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2024年、読んだ数理科学本


日本は名著で溢れてる

早いもので今年も一年が過ぎようとしている。去年から、いやそれよりもずっと前から「読もう」と思っている本は未だ積読状態である。悪いのはあまりにも良い本で溢れかえってるという所とあまりに時間が無いという事だ。そして面白いと思う分野自体もあまりに多い。今年は統計や機械学習、または経済学に一切触れることが出来なかった。悲しい・・・。あとは数学で言えばウェーブレット解析に興味を持ち「ウェーブレット/新井仁之」を読んだのはもう何年前のことだろうか?
それと、物理という分野に興味を持ったのはもう15年も前の話である。触れる暇など全くなく過ごしていたが今年は大きく進んだ(電磁気学から量子力学まで!)。また今年は代数トポロジーという分野もそこそこやっていたが純粋に深入りしすぎなので自重している。
偏りだらけではあるものの私の今年の読書を数理科学に限って紹介しようと思う。
昨年(2023年)読んだ本はランキング形式で下の記事に書いてある。今回は分野も混沌としてきたのでランキング形式はやめた。

1.基本群と被覆空間/佐藤隆夫

読了レベル:8割
昨年読んだ「球面調和函数と群の表現/野村隆昭」の最後らへんで被覆空間という単語が出てきて意味不明だったので何となく手に取って読んだ。行間も狭く初学者でも非常に分かりやすいと思う。これについては記事も書いており好評なようなので是非下のリンクから読んでください。

2.Morse理論の基礎/松本幸夫

読了レベル:前半(ハンドル分解まで)
「多様体の基礎」という本で有名な著者による本である。トポロジー的な感覚を磨きたいから読んだ。今年の初頭に読んだ気がするのであんまり覚えていないが、「多様体の構造」$${\leftrightarrow}$$「多様体上の実数関数の臨界点の振る舞い」という対応を考えることがMorse理論であり、多様体構造を解明する重要な定理がハンドル分解である。非専門でボロを出しそうなのでこれ以上は書かない・・・。読み味としては「多様体の基礎」同様(一定の力を持っていれば)脳トレみたいな感覚で読めると思う。単体複体とか言い出した後半から良く分からなくなったのでまあいいやと思って読むのを辞めた。

3.トポロジーの基礎 上/河澄響矢

読了レベル:3章まで/4章
めっちゃ分かりやすいと評判なので買った。今年の初頭に「基本群と被覆空間/佐藤隆夫」を読んでトポロジーについて少し分かり、代数トポロジー→ホモロジー代数を目指して挑戦してみた。前評判通りギャップが少なく論証を追うのは私でも出来た。3章まで読んで「で?ホモロジー群って何?完全列って何?結局何がしたいん?」という純粋数学ならではの嫌気がさし辞めてしまった。分野も違うしリソースを割き過ぎるのが苦しい所ではある。しかし無茶苦茶読みやすくて名著なんだろうなと雰囲気だけは感じた。「層とホモロジー代数/志甫淳」も同じ感覚で読むのを辞めた。

4.みんなの圏論/David I. Spivak、(翻訳)川辺 治之

読了レベル:読了
何故か代数解析学と呼ばれる数学に興味を持って圏論を学んでみようと思ったのがきっかけである。圏論については「ベーシック圏論/Tom Leinster」が一番有名だと思うがかなり数学的なように思うので、応用数学派の私は何となくこちらを選んでみた。そして予想以上に実学的で非常に面白かった。この本に関しては記事も執筆しているので読んで欲しい。

5.テンソル代数と表現論: 線型代数続論/池田岳

読了レベル:8割
書名にもあるように線形代数続論として代数系の人に良いのではないだろうか。ぶっちゃけ表現論が何をしたいのか本質的に分かっていない所があるのであまり深く言わない事とするがギャップがなく非常に読みやすく超優秀な学部2年後半くらいならいけるのかもしれない。私は元解析系なのでやはり代数的な形式性の高い議論は(特にモチベーションの部分で)苦手かもしれない。他書については「リー群と表現論/小林 俊行 、大島 利雄」も調和解析と表現論の繋がりが分かるくらいまでの部分までは読んだ。表現論の典型的な応用は物理学にあるだろう。例えば「解析力学/渡辺悠樹」等を読んでもらえると分かると思うが、解析力学のネーターの定理によると「物理系に対称性がある時、対応した保存量が存在する」という教えがある。例えば位置に依らず成立するNewton力学は空間並進対称性持っているが、それが(リー)群として対応付けられるというのがあるのである。また群を作用と見るのは本質的な部分なので表現論があるのだろう。あまり言うとボロが出るのでこれ以上は言わない。

6.作用素環論入門/戸松玲治

読了レベル:1割
絶賛読み中。真剣に読まないといけない本。社会人なので純粋数学のモチベーションを維持するのが大変だし、憂鬱な気分になるが、100年ぶりに関数解析っぽい議論をやれて楽しさもある。一気には(病むので)無理なので地道に読んでいく所存である。

7.ゲーム理論/岡田章

読了レベル:3割
名著現実を解析する上でこれほど良い本はあるだろうか?めちゃくちゃ好きな本である。ゲーム理論の応用自体は意思決定論として経済学に多いので特に滞っている訳ではないのだが、なんか途中で興味が移ってしまう。実は何年もこれを繰り返している・・・。読み味は情緒的だが厳密でとても面白いと思うが、数学の能力がかなり高くないと挫折すると思う。私も記事を書いているので何となくレベル感は分かるかもしれない。個人的にこの分野に進むのは実学的に見ても非常におすすめである。

8.微分形式とその応用 ―曲線・曲面から解析力学まで-/栗田稔

読了レベル:6割
近い純粋数学の本で言うと(読んだことは無いが)「曲線と曲面の微分幾何/小林昭七」があるだろう。情緒的な記述で読み応え的に応用数学に近い感覚があるが厳密であり難しい。但し私としてはそもそも微分形式という内容がかなり難しいように感じるので直感が重視されているという意味でだいぶ読みやすいのではないだろうか。情緒的な部分が支えになってくれる反面、情緒的な部分で直感的に理解できないと置いていかれる感覚もある。対話形式であり、昨年読んだ名著「対話・確率過程入門/宮沢政清」味がある。(しかしこの手の対話に出てくる人はあまりに鋭すぎる・・・。)対話の途中に極意などが話されるのだが、私の理解的に微分形式とは$${h}$$の系$${df = f(x + h) - f(x)}$$のパラメータ$${h, k}$$等にbinding構造を持たせたものに過ぎないのではないかと思っている。全部は読んでないが。この感性は「時空と重力/藤井保憲」を読む上でも必要なのではないかと思う。

9.電磁気学の考え方/砂川重信

読了レベル:読了
昨年同著者の「力学の考え方」を読み、大学の物理の次のステップという事で電磁気学に取り組んだ。レベル感としては電磁気学初学者向けらしい。他の電磁気学本を読んだことが無いので何とも言えない部分があるが、「力学の考え方」もそうだったが「考え方」とあるように物理学の哲学っぽいのを教えてくれるので読んでいて楽しい。特に陽に電磁ポテンシャルを記述できるという結論は嬉しい部分である。
この本を読んで電磁気学のマクスウェル方程式を速習で理解できるように記事に起こしたので下記にリンクを付けておく。

10.解析力学/渡辺悠樹

読了レベル:発展的トピック以外読了
2024/7/11に発売された今話題の本である。ギャップがなく非常に読みやすい。解析力学とはニュートン力学を哲学っぽく拡張した分野である。即ちニュートン力学における運動方程式$${F = ma}$$は観測から得られた式であり、哲学性は存在しないのであるが、自然というのは何らかの極値を再現したものであると思った方が自然の自然らしさ、その美しさをよく反映していると言える。解析力学においては自然というものは作用と言うものを最小にするように変化していくという事を示してくれるものである。作用というのは関数で与えられる為、関数の最小性を探るものは一般に変分法と呼ばれる。いつか記事に起こすかもしれない。

11.量子とはなんだろう/松浦壮

読了レベル:読了
ブルーバックス。量子力学のざっくりとしたイメージを掴ませてくれる本である。量子力学は1冊では理解できないと感じたので読んだ。とても分かりやすく入門に良いと思う。特に量子とは粒子でも波でもなく、その不確定性が本質なのだと教えてくれる。アインシュタインは微視的な事象は本質的に確定しているものの観測不能故不確定性を感じているという趣旨の論を主張し量子力学を否定したのだが、実際にはベル不等式の破れ(2022年ノーベル物理学賞)により量子には本質的に不確定性が存在しているという観測がなされているのである。この本は入門者が数式ではない部分の物理学的直感を得るのに最良の選択肢になるのではないだろうか。

12.トポロジカル物質とは何か/長谷川修司

読了レベル:7割
ブルーバックス。物性物理をやってみたいというモチベーションがあるので読んだ。量子論の復習にもなると思う。第三部(終部)がトポロジカル物質の項なのだがメインの所で疲れて辞めてしまった。第Ⅱ部までで物性物理の基礎的(?)な興味深い事が、歴代ノーベル賞を紹介しながら数式とかいらずに書いてある。読むには流石に電磁気学と量子論の基礎的な事は必要になる気がした。物理はこういう直感を高める平易に読める本が多くて面白いと思う。

13.時空と重力/藤井保憲

読了レベル:7割
一般相対性理論を知りたくて購入。今読んでる最中。Emanさんのサイトで勧められていたというきっかけがある。第1章が特殊相対性理論で第4章が一般相対性理論である。地味に1章が難しくて2章以降急に読みやすくなった。特殊相対論については「解析力学/渡辺悠樹」で知っていたのだが、なるほど電磁気学におけるMaxwell方程式を慣性系に依らず記述したいのね、という所から空間と時間を本質的に分けない事が重要なのである。一般相対論については重力と慣性力が物理的に区別不能というモチベーションから始まる。即ち重力を慣性力として外力(※但し見かけの力)に組み込むと空間変数$${x}$$を持つ外力となるが、それ故Lorentz変換が曲線座標変換になるという事である。純粋数学的には微分幾何Riemann幾何に対応している。記述は情緒的で分かりやすいものの文字の意味とかを戻りながら確認しないといけないのでサラサラとは読めなかった。

14.量子力学の数学的構造Ⅰ

読了レベル:読了
関数解析のスペクトル分解に特化した本。続編は数理物理学だがⅠは単なる純粋数学。証明や論証があまりにも丁寧で解析系の鉄人であれば脳死で読めると思う。なので私みたいな社会人にとってはとても良い。やりたいのは続編における準備で、量子力学の数理モデル的に言えば演算子解析、即ち自己共役作用素$${A}$$に対して作用素$${f(A)}$$を定義できるというのが重要なのである。類書としては「ヒルベルト空間と量子力学/新井朝雄」があるが、学部生の頃読んだ時に量子力学を全然知らずいきなりCCR表現とか出てきて意味不明だった記憶がありこちらのシリーズの方が入門者向けに良いのではないかと思う。純粋数学のスペクトル分解については「関数解析(岩波基礎数学選書)/藤田宏、黒田成俊、伊藤清三」の分冊だった頃の3冊目もあり学生時代に読んだ記憶がある。但し純粋数学から追った時にモチベーションが沸くのか問題がある。

15.量子力学の数学的構造Ⅱ

読了レベル:7割
続編。Ⅰは単なる関数解析なのでこっからがメインである。量子力学の数理モデル、その為の公理系を規定したいのだが、その際のモチベーションが丁寧に書いてあり、その後自由粒子多体系に関する解析が行われる。超建前チックな見方をすれば訳も分からず公理系を認めれば、そっからは演算子解析に過ぎないという見方も出来るが本質的では無いだろう。理解する為には自身の中の物理的直感が公理系に対して最も近くなる瞬間が重要であると感じた。即ちその高まりの瞬間に公理系を認め、一旦認めたら数学的解析に移るという感覚が無いと苦しいともう。この事ゆえ数学は必須だが、物理における量子的感覚もまた重要であろう。内容はⅠに引き続きギャップがまるでなくほぼ脳死で読める。めちゃくちゃ良い本なので今度記事にしたい。

まとめ

今年も結構読みましたね。数理科学はあくまでも一つの趣味に過ぎないのでリアルとのバランスが大事だと思っています。
また近い内に信念の抱負等を執筆したいと思っています。数理科学関係ありませんがそちらもよろしくお願いします。下は昨年の抱負記事です。

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