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暑い夏の日に光を灯す『言葉の深海』(マンガ感想文)

夏が苦手だ。もともと暑いのは得意じゃないし、強烈な紫外線で肌は焼けるし、突然の大雨で濡れそぼることも多くて、台風で気圧が下がって頭は痛くなる。全体的に具合が悪いので、とにかく何もやる気がしない。秋の到来が心の底から待ち遠しいのに、地球温暖化とエルニーニョ現象のせいで暑い期間が長くなっているらしい。つらい。

ベッドから起き上がることも面倒なくらい鬱々として、スマホを覗き込む。マンガでも読むかと「少年ジャンプ+(プラス)」のアプリを開くと、ひとつの読み切りが目に入った。

言葉の深海

小さいころから自分の感情を表現するのが苦手だった宏樹。自分の気持ちを分かってくれるのは愛犬のカロだけだった。しかし高校生になったある日、カロが亡くなってしまい…

「少年ジャンプ+」より『言葉の深海』あらすじ

とにかく58ページ目まで読んでほしい。この優しくてあたたかくて、ふっと希望が灯るシーンがとても大好きだ。たぶん、わたしの心にずっと残って、人生の大切な瞬間にそっとこのマンガを思い出す。そして静かに勇気を与え続けてくれる気がする。

私は話すのがそんなに好きではない。ただ、コミュニケーションはとても大切だと思うので、なるべく言葉を尽くすように頑張ってはいる。その場にふさわしい言葉や話すべき言葉に囚われて、言いたいことをきちんと言語化できないときもある。そんな自分になんだか疲れて嫌になって、いつの間にかコミュニケーションにおけるヒットポイントがゴリゴリ削られていくのを感じる。

『言葉の深海』の主人公と状況は少し異なるけれど、それでも真っ暗闇の中で言葉をうまく拾い上げられないことがあるから、気持ちはよく分かる。そんなときに、光を照らしてくれる存在や経験が私の中にも確かにある。そのことを改めて思い出して、なんだか涙が出てきた。

憂鬱な8月を引きずったまま、カレンダーは容赦なく9月を告げた。夏の苦しさを早く宇宙の彼方に飛ばしてしまいたいのに、暑さは一向にやわらぐことをしない。

でも心揺さぶられる作品に出会って、今日はなんだか良い日になった。それだけで元気になった気さえする。そうやって自分の生活が豊かになる作品に出会えるから、やっぱり人生は悪くないんだなと思う。

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余談

『言葉の深海』の作者「むぎすけ」先生は、関係性のなかにある物語を描くのがとても上手。人と人、もしくは人と犬、ときにはヴァンパイアと人など、様々な関係のなかで生まれた感情や心の変化を丁寧に描写して、読み手の心をつかむ作家さんだ。私の心はもれなく鷲づかみにされている。

せっかくなので、過去作を以下にまとめてみる。個人的には『グッドナイト、ヴァンパイア』と『ゴーストスイマー』がめちゃくちゃ刺さった。あ、でも『ハイスクールランウェイ』も『送り雨』も好き……。結局、全部好きってことさ。

ゴーストスイマー

試合で緊張してしまう競泳選手が、親友のために頑張る話です。

「ジャンプルーキー!」より『ゴーストスイマー』あらすじ

ハイスクールランウェイ

おしゃれに憧れるものの、高身長のせいで「オバケのはるかさん」と呼ばれているはるか。ネットで知り合ったハルちゃんと一緒にメイクの練習をするようになるが、ハルちゃんには何やら秘密があるようで…!!?

「少年ジャンプ+」より『ハイスクールランウェイ』あらすじ

グッドナイト、ヴァンパイア

「百年間人の血を飲まなかった吸血鬼は、人間になれる――。」吸血鬼のノアは、研究対象として血を飲まずに過ごす吸血鬼。百年まであとわずかというときに、エミルという貧しい少年が世話係につくが…。吸血鬼と少年との絆を描くドラマ読切。

「少年ジャンプ+」より『グッドナイト、ヴァンパイア』あらすじ

送り雨

「一文、ください」――。裕福な蔵元の放蕩息子・みのる。彼は遊郭で働くとき羽に惚れて、通い詰めていた。しかしある日、一文払えば渡し船に乗せてくれる不気味な女と出会い…。

「少年ジャンプ+」より『送り雨』あらすじ

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