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今日の一冊 ~火星年代記~

写真は、名古屋・鶴舞公園の七夕飾り。最初は国産ロケット、
H-ⅡBの実物大模型にしようかと考えたが、抒情性あふれる
ブラッドベリの名作にあまりふさわしくないと思い直し、
直接は関係ないが、1年に1度だけ会える織姫と牽牛の逢瀬のため、
かささぎが連なって天の川を渡る橋をつくる伝説を拝借した。

さて、本題。テレパシーを発達させ、エレガントな文明を
築いた火星人と、テクノロジーを発達させたが、がさつな地球人
(米国人?)との不幸な出会い、そしてそのいずれの文明も滅び、
最後の一、二家族(地球人)が新しい火星人となっていく話、
などと説明しても全然魅力は伝わらないだろう。

最初の出版は1950年。従って黒人差別問題や女性の容貌・性格に
関する辛辣なストーリーなども含まれているが、全体としては
全く古びておらず、一時絶版になっていたはずなのだが、
最近改版され新刊本も出回っているようである。古本横断サイト
の「スーパー源氏」や「ブックオフオンライン」でも在庫がある
ようだ。
https://www.supergenji.jp/
https://www.bookoffonline.co.jp/

まず、その文体。
もちろん翻訳なのだが、訳文も素晴らしいのであろう。火星の
文明の表現は、突飛な内容なのだが、とてもナチュラルに感じる。
※例:葡萄酒の川、水晶の壁に実る果物、磁力砂での掃除 など。

訳者によれば、原文は頭韻や倒置、ミ(メ)ーター(韻律、格調)
を含み、翻訳困難な同義語の連続に満ちている、そうで、いつか
原文(英語)で読んでみたいものである。

次に批判精神。
特に米国を中心とした技術偏重文明、及び「古き良きものに対する
無知・偏見」への徹底したこき下ろし。少し残酷に過ぎるほどで
あるが、何故かあまり嫌悪感が湧かず、(ざまあみろ)などと
同調してしまうのである。エドガー・アラン・ポーに捧げる
「第二のアッシャー邸」で焚書を司る役人を惨殺し、最後は屋敷
ごと大地に飲み込ませてしまう一編は、痛快である。

さらに構成。
13の短編を短い散文でつなぐスタイルは、叙事詩、と言っても
よいのではないか。一見、全く違うシチュエーションのエピソード
が、読み通せば全体としてつながっていく手法は見事である。

以前、突然読みたくなって神田の古本屋を探し歩いたことがあった
が、全く見つからなかった。それが復活するのだから、ある意味
「不朽の名作」、と言っても過言ではないだろう。

かささぎの 渡せる橋に おく霜の
     白きを見れば 夜ぞふけにける
             中納言家持

火星人を滅ぼしたのは地球人の持ち込んだ水疱瘡。七夕の願いに
まで「コロナ退散」、などと書かれないように祈る・・・

お茶うがいの輪を広げてコロナを収束させたい!
https://note.com/from_free/n/n406bc5302094
https://note.com/from_free/n/n98097eb72720


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