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レトロ座 2021年初夏

世界中に散逸したフィルム

【メトロポリス】が公開されるという情報はどこで見聞きしたのか、よく憶えていない。1980年代だからMTVなのか、それとも日曜洋画劇場だったろうか。ただ、ものすごい映画がやってくるという配給会社及びマスコミの意気込みに満ちた宣伝感と、モノクロサイレントの闇からぼうっと浮かんでくるような、ひかり輝くロボットのアイキャッチというのはおぼろげながら印象に残っている。しかし鑑賞には至らなかった。自分のおこづかいで映画を観る年頃になってもこの大作に出会うことなく時は過ぎてゆく。 

1985年、突如ロミー・シュナイダーのファンになり高校ではクラスメイトにジーン・ケリーとシナトラを勧められ、アステア&ロジャースによるダンスの高い技量と優雅さにわくわくした。一方で当世の人気作スター・ウォーズ第2作「帝国の逆襲」及び第3作「ジェダイの復讐」も観ていて人間と異星人とロボットとの共存世界を体験できるSF映画の面白さに気づいたり。
1986年頃、日曜洋画劇場でアルフレッド・ヒッチコックの作品を4週に渡って放映する特集が組まれた。【裏窓】【知りすぎた男】【めまい】【ハリーの災難】ハリーの災難以外の三作をテレビで観れたのは良かった。80年代の終わりには「映画千夜一夜」のもとになったマリ・クレール誌の特別対談記事を毎回たのしみにしながら、さらに古い映画への憧れを深めていた。

1994年秋、ジョーン・ベネットとエドワード・G・ロビンソンを目当てに【飾窓の女】を鑑賞したのは前に述べた通りだけど、シアターキノで貰ったチラシの中に監督の代表作がこう記されていた。【ドクトル・マブゼ】(←マブゼって北杜夫の創作だと思ってましたが)【ニーベルンゲン二部作】(←中二の時にニーベルンゲンの歌を詠み中二病になった)【メトロポリス】【M】えっ?メトロポリスってあのC3POっぽいロボ(←失礼)が出てくる?私はいましがた濃ーいミステリ映画を観てきたのだが、こども時分に見たPR画像の光るロボ(←重ね重ね失礼)の映画を撮った人だったの?という驚き。だけでなく【マン・ハント】【恐怖省】【死刑執行人もまた死す】というハードボイルド的格好いいタイトルに惹かれた。内容は知らないのだが。亡命後もアメリカで精力的に創作していたフリッツ・ラングに持っていた違和感がしだいに興味へと変わっていった。しかしそれで彼の映画やフイルム・ノワールを観まくったかというとそうではない。このあとラングの作品を観る機会はミニシアター系においてまったく無く、地方人にとってこれらの作品群はレンタルにしろ購入にしろいずれも取扱いの難しい希少品だったため自然と敬遠しがちに。またしてもラングに接近する事にはならなかった。

【ボヘミアン・ラプソディ】の試写に行った翌年だから2019年、入退院や治療やらで少々ひまになり、AmazonプライムやYouTube動画などを眺める日々を過ごしていた頃。時代の波でしょうか、著作権が切れる作品が続々出てきたせいもあるのだけど、気づけば名作クラシックやレトロ・アヴァンギャルドを気軽に楽しめるような状況になっていた。世の中便利になったものです。Webでの情報も取り入れ「映画千夜一夜」を読み返し、エーリッヒ・フォン・シュトロハイム、ルイ・ジューヴェ、そしてフリッツ・ラングの鑑賞リストを作ることで病床の暇をつぶしていた。ラング作品についてはWikipediaに幾つか丁寧な説明があるのだが、たまたま読んだメトロポリスの項には映画製作の複雑な事情や、まぼろしの映画であり続けた経緯、ラングと妻のたどる数奇な運命などが記されており、興味が再燃。以下はwikiより抜粋した記述のリライトである(自分の備忘用の為)

〈1927年ドイツにおいてサイレント映画【メトロポリス】は公開されたものの、主にアメリカ興行の諸事情により大幅なカットと編集がなされ、なお採算が合わず映画会社ウーファが倒産したこと、また第二次世界大戦の戦禍によりフィルムが各地に散ってしまったがゆえに世界中に様々の編集版、いわゆるヴァージョン違いが存在した。
戦後三十数年を経て、映画音楽で名高い作曲家ジョルジォ・モロダーが各地のコレクターからフィルムを買い取って再編集した【モロダー版メトロポリス】が1984年に公開された。音楽も彼自身が手がけ、サウンドトラックにフレディ・マーキュリー、ジョン・アンダーソン、アダム・アント、ラヴァーボーイ他が参加。その後2000年代に入るとこれまで行方不明だったフィルムが発見され、その都度さらなる編集・復元がなされ発表されている。124分、150分版までアップデートされている。なお元のドイツオリジナル版は210分である〉

Amazonのレヴューではモロダー版は概ね好評だが、一方で本家本元ドイツオリジナル版ゴットフリート・フッペルツの音楽でなければメトロポリスとは言えないという御仁も。こればかりは聴き比べてみないと自分では判断しかねるし、ともあれオリジナル版をしっかり観たい気持ちのほうが強い。まず現在手元にあるBlu-ray(2021年にやっと入手した。モロダー版ではない)がどのヴァージョンなのか確かめなければ。

というわけでメトロポリスの事は後日、鑑賞後に述べさせて頂く。今回自分の記憶辿りに終始して長くなってしまった。