スマートフォンを忘れて出掛けたら。

#20240125-347

2024年1月25日(木)
 電車に飛び乗り、むーくん(夫)に連絡を取ろうとして、はたと気付いた。

 ……スマートフォンスマホがない。

 コートのポケットにもバッグのなかにもない。
 返却日が迫っている図書館の本がある。今日のうちに、できるだけ読み進めようと3冊バッグに詰めたら結構な重さになった。少しでも荷物を減らしたくて、モバイルバッテリーは家に置いていくことにした。
 家を出るギリギリまでスマホを充電しようと充電器にさしたまま、外した覚えがない。
 自宅のテーブルの上にちょんと置き去りにされたスマホが目に浮かんだ。

 本日、むーくんは休日。
 私は都心の美容院、むーくんは近所の病院へ向かっている。職場での健康診断に再検査の項目が出たためだ。
 病院後にスーパーに寄ってくれるというので、買物リストを電車から送るつもりだったがそれができない。
 うーん…… どうしたもんだか。
 一番買ってほしい牛乳は口頭で伝えてあるが、できればほかにもこまごま揃えてほしい。
 冷たい強風に雲が一掃されたのか、空は青く、遠くまでよく見渡せる。
 真っ白な富士山がでんと車窓の向こうに見えたが、スマホがないので写真1枚撮れない。

 ――肉眼だとこんなに大きく見えるけど、どうせ写真に撮ると小さくなるからいいもん。

 撮りたいけれど、撮れない現状を自分でなぐさめる。

 それより問題なのは、通っていた美容院が移転したことだ。
 新しい店舗ははじめてなので、昨日のうちに地図画像をすぐ見られるところに置いておいた。もちろんスマホのなかに、である。そのとき、駅の出口番号と角を2つくらい曲がることはチラッと目に入った。だが、画像を見ながら行けばいいと思っていたのでかなりあやふやだ。
 公衆電話から番号案内にかけて、美容院の電話番号を尋ねた上で、美容院に電話し、場所を教えてもらうか。駅前に交番があるから駆け込んで調べてもらうか。
 テレホンカードは持ってきていない。硬貨があるか、財布を覗く。
 むーくんにも電話をして、スマホを忘れたことを伝えねば、今頃私のお留守番スマホにメッセージを送っているかもしれない。
 まぁ、戻る時間はないんだ。あがいても仕方がない。
 まずは、美容院の最寄り駅まで行く。

 幸い、バッグには本が3冊もある。スマホがなくとも車中で時間を持て余すことだけはない。
 私は本を取り出すと、文字に集中した。

 解放感と落ち着かなさが混ざり合い、自由でありながら不便さがある。
 本を読んでいても下車駅に着く時間を知りたくなり、スマホがなくて調べられない現実に直面する。本にメモを取りたい言葉があっても、スマホがないため打ち込めない。
 通話やインターネットを見る以外にもあの小さな機械に実にさまざまなことを求めていたことに改めて気付く。
 電車から降りて、すぐ公衆電話を探した。
 むーくんのスマホにかけて、留守電にスマホを家に忘れたことを入れる。それからスーパーで買ってほしいものを思いつくだけいった。病院での再検査の結果を心配していることも残した。
 美容院はうろ覚えだったにも関わらず、きょろきょろしながらこの辺りだと思う場所を歩いていたら見付かった。
 開口一番、担当の美容師にスマホを忘れてたどり着かないかと焦ったといった。
 「本当によく着きましたね!」
 洗髪やカラーリング担当の若い男性は「ボクなら忘れた時点で戻ります」と笑った。

 美容院を終えた後、遅いランチを食べたが、それも写真に撮ることができない。
 美容院で崩してもらった10円硬貨で、むーくんに電話を掛けた。留守電が出るだけで再検査結果は聞けなかった。
 定期通院の病院と美容院の日は、貴重な「わたし時間」だ。いつもなら、夜までノコ(娘小4)の世話をむーくんに任せ、私は気ままに街で過ごす。
 今日はそんな気になれなかった。
 どうも落ち着かない。
 暗くなる前、夕方の帰宅ラッシュがはじまる前に家路についた。
 むーくんは再検査の結果、健診での数値はおそらく一時的なもので、半年後にでも再検査すればいいといわれた。
 持っていった本3冊は無事読み終えた
 スマホがないだけで、こんなに本に手を伸ばしやすくなるのか。
 便利だが、便利がゆえ、スマホはあまりにも「何か」をする妨げにもなってしまう。

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