接空間の定義
微分形式を勉強中
最近は幾何とか代数とか純粋方面から逃れられずにいるのだが、学生時代にやってこなかった微分形式を上記の本で勉強している。
目次は以下の通りである。
第1章:テンソル積と外積
第2章:接空間と双対接空間
第3章:微分形式の計算
第4章:動座標系の方法(1)
第5章:動座標系の方法(2)
第6章:動座標系の方法(3)
第7章:動座標系の方法(4)
第8章:動座標系の方法(5)
第9章:リーマン空間
第10章:変分問題
第11章:解析力学と微分形式
第12章:フロベニウスの定理
第13章:等質空間
第14章:ストークスの定理とその応用
ざっくりと8章まで読んだのだが、だいぶ本質的な数学で直感的な説明が重視されている本とは言え中々難しい。これが微分形式として初めて読んだ本なのであるが、具体例からのモチベーションが多く書かれておりかなり良い本に感じた。特に乾燥的な純粋数学書を最初に読んだら恐らく理解できなかったであろうと確信できる。今回はこの本の第2章の接空間の定義部分を更にかみ砕いて痒い所に手が届くように紹介したいと思う。まだまだ微分形式について良く分かっていないのでこの記事は自分の理解の確認の為でもある。
微分形式のモチベーション
まずご存じのように多様体$${M}$$とはその各々の点$${p}$$の近傍に対して(微分可能な)局所座標系$${x=(x_i)_{1 \leq i \leq n}}$$を導入できる曲面$${S}$$の事である。局所とは例えば球面$${S^2}$$を多様体として見たいときに、例えばステレオグラフィック射影を入れたとして、その北極と南極は同一の座標系からは捉えることは出来ないからである。即ち球面から一点を除いた多様体は$${\mathbb{R}^2}$$と微分同相である。故に一般に多様体とは異なる座標系$${x, y}$$が張り合わせられて出来るものである。しかし、多様体として同一であると見るために$${x}$$座標として捉えた$${p \in U \subset M}$$と$${y}$$座標として捉えた$${p \in V \subset M}$$は共通部分については、(少なくともその多様体以上の)滑らかな座標変換$${\varphi}$$, $${y_i=\varphi_i(x_1, \cdots, x_n)}$$の存在は必要である。
こうして定義された多様体$${M}$$に関して点$${p}$$における微分というのはどのように考えれば良いだろうか?
微分は接線の傾きであるから、接線や接平面が特定できることが本質である。この時、$${x}$$座標空間に対して従来型の接平面を定義することが出来ると思えるだろう。しかしよく考えると曲面$${S}$$に対してその点$${p \in S}$$に関して下敷きを当てる行為(※接平面を決定する行為)は座標系を取る必要があるのだろうか?という哲学的問いが生ずる。この時ひとつの具体的な下敷きを想像してしまうと、その下敷きの空間に長さ$${s}$$が生じ、長さのスケール変換により簡単に接平面を特定できたとは言えない事は分かるものの、同時にパラメーター非依存として同じ空間を占めている事は確かそうであり、直感的に惜しい所にあるような気もする。多様体は定義として局所ユークリッド的なパラメーターがある事が必須ではあるものの、一方その存在自体はパラメータ非依存であり、カノニカルな概念として接平面というものが決定できるならそこから良い事が起こりそうな直感がある。これが接空間のモチベーションとなる。(※本にはモチベーションとして「一般の多様体は曲線や曲面が3次元の空間の中に置かれているというわけではなく、もっと高い次元の空間の中に置かれているという訳では無いので、接線や接平面に当たるものを考えるのは工夫が必要であり、その為に考えられるのが接平面と称するベクトル空間である。」と書いてある。)
接空間の定義
今、多様体$${M}$$上の座標系$${x}$$と多様体上の点$${p}$$を固定する。そして点$${p}$$を通る多様体上の任意の曲線を$${c: x_i = x_i(t), (1 \leq i \leq n)}$$とすると点$${p}$$における接線ベクトルは$${\frac{dx}{dt} = \sum \frac{\partial x}{\partial x_i} \frac{dx_i}{dt}}$$となる。$${a_i = \frac{dx_i}{dt}}$$, $${e_i = \frac{\partial x}{\partial x_i}}$$とおくと、$${e_i}$$に関しては曲線の取り方に依存せず、点$${p}$$と座標系$${x}$$にのみ依存した量である。そこで$${e_i}$$で作られるベクトル空間を$${V_{p,x}}$$とし、接空間と呼ぶ。次に示すようにこうして定義された接空間は座標系間の基底変換のルールさえ設けていれば座標系の選び方$${x}$$に依らない。別の座標系$${y}$$が$${y_i=\varphi_i(x_1, \cdots, x_n)}$$という関係で結ばれているときに、$${b_i = \frac{dy_i}{dt}}$$, $${p_{ij} = {\frac{\partial y_i}{\partial x_i}}}$$と置けば、成分の関係は$${b_i = \sum_{j}p_{ij}a_j}$$となるが、これをヒントに$${y}$$座標サイドの基底$${f_i}$$を$${e_i = \sum_{j}p_{ji}f_j}$$として決定すれば、曲線から決定される接線ベクトルは$${\sum a_ie_i = \sum b_i f_i}$$と同定され、$${(f_i)}$$からも同一のベクトル空間が決定されるからである。この議論はどの座標系から始めても同じであり、接空間での基底の取り方は同一になる。またこうして決定された接空間$${V_p}$$の元を接ベクトルと呼ぶ。
重要なのは接空間としての定義の出発点は座標系$${x}$$依存であったが、実際に定義された空間は座標系の取り方に依存せず、それは直感的には点$${p}$$に当てる下敷きがカノニカルに存在するということであり、実際上では成分の変数間は座標変換$${\varphi}$$、即ちヤコブ行列(※ただしヤコビアンが非0の損失の無いもの)によって結ばれているという意味で、やはり損失の無いヤコブ行列で基底を決定することにより、接ベクトルとして同一のものを表すことができ、かつそのことにより基底により張られるベクトル空間は同一であるというモチベーションである。
今、(ほんの少しの議論的modifyを施し、かつ)特に代表的な基底を$${e_i = (\frac{\partial}{\partial x_i})_p}$$とすることで、接空間は$${\sum a_i (\frac{\partial}{\partial x_i})_p}$$の全体と見做すことが出来る。この際に上述基底変換で定められる$${y}$$座標系に対応した基底は$${e_i = (\frac{\partial}{\partial y_i})_p}$$となる。
次回
双対接空間を導入することで点$${p}$$での微分$${(dF)_p}$$が決定できます。お楽しみに!
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