フランスワインを巡る旅 カシで偉大な白ワインを堪能
9月のワイン旅、今回はフランスで2番目に大きなマルセイユ近郊にある港町・カシへ。
カシ、ともカシス、とも言われるけれど、ここはフランス人の発音に従ってカシとしよう。
カシという町は、ワインエキスパートの勉強で初めて知った。風光明媚な景色に、ロゼの産地・プロヴァンス地方では珍しい、高品質な白ワインの生産地。
ここもぜひ行ってみたいと、勉強の傍で思いを馳せていたところ。
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山のふもとからいざ、海方面へ。
9月のプロヴァンスは天気が良く、空はからっとしていて本当に気持ちが良かった。
しかしなぜか、車内の話題はマクロン政権への不満で持ちきりだった。友人の1人はこんなフランスが嫌で、スイスに住みたいらしい。フランスの人々にとって、スイスは住みやすさの面で人気のようだ。
そんな話を聞きつつ車窓から見えるのは、またも一面のぶどう畑。今回は山から市街に入ったので見えなかったけど、沿岸には切り立ったような白い崖があり、その崖にもレスタングと呼ばれる段々畑が広がっているらしい。そしてその向こうには、海が見え隠れする。空も青いけれど海も青いから、その境界はあいまいだった。
カシは地中海に面した小さな港町で、フランス人に人気の観光地。大都市マルセイユとは違い、落ち着いた雰囲気がある。パリの富裕層には別荘地として人気で、第二だか、第三だかの立派な住まいを構えているようだ。友人いわく、厳格なパリジャンの別荘は塀が高く、警備も厳重だから、佇まいを見ればパリジャンの持ち物だとすぐにわかるらしい。
カシは小規模で、組合に入っているワイナリーの数はたったの12件。とはいえ歴史は長く、ぶどう作りは2600年前にさかのぼる……とはいえ今まで訪問してきたシャトーヌフも、リュベロンもそうだが、フランスのワインの歴史は、どこも古い。日本のワイン作りは19世紀の明治時代で、フランスは紀元前。でも、この地方こそ、フランスのワインの歴史の始まりのような場所なのだ。
ちなみにぶどう文化を持ち込んできたギリシア人がこの地に最初に植えたのは、白ぶどうのユニ・ブランだったそう。
19世紀、アメリカ由来の害虫・フィロキセラの被害はここでも免れることはできなかったけれど、当時の生産者はこれを契機に白ワインを作ることを決め、それが今の偉大な白ワイン産地につながることに。
さて、今回訪れたのは、ドメーヌ・デュ・パテルネル(Domaine du Paternel)。
ワイナリーにはすでに車が数台停まっていた。ブティックに入ると、おめかししたカップルが数組、すでにワインを試飲していた。おめかしした若いスタッフ数人が、ワインボトルを抱えて忙しそうに振る舞っていた。
私たちもさっそく、試飲を。
この地の主要品種、マルサンヌ、クラレット、ユニ・ブランが1/3ずつにブールブラン。
石っぽいミネラル感のあるワイン。フレッシュな柑橘系の果物と、白いお花のアロマ。スタッフの方は説明書に真っ白な爪をしたきれいな指をあてながら、「このワインは塩っぽいでしょう」と。塩気はとにかく、少し鉱物を含んでいるような、海の近くのワインだと感じた。これはオリーブオイルで調理した魚介類にあうようだ。
南仏の海沿いの白ワインというと、フレッシュなワインというイメージを抱く。だがこちらは、最初のワインとは違って複雑なワインだった。うまく表現できないのだけど、ふくよかな感じ。果物は柑橘よりもモモやアプリコットのような核果系の香り、あぁ、とってもいい香り。外観も最初のワインより濃ゆく、黄金色。「一家のエスプリ(魂)」という名前のこのキュヴェは、6カ月間大樽で熟成させたもの。ぶどうはマルサンヌにソーヴィニョン、クラレット、ブールブラン。古木のぶどうを厳選しているそうだ。これも魚料理に合いそう!
同じ白ワインなのにこんなにスタイルが変わるなんて、ワインって本当に面白いな。
プロヴァンス地方最大の広域AOCで育ったぶどうをカシで醸造。グルナッシュ70%、サンソー30%。力強くフレッシュな、バランスのよいロゼ。アペロによさそう。
これは、ずばり、パンチの効いた強いワイン。そう、このワイナリーの赤ワインはAOCカシではなく、近郊のAOCバンドル。このドメーヌはバンドルにも畑を持っていて、バンドルと言えば、の赤ワインを作っているようだ。今回、バンドルに行けずにとても悔しい思いをしていたのだけど、ここでバンドルが飲めるなんて、なんて幸せなのだろう(大げさだけど、本当に感動した)。
凝縮した赤系果実にスパイス。アルコールも高め。それもそのはず、ムーヴェードル主体にグルナッシュ、カリニャン、シラーで補強。強い! カシの土壌は石灰質と粘土質が混じったような感じだが、バンドルは石灰の混じりの泥炭土(マールという)のため、余計に? 力強いワインができるらしい。力強いワインなのだけど、どこか洗練されている感じがした。
ブティックの受付の先は、醸造場につながっていた。中には入れず、ブティックから眺めるのみ。
試飲を終えた頃には12時を回っていた。前日はブルスケッタで軽めに、朝もコーヒーにパン1個程度しか食べていなかったから、とってもお腹が空いていた。
さて、ここまで来たのだから、海岸の近くへ行って、海の風を感じながら海の幸を楽しんでこようと、海岸へ。
ワイナリーから港までは車で10分程度。
港町に向かって、石畳の坂道を降りる。すれ違うのはカラフルなワンピースにサンダルといういでたちの人が多く、華やかだった。
落ち着いた街とはいえ、海沿いはレストランがたくさん並んでいて、賑わっていた。
どのお店にも魚介のメニューがあって迷ったけれど、おかなが空いていたのでテラス席が空いていたお店に入った。
ロゼのお供に、ムール貝
メインに、タコのトマト煮
ラタトゥイユのようなたっぷりの野菜と、大盛のタコ。友人は、小魚のフライ。食事の途中でカシの白を頼んだはずだけど、食べるのに夢中で写真を撮るのを忘れてしまったらしい。
お腹が減っていたこともあるかもしれないが、海の幸は本当にどれもおいしかった。
地元でとれた食材を地元で味わうことの幸せをかみしめたのであった。
カシとマルセイユの沿岸は国立公園に指定されている。海岸沿いはカランクという入江になっていて、青い海と白い絶壁の壮大な風景を楽しみながら、ハイキングができるようだ。
さて、プロヴァンスのワイナリー巡りはここまで、次はいよいよ、ボルドーへ。
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