う予定の中学校での話ではない。
 この学区の中学校の現状が知りたかった。
 実際にスマホがなければ部活動の連絡が滞るのか。中学校生活に支障がでるのか。
 「ここの中学校でのスマホについて知りたいんだけど」
 それを皮切りに、昆虫以外の話が次から次と飛び出した。

 気付けば、2時間が過ぎていた。
 ジョギング姿で立ったまま。
 「なんだか打ち明け大会になっちゃったね」
 おかげで、彼女と話していて楽しい理由がわかった。
 相手の好きなものや価値観を大切にする気持ちが根底にあるのだ。
 もちろんランチの約束をしたのはいうまでもない。
 ふふふ。

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