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#向坂くじら
あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #1
#1 現代文の先生のこと
わたしが卒業した高校の面談室には、聖母像が飾ってあった。四人がけの机だけが置いてある窓のない部屋。二年生の夏休み明け、教室ではなく、そこへ登校していた時期がある。
本来の登校時間より少しあとに面談室に入ったら、一日そこから出なかった。そのかわり、授業がない教師がかわるがわるわたしのもとへやってくる。そして、洞窟のなかで出会った生きものをみるような目で、おっかなびっく
あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #9
#9 見知らぬ三十九歳のこと
大人になりそこなってきた、という体感がある。二十三歳までにこなさなければいけなかった儀礼のいくつかをスルーしてしまった、というほうが正確かもしれない。
たとえば、大学に入るまで、友だちと夕食を食べたことがなかった。どうやらみんなは高校の放課後に買い物をしたりゲームセンターに行ったりしているらしい、そして家族ではなく友だちと夜ご飯を食べることがあるらしい、そう勘付