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大切なお客様とのお別れ。noteの動機。

まだ実感を持てない、頭の中もまとまらないままに書かせていただき、失礼します。

こんな山奥の、こんな手作りだらけの粗末な店を、わざわざ遠方より訪ねてくださるお客様がいらっしゃいます。

その内の1組。

いつもご家族3名で来てくださるお客様で、それはお洒落な雰囲気を湛えた朗らかなご家族で、平日に来てくださることからも、きっと何かご商売をされているに違いない、クリエイティブなお仕事?美容師さんかな?なんて思っておりました。

御主人様は、とてもダンディーでジェントルマン。ユーモアもあって、奥様を「キミ」と呼ぶのがなんとも格好良く、僕もいつかは妻をキミと呼べるくらいの男になりたいと、憧れていました。

奥様は、ちょっと天然さんなのかな?笑 御主人様との掛け合いがいつも上品な漫才を見ているかのよう。こんなちっぽけでガラクタだらけの店内を、来店の度に丁寧にお写真に撮ってくださいました。赤葡萄のジュースをいつも頼んでくださった。

息子さんは、なんともアーティスティック。カメラをぶら下げたお姿が、非常にスタイリッシュで、きっとカメラ以外にも、絵画やら、音楽やら、そうした趣味に秀でていそうな、才気溢れるオーラが漂います。僕と同じ紅茶を好んでくれている同志で、大好き。笑

そんな、本当に素敵なご家族。
車で3時間はかかるであろう距離を、定期的に通ってくださっておりました。(海の近くから、アルプスの麓まで)

「またヒグラシの鳴く頃に、その音色を楽しみに伺います」

去り際の台詞も、いつも粋で情緒があって、私たちもそのご来店を楽しみにお待ちしていたのでした。


奥様は、お帰りの際に、接客担当である僕の横をするりと通り抜けて、普段厨房から出てこない妻の元へとささっと走り寄って、毎回何かしらのお土産をくださいました。
女性同士、不思議な共感があったのかもしれません。いつも妻に特別の励ましをくださったのです。


昨年の秋ぐらいだったでしょうか。

御主人様と息子さんは先に席を立って店を出て、いつものように奥様は妻の元へと駆け寄ってお土産をくださった。そしてこっそり「実は主人は病気と闘っているんです」と教えてくださいました。「心配だけれど、ここに来ると現実を忘れて安心します」とも言ってくださいました。

お帰りになってから少しして、わざわざ奥様からお店へとお手紙をいただきました。
内容には、『主人に勝手に話したことがバレたらきっと怒られてしまうから、次にお店に伺った時も、何も知らなかったことにしてくださいね』と記してありました。

きっと、大切な御主人様のご病気に、奥様は不安で心を擦り減らしていらっしゃったのでしょうね。

その御主人様を強く想う気持ちにも、本当に胸を震わされたのでした。


それ以降、わたしたちも御主人様のお身体の様子がずっと心配でおりました。

当店の長い冬眠が明けて、春。

無事にご家族3名様でのご予約が入った時、わたしたちがどれだけ嬉しかったことか!妻とよかったね〜とハグしました。


そして夏にも再びご来店くださり、お元気な様子を見ることができました。しかもその時にはなんと御主人様が、当店のステッカーを作ってきてくださったのです。
「ちょっと事情があって暇な時間ができまして、、」と御主人様はおっしゃられていましたが、実は事情を知っているわたしたちは、そのステッカー、そのお気持ちが嬉しくて嬉しくて!!


その後、11月中旬にもまたご予約のご希望をいただきました。生憎、ちょうど当店が臨時休業予定日だった為に、本日の来店へと延期されました。

・・気になったのは、ご予約の人数が、2名様だけだったことです。


予約を承ってから、ずっとわたしたちは落ち着かない気持ちでおりました。もしかしたら、御主人様の調子が悪くなられたのではないだろうか?

そして本日、お店の扉を開けて入っておみえになったのは、男性2人。御主人様と息子さんです。

よかった〜!!

安堵の気持ちでいっぱいでした!!

御主人様に提供するコーヒーの説明にも、いつも以上に熱が入り、饒舌になってしまいます。

息子さんは、いつもの紅茶・ラプサンスーチョン。(飲み手を選ぶこの紅茶をセレクトしてくださる時点で、僕はどっぷり息子さんのファンになってしまったのでした。笑)

御主人様、お元気そうで、本当によかった!!

奥様はめずらしくお仕事で留守番でしょうか?置いていかれて、拗ねている様が目に浮かぶようです。


しばらくの後、名残惜しいお会計の際に、御主人様がさらりとおっしゃいました。

「実は、いつも一緒だったもう1人が、10月に急に亡くなりまして」


え?

え!?

言葉を失うとは、正にこのことでした。


「本当に急でしてね。寝ていて、苦しいと言って起こされて、それから2時間の話でした」


まだ理解が追い付きません。

奥様は、御主人様を心配していらして、
わたしたちも、御主人様ばかり心配して、
今日、お元気でお見えになって、、
安心して、嬉しくて、、

「今日は写真で一緒に連れてきましたよ」

憧れのご家族。

息子さんが微笑みながら、腕の中にアルバムを抱いています。


妻も、厨房の中で聞き耳を立てていたようで、同じく言葉にならない様子でいます。


御主人様と息子さんを、店の外まで見送ります。

お二人はいつも通り、さらりと、クールで格好良く、そしてどこまでも優しく、お店を後にします。

僕は、満足にお悔やみの言葉も、何も、言えませんでした。

取り乱した挙句に、このnoteのQRコードを、息子さんに読み取らせました。

このnote、書き始めた動機の一つに、この御主人様のことがあったからです。

ステッカーをいただいた時に、
「ちょっと事情があって暇な時間ができまして」
御主人様は照れ隠しのようにおっしゃってくださいました。

僕のような人間は、何の恩返しもできないけれど、もしかしたら少しの暇つぶしにはなるかもしれない。

車で3時間も離れた、遠いアルプスの麓の森の奥の、狭っ苦しくて、成長も変化もなくて、どうやって食い繋いでいるのかもわからないような店の、その店主が裏側で、本音や弱音をボソボソ呟いたり、日々の暮らしを打ち明けたり、

「実は、こんなどうしようもない人間なんです〜」って、笑いながら近況報告をするように。

クリエイティブなご家族に、少しだけでもクリエイティブなお返しをしたかった。


こうしてnoteに駄文を書き溜めていることは、僕を知る人間には誰1人として教えていません。
お店のお客様には勿論、妻にもまだ内緒。
「また3日坊主だった」が怖くて怖くて、しっかりと書くことが習慣になるまでは、今回は誰にも内緒にしていようと思っています。

だから、今回初めて教えることができた。その動機の一つになってくださった方に。

次にご来店になったら、QRコードを読み取ってもらおうと準備までしていたんです。でもまさか、こんなに驚きの、そして悲しい報告の後に読み取ってもらうことになるとは。。


・・・・

僕は、自分が他のお店を訪れた際に、自分の素性を明かすことをしません。訊ねられても抵抗感があります。

奥様からいただいたお手紙には、お客様の住所や店名も記載されていました。

後ろめたい気持ちもありながら、どうしても素敵なご家族への憧れの気持ちもあり、お店のWEBサイトにアクセスしてしまいました。

やはり、僕の予想通り、ご家族でお洒落な美容室を営まれておいででした。

サイトの中に、奥様の個人ブログへのリンクがあり、そこへと飛ぶと、、


そこに残された記事の多くに、当店のことが書いてありました。

ご来店の度に、飽かずに優しく撮ってくださった店内や料理の写真と共に。

1年に4~5回はお出かけするカフェです。森の中にあるせいかお庭も森に溶け込んでいます。店内は全てが私好みで1つ1つが可愛いのとオーナーと奥様の作るスコーンとクランペットがとてもおいしくて幸せと感じます。

奥様のブログより引用

4月に入りようやく◯◯◯のカフェ「◯◯◯◯」が冬休み明け!早速お出かけです。

赤ブドウジュースとクランペットでお茶の時間です。

いつも通り静かな時間が流れる大切な空間でした。

奥様のブログより引用
奥様が撮ってくださった写真も、ここに使わせてください。


・・こんな、成長も変化もないお店を、大切に想ってくださり、本当にありがとうございました。

お客様と積極的にコミュニケーションすることはないけれど、わたしたちもずっとずっと、大切に想っておりました。どれほど、ご来店を楽しみにしていたことか。

いつも裏方に徹している妻に特別の心遣いをしてくださったこと、心より感謝申し上げます。

突然のお別れに、まだ動揺しているばかりです。だから、まだうまくお祈りすることもできません。

今は、素敵なご家族がこの粗末な店で過ごしてくださっている様子を思い出し、御主人様との漫才のようなやりとりを思い出し、御主人様が「キミ」と呼んで笑い合っている様子を思い出しています。

思い出すと、悲しいことなはずなのに、悲しまなければならないはずなのに、つい僕は微笑んでしまうのです。

苦しくても、ひもじくても、カフェを営む意味を与えてくださって、本当にありがとうございました。

これからも、わたしたちの出来る限り、このお店を続けていきます。


またのご来店を(それは、目に見えぬかたちでも)、心より、楽しみにお待ちしております。

◯◯様が、森の隠れ家で、少しでも静かで豊かな時間を過ごせますよう、森の奥より祈っております。

いつも、この席に、3人で。








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