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闘病記(28)大豆、金だらい、お手玉、フラフープ

 「大豆、金だらい、お手玉、フラフープ」これらの組み合わせから、あなたは何をイメージすだろうか?
 実は、腰をくねらせながらフラフープを回し、右手に持った金だらいに大豆を入れて器用にサンバのリズムを刻み、左手に持った3つのお手玉をくるくると回し投げながらも笑顔を絶やさない状態をキープするという新しいリハビリメニューがあるんです、というのは嘘だけれど、これら4つの道具が「作業療法」と言われるリハビリテーションに使われるものであることは本当だ。
 まず、「お手玉」。これは「物を持って短い距離を移動させ、正しい場所に置く」と言う動作を身に付けるために用いられる。はじめに作業療法士のNさんが、30センチ× 30センチ位で3段に区切られた小さな棚を机の上にセットしてくれる。そして、お手玉を6つほどを棚に並べていく。自分たちは、その並べられたお手玉を取り、机の上に置いていくのが最初の練習だ。
「いくらなんでも簡単すぎるんじゃないの?」と思いながら作業に取り掛かってみて驚いた。腕も手も、全く思い通りに動かないのだ。肘から先が大きくはね上がるようになり、30センチの棚の大きさはおろか、仮に60センチの棚があったとしても手の動きは大きくはみ出してしまったことだろう。
 Nさんの説明によれば、脳が損傷し感覚がダメージを受けた場合、力の出力の仕方がわからなくなるのだと言う。病気になる以前の感覚で力を出力すると(この場合お手玉を取っておこうとする動作)その動作が大きすぎるものとなって、うまくいかないのだそうだ。
「少し重りをつけてみましょう。」
Nさんが500グラムのリストバンドを巻いてくれた。
「これは、少しでも動きを小さくするためのものですか?」
「その意味もありますが、もう一つ、これで手がどの位置にあるのか脳にしっかりと認識をさせると言う役割があります。」
脳に認識させる、ということを注意しながらやってみると2回目は1回目よりもうまく腕を動かすことができた。
 自分は正直、「なんでお手玉なの? もっと他に見ばえのいいものがありそうな気がするけどな。」と思いながらお手玉を使っていた。しかし、練習を繰り返すうちに「ああ、この練習にはお手玉以外にはないな。」と思うようになった。理由はお手玉の手触りだった。感覚のない手のひらは、普段何かを感じ取ると言う事は無いに等しい。しかし、お手玉は、うまく動かない指で布の部分をつまみ上げたり、全体を手のひらでつかんだり、様々な方法で触れることができる。また、そのシャリシャリ、コロコロした触り心地はなんとも気持ちが良い。本来、非常に繊細な神経が集まっている感覚器官である手のひら。その感覚を失ってしまった自分たちにとって、「気持ち良いもの、心地よいもの」に少しでも触れると言うこと事はとても大切なことなのだった。
 長々とした枕の話と(少しでも、たくさんの人に興味を持って読んでもらいたいのです。)お手玉について熱く書いている間にあっという間に字数が膨らんでしまった。「大豆、金だらい、フラフープ」についてはまた次回に。

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