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「虎に翼」を見て。 原爆裁判、性虐待、、、。

 今回は社会的養護の施設についての前に、実父の性的虐待の尊属殺人事件も扱ったNHKの朝ドラ「虎に翼」について書かせてください!

  4月から放送していた「虎に翼」が終わりました。NHKの朝の連続テレビ小説を最初から最後まですべて見たのは実は初めてでした。まだ裁判官になれない時代に女性初の弁護士となり、戦後初の裁判官としても活躍された女性、ご苦労も多かったことはドラマをみてもよくわかりました。非常に記憶に残る良いドラマだったと思います。伊藤沙莉さんや皆さんの演技も素晴らしかったですが、扱う事案が非常に興味深かったです。最後まで見せ場がありましたね。ネットでもいろいろ事件の深堀や解説などが書かれているので、私もネットサーフィンしてしまいました。

  主人公、佐田寅子のモデルとなったのは、日本で初めての女性弁護士、女性判事として戦後の最高裁判所発足期を中心に活躍された三淵嘉子さんです。

 「なぜ人を殺してはいけないの?」

かつて寅子に「なぜ人を殺してはいけないのか」と問うた女子高生だった美佐江。寅子はその時にはこたえられなかったが、同じ疑問を抱いていた美佐江の娘、美雪に語る。

 「奪われた命は元に戻せない。死んだ相手とは言葉を交わすことも、触れ合うことも、何かを共有することも永久にできない。
だから人は生きることに尊さを感じて、人を殺してはいけないと本能で理解している。
それが長い間、考えてきた私なりの答え、理由が分からないからやっていいじゃなくて、分からないからこそやらない。奪う側にならない努力をすべきと思う。」

NHK「虎に翼」より

  かつて「なぜ売春してはいけないのか」と番組で女子高生に聞かれて、彼女たちが納得いく答えを出すことが出来なかった私には、とても印象深いシーンでした。

救済への道をつないだ原爆裁判

  番組終盤で扱ったのは大きな裁判でした。

  1955年に広島と長崎の被爆者5人が国を訴えた原爆裁判は、三淵さんも東京地方裁判所の担当裁判官3人のうちの1人として関わっていらしたそうですが、原爆投下が国際法に違反するかどうかが真っ正面から争われました。国は裁判で勝訴しましたが最大の争点だった国際法違反について。原爆投下が「無差別爆撃であり、当時の国際法からみて違法な戦闘行為である」と明言し、被爆者への支援については「救済策をとるべきことに多くを述べる必要はない」としました。

 NHKの「みみより解説」に「『虎に翼』解説(7) 原爆裁判と核兵器廃絶への願い」があります。

 折しも今年9月9日には、長崎の「被爆体験者」の被爆者認定めぐる裁判が行われ、訴えていた44人の原告のうち15人が被爆者として認定されましたが、戦後79年たってもまだしっかりとした救済ができていない現状にも残念な思いがしました。被爆者ではなく「被爆体験者」って何だろう、被爆者と同意だと思うのですが、なぜまだ認定されないのか、本当に不思議です。

 

実父による近親相姦の尊属殺人

 そして『虎に翼』が扱う最後の法廷は、性的虐待をし続けていた実父を娘が殺したという「尊属殺人」の最高裁の裁判でした。

 自己または配偶者の父母ら直系尊属を殺害した者は、死刑か無期懲役に処するという刑法200条(現在は削除)の重罰規定が合憲か違憲かが争われた裁判です。

  この事件は1968年栃木で実際に起きた事件がモデルになっています。29歳の女性が14歳から実の父親から近親相姦、性的虐待を受け、17歳ごろから5人の子どもを産まされていました。うち2児は亡くなったということです。実の母親は出て行ってしまいました。女性は仕事を始めたところ恋人ができ、結婚して家を出ると実父に言ったところ父が怒り女性に襲い掛かったことで、逆に女性が紐で実父を絞殺したという事件です。
 事件後、実の母親が大貫弁護士の元に訪れ弁護を依頼されたということです。

  なんという事件でしょうか。こんな事件で尊属殺人として無期懲役や死刑になるとは、あまりにも酷すぎる。大貫弁護士は最高裁大法廷で「『人倫の大本・人類普遍の道徳原理』に違反したのは一体誰でありましょうか。」と口頭弁論を行いました。

 ドラマでは山田よね弁護士が、「畜生道に堕ちた父親を尊属として保護することが、人類普遍の道徳だというなら、社会も畜生道に堕ちたと言わざるを得ない。いや、畜生以下。クソだ。」と言い放ちます。

「クソだ!」にはドラマを見ていてのけ反りましたが、熱のこもった演技で美位子さんの受けた傷を思うと涙が出てしまいます。そしてよね弁護士に頑張れと心の中で叫んでいました。

  
 そして判決は、

「原判決を破棄する。被告人を懲役2年6月に処する。この裁判確定の日から3年間、右刑の執行を猶予する。」 尊属殺人の違憲が認められた歴史的な裁判となりました。

 この事件については今いろいろ解説や当時の事件などがネットでも多く掲載されていますが、こんな酷い、非道な事件があったのかと心が痛みました。

当時の事件については、弁護士ドットコムタイムズの大貫正一氏のインタビュー記事を参照しました。


「虎に翼」に取り上げられたこの事件は1968年(昭和43年)に起きた事件ですが、近年も親からの性的虐待の事件は繰り返し起きています。

 

親からの性的暴行が無罪?

 2019年、愛知県で2017年当時19歳の実の娘に性的暴行をしたとして準強制性交等罪に問われた被告の父親(50歳)の裁判は、1審で無罪となり大きな波紋をよびました。この時期性犯罪に対して裁判所が納得できない判決を次々出したことで、性暴力に抗議する「フラワーデモ」が行われるようになりました。ハリウッドの性被害から始まった女性たちの「Me Too」運動も同じ時期で日本にも広がって、性犯罪の厳罰化につながっていきましたね。声をあげることで社会を動かせるということが身に染みて感じられました。

  そして2020年の控訴審では一転、懲役10年の有罪となりました。女性は中学2年から性暴力を受けていたということですが、抵抗することができなかったことを1審では肯定していると判断していました。

 

「魂の殺人~家庭内・父からの性虐待~」ドキュメンタリ

  性被害を受けた女性たちが勇気を出して声をあげることが増えてきました。

 その女性は50代半ば、離婚して猫と一緒に暮らしていました。4歳のころから実の父親に性的虐待を受けていたといい、50年以上たった今、実名で被害を告発したのです。「魂の殺人~家庭内・父からの性虐待~」はTBSが制作したドキュメンタリー番組で、今はアマゾンプライムで見ることが出来ます。

  小学校の教師である父親が、実の娘になぜそんなことをしていたのか。性的虐待は“魂の殺人"と呼ばれて、被害者の心に深い傷を負わせるといいます。彼女が長年会っていなかった絶縁状態の父親と対峙して話をしました。彼女が淡々と話す様子、本当は怒ったり叫んだりしても良いだろうに、もうその気もなくなった様子で、父親を哀れんでいるようにさえ見えました。

 アマゾンプライムビデオ


 こうした性的虐待の事件を聞く度に、母親が気づいて、父親を遠ざけたり娘を守ってあげることができなかったのだろうかと思いますが、驚くことに娘に嫉妬をしたり、黙認したり、あるいは経済的にも夫と離れることはできないと娘に言ったりするケースも多いようです。また母親が離婚した後に連れ込んだ男性、義理の父親からの虐待が多いのかと思っていましたが、実の父親による性的虐待も多いことにも驚きます。なぜ実の娘に対してそんな行為ができるのか、まさに畜生です。

  性的虐待は「魂の殺人」、虐待された側は、自分が汚れてしまったと自殺するほど追い詰められてしまいます。親を訴えることは親戚からも嫌がられ、憚られることかもしれませんが、許すことはできない犯罪です。

 2023年 性犯罪の法律改正

 2023年7月の法改正で、「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」となり、範囲が拡大し厳罰化し、また抵抗しないことが受け入れているとはならない、怖くて凍り付いてしまっているという「抗拒不能」の要件が明確化されました。また不同意性交等罪と監護者性交等罪では公訴時効が10年から15年と長くなりました。ですが、性的虐待について話すことができる様になるにはかなりの時間がかかるケースも少なくありませんから、時効廃止が求められています。

 
 幼い子どもは性的虐待をされていることに気が付かないまま成長するケースもあります。なんか嫌だなと思っていても、それが何を意味するのかがわからない。幼い時からの性教育も大切だと思いました。
 最後は「虎に翼」から離れてしまいましたが、尊属殺人の裁判からいろいろ思った次第です。

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