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中之島香雪美術館で開催の「法華経絵巻と千年の祈り」を見に行ってみた!

大阪の文化の中心地とも言える中之島エリアにある「中之島香雪美術館」。

香雪美術館には、朝日新聞社の創業者である村山龍平氏が収集した日本と東アジアの古い時代の美術が収蔵されており、年間を通じてさまざまな展覧会が開催されている。

開催中の法華経絵巻と千年の祈り ♯PR


2024年10月5日(土)~11月24日(日)の期間は、特別展「法華経絵巻と千年の祈り」が開かれており、法華経にまつわる作品が会場に並んでいる。国宝4件、重要文化財11件を前期・後期に分けて展示する。
(前期:10月5日~10月27日 後期:10月29日~11月24日)

会場の様子

この展覧会にフリースタイルな僧侶たち編集部員(以下、フリスタ)2人が行かせていただき、noteでその魅力を紹介していく。実は、フリスタ編集部として同館を訪れたのは、今回で2回目。今回、会場には『法華経』を絵画にした作品が並ぶという。

法華経はよく聞くお経の名前であるが、どんなお経なのだろう。その前に、そもそもお経って何だろう。今回の記事では、本展示の作品を通じて、そんな素朴な疑問を見つめていきたい。本編に入る前に法華経の歴史を少し振り返ってみよう。

全ての人が仏になれる可能性があると説いた法華経


法華経は、アジア諸国で広く奉ぜられてきた大乗経典で、別名、「諸経の王」とも呼ばれている。サンスクリット語の原本は、インド、ネパール、チベットで発見されており、その原本は漢文、チベット語、ウイグル語、ハングル語など、さまざまな言葉に翻訳されている。

漢訳の法華経

日本では、仏教が導入された時代において、法華経が聖徳太子によって講義され、『法華義疏』(ほっけぎしょ)という注釈著が作成された。その後、今日に至るまで、天台宗や日蓮宗を始めとする日本のさまざまな宗派の間で法華経の教えが尊重されている。

法華経が誕生した時代、インドでは、厳しい修行や仏教論理学を学ぶ部派仏教が栄えていて、一般的な暮らしを営む人々にとって仏教は、遠い存在だった。そんな時、伝統的な教団に属さない宗教家たちによって興隆したのが大乗仏教であるが、出家主義の部派仏教との間で激しい対立が起こってしまう。大乗仏教が従来の仏教に対して批判する中、法華経は従来の仏教を容認しながらも、従来では救われないと考えられてきた悪人、在家仏教徒、あるいは女性などに対して「全ての人が仏になれる可能性がある」と説いたのだ。全ての人をまるく、等しく包んでくれる法華経。その世界に浸れるのが、今回の特別展なのだろう。

それでは、展示の内容をフリスタ3代目代表の加賀俊裕(以下、加賀さん)と本展を担当した学芸員の郷司泰仁さんと一緒に見ていこう🪷

フリスタ三代目代表の加賀さんと香雪美術館の郷司さん

全ての人に向けた法華経とは

ーー今回は、法華経の世界観が図絵などで表現された作品の展示ですが、「そもそもお経って何だろう」というところから、お二人にお話を伺っていきたいです。

加賀:お経というと、お葬式の時にお坊さんがウニャウニャ唱えているようなイメージがあるかもしれないですね。元々は、お釈迦さまの教えは口伝えで弟子たちに伝わっていたのですが「しっかり形に残していったほうがいいんじゃないか」ということになりまして。
お釈迦さまの弟子が「私はこう聞いたんですよ」ということを集めてお経という形にまとめていきますと、8万4千もの数になったと言われています。

ーーお釈迦さまの亡き後、弟子たちが集まって、お釈迦さまの教えを編纂していくと、「あんなことも聞いた、こんなことも聞いた」と、膨大な数になったのですね

加賀:お経がたくさんあるということは、それに対応した悩みがあって、それによって救われた事実が数多くあるというのがお経が誕生した背景だと私は思っています。

右から加賀さん、郷司さん、藤山(筆者)

ーー法華経はどんな悩みに応える形で生まれたんでしょうか?

加賀:お釈迦さまの時代というのは、僧侶は出家して世間から離れることで、さまざまなものを手放し、安らかな心を得る修行が行われていました。

お釈迦さまが亡くなった後、弟子たちの間で「お釈迦さまは、何でこんなこと言ったんだろう」、「ここはどういう意味があるんだろうな」などと、お経自体を分析した哲学のようなものが誕生していくんですね。そうしていくと、お釈迦さまの教えが大学の学問みたいになっていくんです。

一方で、「出家して修行はできないけれど、日常生活を送りながら、私も救われたい」「おおらかな境地にいくには、どういう風に生きていったらいいのかな」と思う方が出てきます。そうした方を救う教えというのが法華経をはじめとする大乗仏教の経典に説かれていると伝わっています。


🪷法華経って何だろう?🪷

法華経は、お釈迦さまの晩年にあたる72歳から79歳までの8年間で説かれた教えであり、まさにお釈迦様の集大成の教えだと言われている。法華経は全部で28章に分かれていて、その内容は、大きく前半と後半に分けられている。前半の14章は迹門、後半は本門と呼ばれている。

ここでは全ての章を詳しく紹介しないが、法華経の中でも重視される「法華経方便品」の最後の偈を取り上げてみたい。法華経の特徴の一つである「修行者以外でも、その人に応じた修行や供養で成仏できる」ということが著されている。

乃至、童子の戯れに 若くは草木及び筆
或は指の爪甲をもって 画いて仏像を作る
かくの如き諸の人等は 漸漸に功徳を積み
大悲心を具足して 皆、已に仏道を成じ
但、諸の菩薩を化いて 無量の衆を度脱せり

あるいは子どもが草や木 筆や爪で仏像の姿を描く
こういう人たちは、順番に功徳を積み、
やがて大慈悲を備え、仏道を完成させる。
そうして、数々の菩薩を導いて、
計り知れない多くの人救うことになる。

法華経方便品

他にも、音楽で仏を供養し、喜びの心で歌を歌って仏の徳を讃えるだけでも、仏の道を完成させたことになるとも。厳格に戒律を守って修行するという形ではなく、一般社会で生きる人であっても、信仰心を持って仏の像を描いたり歌にしたりするだけでも救いがあるという教えが象徴されている。


お釈迦さまの教えを聞きにくる菩薩さん

法華経曼荼羅 鎌倉時代 京都・海住山寺 重要文化財

郷司:こちらは、海住山寺さんに所蔵されている法華経曼荼羅という作品で、国内では一番古い法華経曼荼羅になるかと思われます。ここに描かれているのは、法華経28章の中から数章を取り上げて、お経の内容を絵画化したものになります。

ーーこの作品の中に複数の法華経の章が描かれているのですね。どんな場面が描かれているのでしょうか。

郷司:まず一番目立つのが、お釈迦さまが説法している場面です。
左真ん中に描かれているのが、霊鷲山(りょうじゅせん)という山の麓で、お釈迦さまが説法しているという場面です。

霊鷲山でお釈迦さまが説法している様子

この場面は、法華経の一番最初の序品を表していると言われています。お釈迦さまの白毫から光が放たれていて、その光の先には、地獄や餓鬼などの六道が描かれています。

ーー光が地獄を照らしているシーンはどのようなことを表しているのでしょうか?

郷司:これは、それだけお釈迦さまの教えが世界遍くどこへでも広がっているということです。実は、地獄だけに光が届いているのではなく、地獄から一番上の天上界までの広大な世界を遍く包みこんでいるんです。

加賀:法華経で大事にされているのは、遍く全てを救うという、もれなく全てを救いとるというところですね。

釈尊の説法があると聞きつけた菩薩さんが地面を割って現れる

郷司:そうですね。その右の中盤くらいには、小さい人たちが描かれているように見えると思うのですが、あれは、従地涌出品(じゅうじゆじゅっぽん)という章を表していまして、菩薩さんたちが割れた地面からニョキニョキと出てきた場面を表しています。

加賀:臨場感のあるシーンですね。お釈迦さまが霊鷲山で説法されると聞いた弟子たちが、『その教えを一言も漏らさずに聞こう』という願いの表れでもあるのかなと思いました。

郷司:この左下の部分は痛んでいて少し見づらいのですが、お釈迦さまの神通力を表した場面というふうに考えられていまして。口元から舌が伸びているような表現がありますので、これは神通力の一つである広くて長い舌が天上界まで伸びているということを表現しています。

ーー舌が伸びている描写には、どういう意味が込められていますか?

郷司:それだけ、言葉に力があるということを表しているんだと思います。

菩薩さんが地面を割って出てくるなど少し現実離れした話だと思うのですが、お釈迦さまがそれだけの説法をされたのかなということが表されているのだと思います。

蓮華座から降りて、教えを説くお釈迦さま

法華経曼荼羅 鎌倉時代 奈良国立博物館蔵

郷司:こちらは、滋賀の観音正寺さんがお持ちだったものです。特徴的なのは、一番上にお釈迦さまの説法の様子が描かれているところです。その下に法華経の各章が絵画化されています。先ほどの絵画は、章の中でも選りすぐりのものですが、こちらは28章を全てを描いているのが特徴になります。

上にはお釈迦さまの説法する様子が描かれていると言いましたけれども、左右に法華経第25章の観音経(観世音菩薩普門品)という場面が描かれていまして。

太陽が描かれている

向かって右側の太陽が描かれているのは、「高い山から落とされても、観音様を拝むと救われる」という。

加賀:観音経は、どのような苦難にあっても観音様を拝むと救われると説かれているお経ですが、向かって右側の太陽が描かれているシーンは、「高い山から落とされても、観音様を拝むと救われる」という場面を表しています。髪の毛一本ほどの傷もつかなかったんですよね。

郷司:左の方は観音様の名前を唱えると鬼のいる世界から救われたというような場面です。どちらも諸難救済の場面というのが描かれています。

赤色と緑色の鬼

郷司:さらに左下のところには、山の中の状況が描かれているのですが、上空には白い象に乗った普賢菩薩という菩薩さんがおられます。この菩薩さんは法華経を信じる人を守護すると言われているのですが、その下に描かれているお坊さんは法華経を読んでいます。法華経を持っている人や信仰している人のところに普賢菩薩さんがやってきて、守護するという場面が描かれているのです。

加賀:右側では、お釈迦さまが蓮華台から降りて教えを説かれている。こんな状況が我々の目の前にあったら、感動してしまうんですけど。「こんな近くまで!」みたいな。

蓮華台から降りて教えを説かれているお釈迦さま

ーー(加賀さんの仏への愛が凄い)

郷司:あそこは嘱累品(ぞくるいぼん)というところでして。お釈迦さまの前には菩薩さんが座っていて、その菩薩さんに法華経を布教する力を与えています。その与えるという行為が頭を撫でるという所作で表されているのです。実はよく見てもらうと蓮華座が光を放っています。

加賀:ちょっとピュって出てるんですね。こういった図絵もそうですが、法華経というお経を我々は意味も理解しながら読んでいますが、聞いている側からすると「やっぱり何言っているか分からないな」と感じることもおありかなと。こうした図絵は、法華経の情景というものを知ってもらうための意味合いもあったのでしょうか?

郷司:やっぱりお経は文字だけで書かれていて、それを音読するだけなので、ちょっと理解しづらいところはあるのかなと思います。そこで今回展示しているもののように絵画化しているものや、この展覧会のポイントにもなっている法華経絵巻などは仮名混じりで今の私たちでもくずし字が読めれば絵本のように読みやすいものになっている。
経を絵画にしたものには、文字情報をわかりやすくする効果があったのかなと思います。

ーーお経というと、「専門的な知識がない人には、よく分からないもの」というイメージがあるかもしれませんが、こうして絵画化されたものを見ながら解説を聞かせていただくと、お経の中に説かれている教えに触れることは、自分の心を見つめ直す機会になるんだということを感じました。ありがとうございました。

(後編へ続く)


ただいま中之島香雪美術館で開催中の「法華経絵巻と千年の祈り」は、前期と後期で展示が入れ替わります!🪷
(前期:10月5日~10月27日 後期:10月29日~11月24日)

是非とも、会場で法華経の世界観を堪能してみてくださいね!🪷🪷🪷




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