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ショートショート

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ショートショートの数々、知恵を絞って書いています。
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#シロクマ文芸部

カメとウサギ #シロクマ文芸部

カメとウサギ #シロクマ文芸部

走らないカメに負けてしまった。丘の上に駆け上がったウサギは、悠々とゴールしているカメを見てショックを受けた。油断して昼寝なんかしたからだ。

「やあ、ウサギくん、遅かったじゃないか」

カメの言葉に、ウサギは悔しそうに空を見上げ、そして丘のふもとまで続く斜面を眺めた。そして口を開いた。

「カメくん、今度は丘の下までもう一度競走してくれないか。今度はどちらが遅くあのクヌギの木まで着くか。これなら君

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女王のテレパシー#シロクマ文芸部

女王のテレパシー#シロクマ文芸部

愛は犬をはじめとするペット界の女王で、世界中のペットにテレパシーを送っています。

無駄吠えの多い犬には
「やたら吠えないで。時にはワルツのように三拍子でほえてみたら?
夜はピアニシモよ」

ガリガリと柱で爪を研ぐ猫には
「流れる水のように優雅にね」

ダラリと寝ている蛇には
「くるくるキャンディのように寝てみたら?可愛く見えるわよ」

オウムにはフランス語
「メッシ―オーヴァ」 を教えたり

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ただ歩く

ただ歩く

ただ歩く
仲間の後ろ姿を見ながら、炎天の道を歩く
仲間がつけてくれた道しるべがあるから
迷うことなく列を作って黙々とただ歩く
大切な食べ物のありかまで
そして大切に家まで運ぶ
子供たちが待っているから
運んで来た食べ物をみんなで分けあう
争ったり、まして殺し合ったりするものは誰もいない
みんな平等だ

ただ歩く
行列を作って歩いていく
仲間が匂いを道に残してくれているから
食べ物がある場所に着くと

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初夏を聴く#シロクマ文芸部

初夏を聴く#シロクマ文芸部

初夏を聴く、の言葉で思い出されるのは、故郷の田から聞こえる蛙の声だ。田植えの終った水田は空の青さを映し、風がさわさわと苗を揺らす。空の色が茜から藍に変わるころ、田から一斉に聞こえてくる蛙の歌。農薬を使うようになって、今はほとんど聞こえなくなった、というあの声を思い出す。

仕事帰りに寄ったコンビニから出ると、あの懐かしい声を聞いたように感じ、足を止めた。確かに蛙の声だ。街路樹の根本に身をかがめると

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舞うイチゴ#シロクマ文芸部

舞うイチゴ#シロクマ文芸部

舞うイチゴ?
目の前をすうと横切り、夕昏の空に舞っていくのはまさしくイチゴ。
わたしは、魅せられたようにそのあとを追って歩き始めた。

スーパーのレジ係は疲れる。セルフレジが増えても、「ねえちょっと来てくれない?」の声にふりまわされる。機械が動かない、という訴えに調べてみると硬貨が紙幣入口にねじ込まれていたことも。これじゃ以前のようなレジの方が楽だった・・・

そんな疲れ切った帰りに、舞うイチゴを

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