カメとウサギ #シロクマ文芸部
走らないカメに負けてしまった。丘の上に駆け上がったウサギは、悠々とゴールしているカメを見てショックを受けた。油断して昼寝なんかしたからだ。
「やあ、ウサギくん、遅かったじゃないか」
カメの言葉に、ウサギは悔しそうに空を見上げ、そして丘のふもとまで続く斜面を眺めた。そして口を開いた。
「カメくん、今度は丘の下までもう一度競走してくれないか。今度はどちらが遅くあのクヌギの木まで着くか。これなら君が有利だろ?」
「いいよ。足はいつも動かしていることが条件だけど」
カメは抜け目なく言った。
二匹は「よ~いドン」で丘を下り始めた。ウサギは左右の足を交互に踏み出して歩けないため、できるだけ小さくジャンプして進んだ。が、カメのゆっくりさにはかなわず、すぐに先頭に立ってしまった。
半分ほど来たとき、雨がポツンポツンと降り始めた。丘の中腹から下は草のない岩がむき出しになっている。カメは濡れた岩で滑り、仰向けになったまあっという間に丘の下まで滑り落ちた。
「カメくん速いじゃないか」
カメのあとにクヌギの木に着いたウサギが得意げに言った。
さっき黒雲のある空を見て雨を予測し、丘の中腹から下はつるつるの岩であることを確かめておいたのだ。
「どっちが速いかなんて比べられないね」カメが言った。
「そうだね、僕たちなんか似ているみたい」ウサギが言った。
いつの間にか雨はやみ、空に虹がかかっていた。
カメとウサギは並んで空を見上げ、温かい気持ちになっていた。
おわり
シロクマ文芸部に参加させてください。
小牧さんお世話をおかけしますがよろしくお願いいたします。
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