伊達メガネよ。我を救い給え。
読者諸氏。
一緒に仕事をしていて、ちょっと頼りないなと感じてしまう人間を想像してみてほしい。
その人間はもしやこんな見た目をしているのではないだろうか。身長が低めで、顔立ちが幼く、筋肉は少なく痩せ細っている。
まさに私である。
この世のありとあらゆる人間の「頼りなさ」のすいを集めて、こねくり回してお団子にして、人の形に成型したのが私であると言っても差し支えない。私でさえ、もし自分自身と仕事をすることになったなら、なんだい、この子、頼りねえ。ちゃんと仕事できるんじゃろな、と思うに違いない。
しかしながら私は、小さな小さな会社とはいえ歴とした経営者なのである。
となると、これは大問題だ。なぜなら、もし経営者でなければ、その「頼りなさ」を売りにして、会社の先輩に可愛がられながらゴロゴロと喉を鳴らして生きていく道があったのかもしれない。
だが、経営者となるとそうは問屋が卸さない。この世の仕事というのは、まず第一に仕事ができそうな見た目の人間に集まってくるものだ。少しでも頼りないなと思われようものなら、すぐに会社に閑古鳥が鳴く始末になるのは目に見えている。
そういうわけで、私は私なりに自分の身から「頼りなさ」の気配を消すのに必死である。
よし、まずは何から手をつけたものかしら。
身長は今さら伸びてくれぬのだから諦めるより仕方ない。
顔立ちが幼いのはヒゲでも生やしたら良いのかもしれないが、体質的になかなか生えてきてはくれない。せいぜい前髪を七三分けのサラリーマン風にして、大人びた感じを出してみるのが関の山だろう。
筋肉をつけようと必死に筋トレをしてみても、なまじランニングが趣味なだけに、せっかく私の体にやって来てくれた心優しい筋肉は、来てくれたそばから雲散霧消してしまう。
お手上げである。そして、そうこうしているうちに29歳を迎えてしまったのであった。
30代に突入すれば、これまで以上に世間様から厳しい目を向けられるに違いない。どうしたもんかいのう。
そんな折に、私を救う救世主が現れたのであった。何を隠そう、「伊達メガネ」様の登場である。
出会いのきっかけはこういう顛末だ。
先週末、同世代の仕事仲間数人で集まって酒を飲み交わした。その際、仕事の打ち合わせの時の見た目についての話になった。20代であっても仕事相手から信頼を得るために、見た目の上で気をつけていることは何か、おのがじし意見を述べていく。
そして、運命の時はきたる。
見るからに仕事ができそうなオーラを纏っている20代前半の後輩くんによると、「伊達メガネ」をすることで若くてもしっかりした印象を与えることができるのだと言う。まさにその瞬間、その言葉が天啓であり福音であるかのように光り輝き出し、私の世界が一変した。
こ、これこそ、まさに私が探していた解答だ。私がシゴデキビジネスマンの風貌を手に入れるには、この手しかない。
善は急げ。翌日になるとすぐ、近所のOWNDAYSに意気揚々と出かけていき、私にとっての救世主になるであろう「伊達メガネ」を連れて帰り給うた。早速かけてみると、なんとも仕事ができそうなオーラが我が身から出ているではないか。きっと出ているに違いない。
その日から、打ち合わせという打ち合わせに伊達メガネをかけて臨むことになったのは言うまでもない。
さて、私に天啓を下した当の後輩くんといえば、身長が高く、筋肉はムキムキ、おまけにかなりのイケメンであったが、そんなことは「伊達メガネ」によって得られるシゴデキオーラの効用に比べれば、実に些細なことなのである。
実に些細なことなのである……。
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