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幸福日和 #079「今日に彩りを添えて」

今日はどんな色とともに
一日を過ごそうか。

昔からそんなことを考える習慣がありました。

例えば、毎日の服の色。

僕は自分の好みというよりは、
その時の感情を調整するすべとして、
洋服の色や柄を選んでいた気がします。

気持ちが暗いときには、
落ち着いたジャケットの中に
明るい柄のシャツを差し込んで心に彩りを加え、
仕事で追い込まれて心が高ぶるような時には、
やさしい色のインナーを着ては
密かに心を落ちつかせる。

雨の日が続く梅雨の時期。
傘を選ぶのでさえも色彩には気をつけました。
見た目は普通の傘だけれど、
傘の内側だけは華やかな色彩や模様が広がっていた。
雨の日でさえも、
気持ちの中だけは晴らしていきたかった。

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昔から布のハギレを集める習慣があって、
美しい布に出会う度に、買い求めていました。

たくさんの生地に出会う中で、
偶然にも、身近にある洋服やファブリックと全く同じ
色彩や柄に出会うこともあって、
そんな形になる前の生地との出会いにもワクワクしていた。

なぜ布を集めるようになったかといえば、
家具デザイナーのレイ・イームズさん(奥さんのほう)や
ミナポルホネンの皆川さんのテキスタイルの考え方に触れて、
「一枚の布」が生活を彩る可能性に引き込まれていったからなんです。

シンプルなシルエットの洋服も
無機質な家具も布地による色彩が加わるだけで、
何気ない生活の場面が、どこまでも豊かになっていくことを
何度もこの身で実感してきました。

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僕は、そうして数々の布を集めては、
一枚一枚の色彩によって日常を彩ってきたんです。

友人と家でワイン会をする時には、
一枚の布を選んでは、さっとテーブルに広げて、
ワインの集いに彩りを添える。

また、気持ちが晴れないとき。
ソファーに真っ青な布を覆い被せて、
海や空をおもい描きながら
ゆっくりと思索にふけっていました。

実はそんな時、
すでにこの孤島生活への憧れも芽生えてもいました。

灰色の日常の中で、
そうして彩りを添えていきながら
自分なりの色彩感覚で日常を描いていったんですね。

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そんな中でも、
「これだけは、この色」と決めていることがあります。

それはハンカチの色。

昔から、ハンカチの色だけは紫色。
百貨店に売っているブランド物から、
海外放浪の際に買い求めたものまで、
紫色のものが目につけば買い集めていました。

なぜ紫色なのか。

それは、長年続けてきた茶道の袱紗の色が紫色だったから。
「袱紗(ふくさ)」というのは、茶道のお点前の中で使われる道具の一つ。
見た目はただの布なのだけれど、
道具を清める時や、お茶碗を差し出す時に使う
礼を尽くすために、無くてはならない道具なんです。

この布一枚があって、はじめて作法を表現できるし、
主客が互いに礼を確かめ合うことができるんですね。
僕の祖父は、袱紗を忘れると絶対に茶道具に触れさせては
くれませんでしたし、
一度だけ、祖父と一緒に招かれた茶会の道中、
袱紗を忘れたのに気がついて、
お茶会の参加を許してもらえないこともありました。

そうした経験もあってか、
僕は、その「紫色」の袱紗には、
物理的な一枚の布としての機能以上に
精神的な色の作用があるように思えてならなかったんですね。

僕が思うにハンカチとは、
「現代の袱紗」のような存在なのではないかと思うんです。
汚れを清める時や誰かに物を差し出す時、
その人の優しさが、そっと差し出されたハンカチとして
あらわれることもあります。

いつだったか、
フランスのバザールで、手作りのクッキーを差し出され、
とっさに自らのハンカチを広げて受け取っていた
おばあさんの姿が今でも忘れられません。

茶道具を扱う袱紗のように、
ハンカチが日常の色々な場面をつないでゆく。

僕にとってはハンカチというものは
ただの衣料品ではないんです。

だからこそ、いつしか、袱紗の精神的な色を重ね、
そこに紫の一色を求め続けてきたのかもしれません。

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その時の想いに寄り添ってくれる色彩もあれば、
変わらずに支え続けてくれる一色もある。

そんな彩りの数々に支えられながら
今日も歩んでいる気がします。

皆さんは今、どのような
彩りに触れていますか?

どのような色に心を動かされ、
安らぎを得ていますか?

いつでも、いつまでも。

そうした彩とりどりの日常の中を
歩き続けてゆきたいと思うんです。

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Ryota【孤島物語】毎日更新
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