映画『イノセンツ』を観て
「ああ、これは観なきゃよかった」「これは面白い!観てよかった!」
そんな二つの感情が同時にやってきては去り、観ている間私はこの上なく混乱した。最後まで観終わってみて今思うのは、「いや〜、ほんとに面白かった!」だった。
北欧からのサイキックスリラー『イノセンツ』
子供が本来持っている残酷さ
みなさんにも覚えがないだろうか?子供の頃、「なんであんな残酷なことをしたんだろう?」という経験。
自分の記憶を辿るまでもなく、私には残酷なことをした子供の頃の思い出がある。特に虫に対して。
私は虫が好きな子どもで、夏休みにアリを飼って巣を作って観察したり、幼虫や卵を孵化させたり、捕まえてきて飼ったり、ということをよくしていた。昭和の時代には、子供たちは今より外で自由に遊んでいた。
ある日私は自然の中で、『とても軽い土』を発見した。今思えばあれは肥料か何かだったのかもしれない。普通の土ではないので私はとても嬉しかった。バケツに水を溜め、そこに軽い土を乗せると、それは水の上に広がって浮いた。私は思いついて近くにいたアリを数匹つかまえて持ってきて、その上に乗せた。
アリはしばらくは何も分からずに歩きまわっていたが、そのうち軽い土が少しずつ水の中に沈み始めた。アリもだんだん沈みそうになり、他の土へと移動するが、やがて沈んでいった。その様子をただ『好奇心』一心で私は見つめていた。3年生くらいだったと思う。
なぜこんなことを鮮明に覚えているのか?他でもない。とても面白かったからだ。
今親になって自分の子供には「生き物はみんな生きているんだよ。小さな虫にも命がある。だから優しくして」などと教えているし、本心でそう思っている。当然、アリを殺したいなんて全く思わない。
子供の頃の好奇心と残虐さ、それは紙一重であり、大人になる間にすっかり無くしたもの。
そう、子供にしかない残酷さは、絶対に存在していると思う。そしてそれは、好奇心からきているものだ。「こうしたら、どうなるのだろう?」そんな実験に近い気持ちでやっている。
私はこの映画が始まってすぐ、主人公のイーダの容姿や佇まいに、目が離せなくなった。
吊り目で少し意地悪そうな見た目。北欧の子供特有の真っ白で色素が薄く透き通るような印象。自閉症の姉が『伝えることができないから』と、陰で足をつねったりして、容姿の印象通り意地悪なところ。(けれどそれは両親が姉にかまってばかりで自分を気にかけてくれない嫉妬によるもの)
「昔観た大好きな映画『ロッタちゃん』を彷彿とさせるなあ...」なんて思っていた。
そのイーダが映画の冒頭で家の近くを歩いていて、ウニョウニョと大きなミミズが水溜まりの中でうごめいているのを見つける。
ジーッと見ていたかと思うと急に足でギュッと踏み潰す。ギューっとさらに踏んで、足をどけてみると、ミミズは完全に死んでいる。
するとイーダは「よし」というように満足し、心なしか口の端を上げて笑った。
「ああ、こんなことを子供の頃にきっと私はしていた」
そう思った私は、アリのことを思い出したのだ。まさか私もあの頃、こんな悪魔な笑いを浮かべていたのだろうか?
『イノセンツ』は目の付け所がすごい
この映画では、そんな子供の好奇心と残酷さ、それがエスカレートしていく様子、そこに超能力(サイキック)という要素が加わり、息をのむようなストーリーとなっている。
子供の遊びはいつも誰かの小さなアイデアから始まり、何人かの子供が一緒に遊ぶことでさらにアイデアは更新され、より面白い遊びへと変貌していく。その中でそれぞれの役割を見つけ、「もっと面白くしよう」「こうしたらもっと良くなるのではないか」と、子供達は理屈ではなく本能でそんなふうに遊ぶことができる。
イノセンツに出てくる子供たちは、「もっと面白くしよう」という気持ちを共通して持っていた。他のどの子供ともそれは変わらない。
ただ違っていたのは、そこに恐ろしく強い『パワー』が存在していたこと、それと、不幸な家庭環境とのコンビネーションだ。
子供に大きすぎるパワーを与えることは危険だ。歯止めが効かなくなる可能性がある。その結果いわゆる『モンスター』を作り出してしまう。この話が映画でフィクションであるにも関わらず、私はそんなリアルな恐怖を感じたのだった。
この『イノセンツ』、なんと日本の大友克洋『童夢』という漫画にインスパイアされて作ったのだという。そう言われてみれば、漫画でもすごく面白そうな内容だ。
『子供が超能力を使える』そう聞くととてもワクワクした冒険が始まるような気がする。しかし、実際にそんなことがあったら、この『イノセンツ』みたいなホラーな結末が待っているのではないか。
ゾッとすることは間違いない。けれど最後まで観ると面白くておすすめしたくなる。そんなホラー映画だと思う。
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