フランスワインを巡る旅 エクス=アン=プロヴァンス、太陽があふれる屋外美術館のようなワイナリーを散策
南仏の町、エクス=アン=プロヴァンス――
この町は、ワインよりも画家のセザンヌや、彼が描いた白い山やオレンジ色の町並みの印象が強い。
この町を訪れたとき、ちょうどフランスのラグビーワールドカップ2023が盛り上がっていた。
エクス=アン=プロヴァンス(以下、地元の人たちの愛称どおり「エクス」と呼ぼう)は開催国フランスチームの本拠地だったこともあり、町がラグビー色に染まっていた。
旅前はずっとワインの銘醸地・シャトーヌフ=デュ=パプやボルドーのことばかり調べていた。
エクスといえばワインよりもセザンヌのことが気になっていたので、ワイン産地としは正直あまり期待していなかったのだけど(何様だ)、とてもユニークなワイナリーに出合った。
その名も、シャトー・ラ・コスト。
このワイナリーは正確にいうと、エクスから車で20分程度のル・ピュイ=サント=レパラード(Puy-Sainte-Réparade)という町にある。
でも、エクスの観光局も、地元の人も、エクスのワイナリーといえばここ!と堂々と紹介していたので、私もならってそうしよう。
ここはエクスとプロヴァンス地方東部に広がるリュベロン地域圏自然公園の間に位置し、200ヘクタールの面積を誇る広大なワイナリーだ。
入口から、緩い勾配のぶどう畑が目の前に広がっている。これまた多くの車を収容できる広い駐車場に車を停めて、いざ、カッコいい建物の受付へ。
その「カッコいい」建物はどこか見覚えのある、コンクリートむき出しのデザインだ。
そうだ、日本人建築家の安藤忠雄が設計したものだ。
そして水面に浮かぶ大きくリアリティのあるクモのオブジェが、来る人を歓迎する。
あれっあんな感じのクモ、六本木ヒルズにもいるよね・・・・・・?
そう、これは六本木のオブジェと同じフランス人彫刻家のルイーズ・ブルジョワの作品だ。
受付で見学料15ユーロを支払い、ワイナリーのマップをもらう。
敷地内にはクモ以外にもたくさんのオブジェが点在しているとのことで、分厚い作品リストと、Ono Yokoのオブジェにつけられるというタグもいただいた。南仏でOno Yokoの作品にとは想像もしなかった。
なるほど、この広大な敷地内には、40ものオブジェが公開されているらしい。
せっかくだから見てみたい。でも、目の前に広がる広大な敷地を前にすると、到底全部見れる気がしない。
でも、安藤忠雄(いくつもある)、隈研吾、そしてオノ・ヨーコは外せないね。
プロヴァンスワインを知るためにここに来たはずなんだけど・・・・・・
まぁ、歩こう。
プロヴァンス地方特有のバスティドと言われる豪邸がこの地に建設されたのが1682年。ここからこのワイナリーの歴史が始まる。
ちなみにここは2009年にABマーク(Agriculture Biologique)の認証を取得し、2013年にはすべての畑がビオディナミ農法へ移行した。
プロヴァンスの自然のリズムに合わせたぶどうづくりを実践しているという。
ここでいくつか感動したオブジェをご紹介。
TADAO ANDO 安藤忠雄
環境を考えるための4つのキューブ
(FOUR CUBES TO CONTEMPLATE OUR ENVIRONMENT 2008-2011)
屋内も暗かった。廊下通過して室内に入ると、灯りがついていて、4つの透明なキューブが人を惹きつける。
それぞれ環境を考えさせられる単語が羅列されている。
丘の上にある建物を目指して着いた先には
TADAO ANDO 安藤忠雄
チャペル
(CHAPEL 2011)
16世紀から丘の頂上にあったものだが、安藤が初めてシャトー・ラ・コストを訪れた時は廃墟化していた。安藤はこの建物に惹かれ、第二の命を吹きこんだ。シンプルなチャペルに対照的な赤の十字架は、ガラス作家のジャン=ミシェル・オトニエル氏のもの。
PAUL MATISSE ポール・マティス
瞑想の鐘
(MEDITATION BELL 2012)
シルバーの柱に振り子の鐘を鳴らすと、ゴーンと音が反響する。無機質無構造のはずなのに、なんだか日本の神社の鳥居と、賽銭箱の上から垂れているしめ縄と鈴と連想してしまう不思議な体験をした。
受付への帰路、坂の上から見たからこそ気づいたものがこちら
PRUNE NOURRY プリュンヌ・ヌリ
マターアース
(MATER EARTH 2023)
妊娠した女性の裸体の一部が地上で露わになっている。
YOKO ONO オノ・ヨーコ
ウィッシュ・ツリー
(WICH TREES 2019)
世界各地に送られているオノ・ヨーコのウィッシュ・ツリーがここにも。アーモンドの木。私の願いもここに託してきた。
16時前に歩き始め、受付に戻った時には18時近かった。
ひとつのオブジェを理解するのに時間がかかり過ぎていたのか、40ほどある全ての作品を観ることはできなかった。
受付のスタッフは、2、3時間くらい散歩を楽しんで~、なんて話していたけれど、もしすべての作品を楽しもうとしたら、半日はみた方がよいかもしれない。
敷地内は歩道はなく、山道のように結構な傾斜がある。距離にして4km位あるようなので、運動靴と飲み物持参は必須だ。
また、敷地内には安藤忠雄が設計した建物にある「Tadao Ando」をはじめ、三ツ星レストランのスターシェフが手掛けるレストランやテラスカフェがあるの。
ここのワインを楽しみながらの食事も可能だ(料理は素晴らしいに違いないが、お値段も相当張るが)。
今回、タイミングが合わず参加できなかったが、毎日11時からフランス語、14時から英語の醸造所ガイドも行われているようだ。
このワイナリーは、なんとなく直島の雰囲気と似たものを感じた。
自然とアートが融合した、ワイナリーという名の屋外美術館だ。
2万歩を超える散策を終えた頃には息が上がっていたが、本来の目的のひとつ、試飲は欠かせない。
遊歩道はまばらだったのに、ブティックに入ると、お客さんがたくさんいた。
英語圏のお客さんも少なくなく、英語とフランス語が飛び交っていた。
スタッフも何名かいて、ワインのことをとても詳しく教えてくれた。
プロヴァンス・ワインのご多分に漏れずこのワイナリーもロゼワインが有名だが、ここでは1種類の白と2種類の赤を試飲させてもらった。
以下、飲んだワインと、記憶に残っている試飲の感想とワイン情報を残す。
Domaine La Coste 2021ヴェルメンティーノ、シャルドネ
柑橘とミネラル分が豊富。
古木のぶどうを使い樽熟成をしていることもあり、フレッシュながら複雑感と眺めの余韻が印象的だった。
シラー、グルナッシュ、カヴェルネ・ソーヴィニョン
機械を使った収穫、ステンレスタンクでの醸造。赤系果実、アタック軽め。
カヴェルネ・ソーヴィニョン、シラー、グルナッシュ
古木のぶどうを手摘み。新樽で18か月熟成。上記のLe Rougeと異なり複雑な味わい、フルボディ。
ワインがおいしくないわけがない。
◆
この日の余談。
本来この日の午前中はセザンヌのアトリエに行きたかった。
しかし、このひ宿泊した民宿のホストがおしゃべり大好きな人で、8時前に食事を始めたのに、つい話し込んだらいつの間にか10時を過ぎていた。
宿泊先から少し距離があるため、アトリエは断念。
そんな話を今回ご一緒してくれた地元民の友達に嘆いてみたら、帰りにセザンヌが実際にそこで絵を描いたという場所に連れて行ってくれた。
ここは山がちの、閑静な住宅地の中の一角の公園のような感じなのだが、ここからは今でもセザンヌも見たであろうサント・ヴィクトワール山がよく見えた。
思いがけずアートな1日となった。
シャトー・ラ・コスト
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