見出し画像

戦勝記念日祝福のスピーチ

5月9日は戦勝記念日。2022年は、戦勝の77周年が祝われている。これについて日本のメディアでは、昨今のネタと混ぜこぜにして、あることやないことが沢山流されている。案の定ではあるが。
そんなメディアの中で、NHKからプーチン露大統領の戦勝記念パレードのスピーチ全文が出ているので、これを題材にプーチン大統領が露国民、そして世界に対して今おくりたいメッセージはなんなのかを考えてみたい。

一点お断りしておくと、個人的にはNHKはけしからない輩の集団と考えている。時間があれば自力での和訳も可能ではあるが、既に世に出ているものを自転車操業の様にやり直すのもバカバカしいと考え、今回は応用することにした。悪しからず。
――――――――――――――――――――――――――

全文はNHKのウェブサイト等でご確認頂くとして、ここではプーチン大統領の主要メッセージは何だったのか?それについて当方なりに考えてみたい。

まずここ。
❝ロシアの人々は、ボロジノの草原でも戦った。そして、モスクワとレニングラード、キエフとミンスク、スターリングラードとクルスク、セバストポリとハリコフ、各都市の近郊でも戦った。そして今、あなたたちはドンバスで、われわれ国民のために戦ってくれている。祖国ロシアの安全のために❞

ボロジノの戦いは露史上に名を残す有数の激闘の一つ。ナポレオンがモスクワを更地にして帰ろうとしたときにボロジノで露軍につかまって、当時まで見たことのない敗北を受ける、それがボロジノの戦い。ここではドンバスもボロジノと並ぶ、露の歴史の残る戦いの一つとしてプーチン大統領は強調している。そして、キエフ、ハリコフというウクライナの都市とベラルーシの首都ミンスクの名をモスクワ、レニングラード、セバストポリ(クリミア)と並べているところが興味深い。要は、これら全てが露だと言っているのではないだろうか。

次はここ。
❝去年12月、われわれは安全保障条約の締結を提案した。ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。しかし、すべてはむだだった。NATO加盟国は、われわれの話を聞く耳を持たなかった。つまり実際には、全く別の計画を持っていたということだ。われわれにはそれが見えていた。
ドンバスでは、さらなる懲罰的な作戦の準備が公然と進められ、クリミアを含むわれわれの歴史的な土地への侵攻が画策されていた。キエフは核兵器取得の可能性を発表していた。そしてNATO加盟国は、わが国に隣接する地域の積極的な軍事開発を始めた。このようにして、われわれにとって絶対に受け入れがたい脅威が、計画的に、しかも国境の間近に作り出された。
アメリカとその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた。
繰り返すが、軍事インフラが配備され、何百人もの外国人顧問が動き始め、NATO加盟国から最新鋭の兵器が定期的に届けられる様子を、われわれは目の当たりにしていた。危険は日増しに高まっていた❞

特に細かな解説はせず、やはり一貫してこの主張を貫いているところを抑えておきたい。

そしてこれだ。
❝ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった。主権を持った、強くて自立した国の判断だ❞

ここが重要。最も重要なのは『主権を持った』という部分だ。前段落に『アメリカとその取り巻き』とNHKが訳した部分(当方に言わせると『アメリカとその手下』とプーチン大統領が言っていた部分)と合せると、露はもう米の手下ではないとここで主張している。これは、対米というよりも対国内の親米というか、プーチン打倒を狙っている勢力に対するメッセージなのではないだろうか。つまり、プーチンのバックについている力は米よりも強いのか?それとも、露国民からの絶対的な支持を受ける自信があるのか?何れにしてもこれを言える様になったプーチンの次の動きは今までよりも派手になる予感がする。

更にこの言葉。
❝・・・われわれは、祖国への愛、信仰と伝統的価値観、先祖代々の慣習、すべての民族と文化への敬意を決して捨てない❞

ここ数年続いている、キャンセル・カルチャーとかLGBTQ+なんとかとか、ポリティカル・コレクトネスとかグローバリズムとか所謂リベラルが極限まで行ったときの悪い状態に世界中の大半が飽きて、それを拒絶していることをプーチン大統領も当然ながら理解している。そして露はそれと違うという主張だ。この様な主張を出来る国のリーダーは何人もいない筈。

今度はこんな言葉だ。
❝われわれは、大祖国戦争によって命を奪われたすべての人々、息子、娘、父親、母親、祖父母、夫、妻、兄弟、姉妹、親族、友人を悼む。
2014年5月に労働組合会館で、生きたまま焼かれたオデッサの殉教者たちを悼む。ネオナチによる無慈悲な砲撃や野蛮な攻撃の犠牲となった、ドンバスのお年寄り、女性、子どもたち、民間人を悼む。そしてロシアのために、正義の戦いで英雄的な死を遂げた戦友を悼もうではないか❞

つまりここでも、プーチン大統領は、ウクライナのネオナチと第二次世界大戦のナチスドイツを同類扱いしている。命は何れも尊いので、気持ちは理解するが、このような比較の露国民への影響はきっと絶大だろう。

ここも参考になる。
❝今、ここ赤の広場には、広大な祖国の多くの地域からやって来た兵士と将校が肩を並べて立っている。ドンバスやほかの戦闘地域から直接やって来た人々もいる。われわれは、ロシアの敵が、国際テロ組織を利用して、民族や宗教どうしの敵意を植え付け、われわれを内部から弱体化させ、分裂させようとしたことを覚えている。しかし何一つ、うまくは行かなかった。戦場にいるわれわれの兵士たちは、異なる民族にもかかわらず兄弟のように、互いを銃弾や破片から守っている。それこそがロシアの力。団結した多民族の国民の、偉大で不滅の力だ❞

つまり、コーカサス(特にチェチェン戦争)を思い浮かばせる言葉。多民族・多宗教国家の露にとって、民族間争いは常に安全保障の脅威であり続けてきた。だからこそ、『兄弟のように』とか『お互いを銃弾や破片から守る』とか感情的なメッセージとなっているのではないだろうか。

終わりに
今回の戦勝記念日は旧ソ連圏を始め、ソ連出身ディアスポラや露系ディアスポラ(そして露を支援している国の一般国民)を中心に、世界各地で例年以上に幅広く祝われている(日本のメディアではあまり報道されないかもしれないが、英文でも調べてみるとすぐに出てくる)。やはり、特別軍事作戦やプーチン大統領の一連の動きを支持している様に見える。我々は、垂れ流されている情報だけ消費するのではなく、まず正確な情報を入手し、自力で分析していき、正しい状況判断をすべきなのだと改めて考えた次第。

今日はここまで。

いいなと思ったら応援しよう!