肩関節の機能解剖学と上半身運動連鎖〜屈曲・外転時痛の治療的評価〜【サブスク】
肩関節屈曲動作に作用する筋肉
肩関節屈曲動作の主動作筋と拮抗筋は以下になります(図1)。
図1 肩関節屈曲動作に関与する筋肉
(三角筋、棘上筋、大胸筋鎖骨部、上腕二頭筋、烏口腕筋、大円筋、広背筋を記載)
肩関節屈曲0°〜50-60°では、烏口上腕靱帯、小円筋、大円筋、棘下筋が制限因子¹⁾として挙げられています。
肩関節屈曲60°〜120°では、肩甲帯の上方回旋の運動が大きくなり、僧帽筋や前鋸筋が活動します。
肩関節屈曲120°〜180°では、三角筋、僧帽筋下部繊維、前鋸筋の筋活動により運動が持続されます。
肩関節屈曲動作では、三角筋と棘上筋が主動作筋として挙げられます。屈曲初期では棘上筋の筋活動が大きく、屈曲角度が増大するのに伴い三角筋の筋活動が大きくなっていきます。棘上筋の筋活動は徐々に小さくなり約120°〜では屈曲作用はなくなる²⁾とされています。
肩関節外転動作に作用する筋肉
肩関節外転動作の主動作筋と拮抗筋は以下になります(図2)。
図2 肩関節外転動作に関与する筋肉
(三角筋、棘上筋、大胸筋、大円筋、広背筋を記載)
肩関節外転0°〜90°では、三角筋中部繊維と棘上筋が動力筋¹⁾²⁾になります。
肩関節外転90°〜150°では、肩甲帯の上方回旋の運動が大きくなり、僧帽筋や前鋸が活動します。また、広背筋や大胸筋による制限を受けることがあります。
肩関節外転150°〜180°では、外転筋群に加えて脊柱起立筋の作用による体幹伸展¹⁾が必要とされています。
肩関節屈曲動作に伴う上半身運動連鎖
肩関節屈曲動作において各関節は以下のような運動をします³⁾⁴⁾(図3、4)。
図3 肩関節屈曲0°〜90°までの各部位の運動
図4 肩関節屈曲90°〜180°までの各部位の運動
🎥肩関節屈曲動作に伴う骨盤運動
肩甲上腕関節は、内旋から挙上角度の増大に伴い外旋していきます。
一方で、屈曲角度170°位で上腕骨は内旋するとの報告¹⁾⁵⁾⁶⁾も散見されます。肩関節屈曲最終域で上関節上腕靱帯および烏口上腕靱帯による内旋作用を受ける¹⁾とされています。このことから、屈曲最終域で内旋とした方が可動域が大きい場合は、上関節上腕靱帯および烏口上腕靱帯の伸長性が低下している可能性が挙げられます。
肩甲胸郭関節(肩甲骨)は、肩関節屈曲初期では肩甲骨は外転し、約90°–150°からは内転に変わります。初期では僧帽筋上部繊維と前鋸筋下部繊維の筋活動による肩甲骨の外転・上方回旋作用、中期以降では、僧帽筋中部繊維と下部繊維の筋活動による肩甲骨内転作用⁷⁾が重要となってきます。
脊柱および骨盤は、屈曲90°前後からの脊柱伸展・骨盤前傾運動が、円滑な動作をするうえで重要となってきます。
肩関節外転動作に伴う上半身運動連鎖
肩関節外転動作において各関節は以下のような運動をします³⁾⁴⁾(図5、6)。
図5 肩関節外転0°〜120°までの各部位の運動
図6 肩関節外転120°〜180°までの各部位の運動
肩甲上腕関節は、徐々に外旋角度が増大していきます。
外旋可動域制限がある場合は、大結節の転がり運動が制限され烏口肩峰アーチとの間(第2肩関節)でインピンジメントを生じてしまいます。
肩甲胸郭関節(肩甲骨)は、内転・上方回旋・後傾していきます。肩関節外転初期では僧帽筋中部繊維によって肩甲骨は内転し、前鋸筋の活動によって上方回旋していきます⁷⁾。
脊柱および骨盤は、肩関節外転初期から脊柱伸展・骨盤前傾を促すことで、円滑な動作が可能となります。
🎥肩関節の動きは下記動画がイメージしやすく参考になります。
肩関節屈曲と外転の動作時痛に関する特徴の違い
肩関節屈曲と外転の動作時痛では、それぞれの特徴や原因の違いを押さえておきましょう。
具体的には、大結節の通路と制限因子の違いに着目します。
大結節の通路の違い
大結節の通路は、肩関節屈曲ではanterior path(前方路)、外転ではposterior-lateral path(後外側路)を通ります(図7、8、9)。
図7 大結節の移動領域
8)を参考に作成
Thanks Visible body
図8 大結節の通路①
Thanks Visible body
図9 大結節の通路②
Thanks Visible body
肩峰下インピンジメントはrotational glide(60〜120°)の範囲で生じます(図9参照)。外転運動において一定の範囲だけ(60〜120°)で疼痛を訴える現象はペインフルアークサインと呼ばれます。
大結節の通路を知っておくと、肩峰下腔のどの領域でインピンジメントが生じているのか予測を立てることができます。
肩関節インピンジメントを生じているのが、前方(屈曲)か後外側(外転)かの鑑別には、Hawkins test(ホーキンステスト)やNeer test(ニアーテスト)が有用です。
💡Hawkins test(ホーキンステスト)およびNeer test(ニアーテスト)の検査方法は下記noteで詳しく解説しています。
制限因子の違い
肩関節屈曲動作では、肩関節後方組織の伸長性低下による可動域制限を受けやすいです。
肩関節外転動作では、肩関節前方組織(特に前胸部)の伸長性低下による可動域制限を受けやすいです。
肩関節後方組織の制限因子には、棘下筋、小円筋、大円筋、広背筋、三角筋後部線維、後下関節上腕靱帯、後下方関節包が挙げられます。
肩関節前方組織(前胸部含む)の制限因子には、肩甲下筋(特に下部繊維)、大胸筋(特に肋骨部)、小胸筋、三角筋前部繊維、中関節上腕靭帯、前下関節上腕靱帯、前下方関節包が挙げられます。
特に肩関節外転の動作時痛では、前胸部の硬さは問題となるケースはとても多いので、必ずチェックしましょう。
前胸部の硬さは、肩甲骨を他動的に内転させた時の抵抗感や前胸部柔軟性テスト⁹⁾で評価しましょう(図10)。
図10 前胸部柔軟性テスト
9)より画像引用
肩関節の動作時痛に対する治療的評価法(疼痛減弱テスト)
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