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二重極限の数理(微分積分学)


微積のエッセンス

微積において二重極限はあらゆるところに出てくる。例として二重数列、二階微分、二重積分である(※微分や積分は定義に極限が入っている)。例えば二重積分を考えると、それが逐次積分の方法を用いて計算可能であることは期待したいところである。高校数学では例えば回転体の断面積を$${S(x)}$$を演算し、これを積分する事で体積を求めるが、これは逐次積分こそが二重積分であると暗黙的に仮定しているのである(※そしてそれは問題ではなく直感的に自明である)。大学以降本格的に証明を用いて考察するようになると、まず重積分と逐次積分は定義が異なる事を習う。そして次に逐次積分が有効な場合(※即ち二重積分と同値な場合)の条件を考察するという流れになる。
特に積分に関してはルベーグ積分により関数の可測の概念が本質的に関数の連続性と異なるようになる前までにおいて、その問題は二重極限が逐次極限として求まる場合の条件を考える事と本質的に同等である。また、積分と極限の交換、積分同士の交換(※フビニの定理とよぶ)、積分と微分の交換、二重級数の問題、項別微分、項別積分・・・等は実は慣れると考えることなく、初等的微分積分の枠組みにおいては全て本質が一致しているのである。二重極限の逐次化の(十分条件の)本質を一言で言うと「他方のパラメーターがもう一方のパラメーターに対して一様収束極限を持つ」ということになる。微積の本ではこれらの定理がバラバラに出てくるので「沢山覚えなきゃいけない」とガックリくるかもしれないが、そうでは無いという事をこの記事で紹介したい。

二重数列について

まず最も簡単な二重極限のモデルが二重数列である。しかし前節で述べた通り、初等的な意味における二重性を探るという取り扱いの場合には本質は(ほぼ)ひとつなので実際的にはこれさえ分かっておけば良いという事になる。一応、二重数列については解析概論(p183付近)を参考にした。

二重極限

任意の正数$${\epsilon}$$に対して、或る$${N}$$があり、$${m > N, n>N}$$となる時に$${|a_{m,n} - l| < \epsilon}$$を満たす時に$${a_{m,n} \rightarrow l}$$と見做す。これは二次元座標における格子点を$${a_{m,n}}$$と見做した時に対角線の要素が$${l}$$に近づくことを望んでいるのであり、つまり$${m,n}$$のbiasが各々のパラメーターの極限動作に依存してはいけないという事を望んでいる。

逐次極限

$${n}$$を固定するごとに存在する$${a_{m,n} \rightarrow a_n }$$に対する$${a_n}$$の極限$${l}$$の事を意味する。二重極限は直感的に素直な定義であるので、問題は逐次極限がどの場合に有効になるかという事であるが、例えば分数$${m/n}$$を考えてみてもその全てが有効ではない事はすぐに分かる。

逐次極限が有効である為の重要な(十分)条件

定理は次になる。「各点$${n}$$において$${a_{m,n} \rightarrow a_n}$$が存在し、更にそれが$${n}$$に対して一様であり、かつ$${a_n \rightarrow l}$$なら二重極限は$${l}$$として存在する」。ここにおける一様とは任意の正数$${\epsilon}$$に対して$${n}$$に無関係な$${M}$$が存在し、$${m > M}$$ならば$${|a_{m,n} - a_n| < \epsilon}$$を満たすという意味である。証明は$${|a_{m,n} - l| \leq |a_{m,n} - a_n| + |a_n - l|}$$なる不等式を使う事で明らかであるが、一様の定義により右辺第一項は$${n}$$に依らず$${\epsilon}$$未満に抑えれる故、本質がパラメーター$${m}$$非依存の$${a_n}$$の収束問題に移るという事である。逆に、問題をpointwiseな問題に落とし込みたい場合で上記不等式を使う場合、本質は$${|a_{m,n} - a_n|}$$の取り扱いなのである。$${|a_{m,n} - a_n|}$$はパラメータ$${n}$$依存の量だが、それをパラメータ$${m}$$極限的には$${\epsilon}$$を最初に取ったうえでその幅において$${n}$$非依存量と思いたいという事なので、この項の取り扱いは$${m}$$極限的に$${\sup_{n > N}|a_{m,n} - a_n|}$$としてしまっても同じである(※ただし$${N}$$は$${m}$$非依存)。

二重積分について

上記定理から多くの派生が生まれるが、その殆どを読者の演習に回すとして、ここでは連続関数versionのフビニの定理が何故摂動として導かれるかを紹介しよう。(※考察はオリジナル)

二重積分の定義

二次元座標の各軸に対して極限的な意味でbiasをかけずに(二次元を)分割する事で得られるリーマン和の極限の事である。(※詳しい定義は成書をご覧ください)

逐次積分定理

定理は次になる。「矩形$${K(a \leq x \leq b, c\leq y \leq d)}$$について$${f}$$が連続であるならば、$${\int_{K} fd\omega = \int_a^b dy \int_c^d f dx}$$が成り立つ」。さて、明らかに問題は例えば$${x}$$軸における無限小分割の矩形の族$${\{\Delta_{x}\}}$$についてはリーマン和の極限$${F(y) = \lim\sum f|\Delta_{x}|}$$が$${y}$$について一様であるかどうかである。故にCauchy列$${\{\sum f|\Delta_x|\}_{\Delta_x}}$$の$${y}$$一様評価を出せば良いが、閉区間上の連続関数は一様連続である故$${f}$$の値域が有界である事を用いると、本質的にこれは「$${\sup_{\{\Delta_x\}}}$$(分割上の$${f}$$同士の差の上限)$${\times \sum|\Delta_x|}$$が小さければ良い」という問題に帰着できる(※何故でしょうか?演習問題)。右オペランドは積分範囲の大きさなので定数であり、左オペランドは連続関数の一様連続性により分割幅を小さくすれば$${y}$$一様に小さくする事が出来る。故定理が証明された。(※証明はオリジナルであるが恐らく間違いないと思う)。

まとめ

二重極限のエッセンスについて紹介してみました。この辺は微分積分学の中でも重要な立ち位置で、実際に私は学んだ当初それぞれがバラバラで有機的な繋がりを見いだせていなかったような気がします。分かると定理等は覚える必要が無く「なーんだ」という感じになるかと思いますが、それまでは非本質的な所に引っ張られ試行錯誤して苦しい思いをするというのも数学においてはよくある事でしょう。この記事をその症状の処方箋としてお使いいただければ幸いです。

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