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「努力しないで成功」は良いこと? 悪いこと?

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。

目標を設定して行動するとき、私たちは目標に向かって努力していくものですよね。これは、基本的な行動姿勢でもあります。努力することで、設定した目標に徐々に近づくことができます(努力するルートや方法が間違っていないことが前提)。

では、もしあなたの知人が、あなたが設定した同じ目標に「努力しないでたどりついた」としたら、あなたはどう思いますか?

良いことだと思いますか? 悪いことだと思いますか?

世界経済フォーラム(ダボス会議)U33日本代表で、今までに1万人以上の起業家支援を行なってきた伊藤健太さんは、この解釈が、成果につながる行動ができる人、できない人を分ける大きな要素の1つだといいます。

今回は、伊藤さんの著書『行動の品質』の中から、行動の品質を高めるポイントの1つとして挙げている「最速最短最少で最大最高最適な成果を出すことを最優先で考える」について公開します。

「目的は何か?」を考えてみる

1つのことをコツコツ努力することは大切です。

ただ、努力がなくとも目標達成や成果が出るのであれば、それに越したことはありませんよね。現実としてはなかなかないのですが、それは、「努力することが目的ではない」からです。つまり、「目標にたどり着くこと」が目的だからです。

そのように考えると、努力は結果の話です。努力も手段の1つであり、結果として「努力が必要だった」ことが正しい文脈になるのです。

でも、なぜか世間一般のマインドセットとして、「努力することは当たり前」「努力をすることをまったく疑わない」状況にあるように思います。

「努力しなくてもうまくいく方法があれば、それに越したことはない」という、ものすごい大切なマインドセット、考え方や発想を消すことになっていることが大きな問題だと、僕は考えています。根性論、精神論、感情論がとても強いのです。実際に日本では、「努力をしないでうまくいった」と言うと、まわりから妬まれます。これは、感覚値として日本人なら皆わかるのではないでしょうか?

日本人は血のにじむような努力の話が好きですし、そうでなく=「努力なく成功した」ことはなかなか受け入れられません。

これが、成果を出す人と成果を出せない人の根本的な違いの1つだと考えています。

「努力なく成功した」ことを認めないことの弊害

何でもいいのですが、今まで、努力をして1年かかって習得できたことがあったとして、それが1カ月で習得できるような方法ややり方を見つけたとしたら、絶対にそちらのほうがいいですよね?

最初から「努力が絶対に必要」と思ってしまうと、これまでのやり方や常識を疑わないで、そのままを受け入れてしまうことにつながってしまいます。

決して楽やズルをしてうまくいく方法があるなんて言うつもりは毛頭ありません。肉体労働的な、根性論的な、精神論的な、感情論的な話でなく、頭を徹底的に使うことをするべきです。成果を出す人は、成果を出さない人に比べて、頭を数倍も数十倍も使っている人です。頭を使いましょう。知恵を出しましょう。

そのための問いを変えるのです。

「最速最短最少で最大最高最適な成果を出すためには?」と。

つまり、多くの日本人の努力とは、肉体的なもの、物理的なものにフォーカスが当たっているのですが、ここで言う「努力」とは、頭を使って、そもそもから疑うことで、もっと良い方法ややり方を見つけて、結果として圧倒的な成果に変えることです。それに加えて、努力が必要となれば、当たり前にそれをいとわないことです。

1つのことをコツコツ続ける恐怖

僕は小さい頃に、野球をやっていたのですが、野球でなくサッカーがやりたくなって、親にそのことを言うと怒られました。英語を習っていたのですが、それもやめたいと思って言うと怒られました。

親の考え方(マインドセット)は、1つのことをコツコツ続け努力すべきというものでした。そのため、やっていたことをやめる=悪いこととして否定をされる構図です。

これは、うちの親に限った話ではなく、日本全体がそのようなマインドセットで形成されています。社会システムとしても、人の評価までも、そのようになっています。

1つのことをコツコツやることが正義で、正しいとなっています。それができないと、「根性がない」という烙印(らくいん)を押され、評価を下げる仕組みになっています。

確かに1つのことをコツコツ続けることは大切です。ただ一方で、失っているものがとても強烈にあります。1つのことしかやらないことで、

「本来は全然向いていないことを我慢して続けなくてはいけない」
「ずっと同じ世界、同じ人と付き合うことになる」
「その世界の中で成果を出せないと、その世界での出口(キャリアをはじめ給与、ポジションなど)が決まってしまって、モチベーションを失ってしまう」
「失敗者とみなされてしまう」
「縦割りの構造となり年長者偏重になる」
「どこかのタイミングから手段が目的にすり替わり固執してしまう」
「時代変化にまったくついていけなくなる」
「イノベーションが起きない」

など、たくさんあります。

自分にとって野球よりもサッカーのほうがもっと楽しく、活躍できるのであれば、そちらを選んだほうがいいのです。モチベーションがない英語に使う時間を、他のモチベーションのあるものに使ったほうが全体として良くなるかもしれません(もちろん、次々に変えてしまうと何も習得できないといったデメリットもあります)。

「1つのことをコツコツやるべき」というマインドセットは、間違いなく日本を戦後の焼け野原から経済大国にした原動力だと思います。一概にすべてが悪いと言っているわけではありません。構造的に人口が爆発的に伸びていて、供給より需要が強い時代にあってはそれで良かったのです。

ただ、時代の変化や要請に、マインドセットのアップデートがまったくついていけていないのが現状です。

日本一の旅館が陥ったコツコツ努力するマインドセットの末路

日本の強みとして「改善がとても得意だ」と言われます。改善のことを「進歩」と言います。また、進歩に似た言葉で「イノベーション」があります。

ただ、進歩とイノベーションは、まったく違います。

進歩は、今の延長線上で物事を改善していくことです。イノベーションは、今の延長線にない、まったく新しいものを生み出すことだと思ってください。

この進歩=「1つのことをコツコツやる」ことで、世界で1番の経済的な力を誇った時期があります。ただ最近では、進歩では問題は解決しないどころか、進歩が行き過ぎてお節介化・コスト化していると言われるようになってきています。

たとえば、日本でナンバー1の旅館に石川県の加賀屋さんがあります。人気旅館ランキングで1位常連の旅館です。加賀屋さんに限らず、一般的に旅館は、部屋に通していただいてから、仲居さんが部屋によく来られますよね。

ここで少し考えてみてほしいのですが、加賀屋さんの数年前の話です。部屋に通されてから1時間で、仲居さんが部屋に何回入ってきていたと思いますか? 僕は正直、1回も入ってこないでほしいのですが……。

正解は、なんと8回です。こんなこと、あり得ると思いますか? 8回ですよ(笑)。7分に1回CMが入るようなものです。当然ながら、お客様に嫌な思いをさせようと思って、やっていたわけではありません。お客様を喜ばせようと思った結果が8回部屋に訪れることだったのです。

この話は、潰れた旅館の話ではなく、日本ナンバー1の旅館のつい数年前の話です。これは「できるだけお部屋に伺って、お茶を差し上げなさい」という加賀屋さんの創業以来の大切な価値観=マインドセットとされていたものにすべて由来します。

ここから進歩が繰り広げられたのです。この価値観を崩さずに、もっと、もっとと考えて改善をし、進歩を繰り返した結果が、気がついたら8回のお部屋訪問になっていたわけです。仲居さんの8回の訪問を、ほぼすべてのお客様はマイナス、ストレスに感じるでしょう。

お客様はマイナス、ストレスなことをされているわけですが、仲居さんの8回の訪問にかかる人件費は誰が払っているのか? そうです、お客様が払っているわけです。まさにお節介化、コスト化と言われるわけです。

進歩は、往々にして自己満足的になってしまいます。そのコストはお客様が負担をします。行き過ぎると、最悪の結果になってしまうのです。

日本は、本当に進歩が得意です。ただ、あまりにも進歩が行き過ぎてしまい、あらゆるところで、このような異常とも言えることが起きています。

これから求められるのは、進歩ではなくイノベーション

20世紀の人口が爆発的に伸び、需要が圧倒的に供給よりも強い、すなわち、供給が追いつかないような状況においては、サービス・製品などで生産効率がとても重視されました。つくれば売れる時代ですので、いかに効率的につくることができるかがポイントだったのです。サービス・製品の生産効率を高めるためには、自社はどこで戦うべきかを明確にして、その領域での学習速度を速めることが勝ちパターンでした。

これが「1つのことをコツコツやる」という日本人の得意なこととリンクをして、最強の時代をつくったのです。

しかし、今、相対的に日本で求められていることは、進歩ではなく、間違いなくイノベーションです。これは、進歩を否定しているわけではありません。相対的な話で、進歩にしかほぼ比重がないので、バランスを取りましょうという話です。

イノベーションとは、今現在の延長線上ではなく、新しいものを生み出そうとすることです。

オーストリアの経済学者シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と言いました。新しいものの「結合」です。ニューコンビネーションです。あんことパンが結合してあんパンとなり、あんパンと正義のヒーローが結合してアンパンマンになりました。これが、イノベーションです。

イノベーションは、「1つのことをコツコツやっている」中では、なかなか生み出されにくいのです。なぜなら、新しいもの同士の結合だからです。

図1

今までの延長線上にはないものとの結合が求められます。1つのことをコツコツやることは、往々にして、新しいものとの出会いがなくなってしまいやすいマインドセットです。

1つのことをコツコツとなってしまうと、「1つしかやってはいけない」となってしまいますし、日本全体の仕組みとしてそのようになると、ものすごい縦割り型の構造になります。縦割りなので、横がつながりません。ましてや、立体的なつながりなどは起きません。つまり、新しいものの結合を起こすという動きを取ることができなくなります。

21世紀の社会にあって、構造的に重要な勝ちパターンとして、知識創造の量と質&スピード重視と言われています。より多くの知恵を生むためには、外にどんどんと開き、組織内&外部より人、モノ、金、情報、データが集まってくる環境をつくることが価値そのものになっていきます。

つまり、どんどん新しい結合を起こしやすい環境を持っていることが何よりも重要になります。

20世紀は、「1つのことを選択して、どんどん深掘りしていくこと」が勝つためのパターンでした。当時は、とても合理的でした。大切なことは、それはそれで、今、これからがどうなっていくのかを考えて、マインドセットを変えることです。

なぜ日本の社会は、「最速最短最少」という発想を肯定しないのか?

イノベーションを別の言い方をすれば、

「今の考え方ややり方よりも、もっと簡単に、楽に、お金をかけず、時間をかけずに問題解決する方法はありませんか?」

ということです。

世界経済フォーラムU33日本代表として、世界各国の方々とコミュニケーションを取る機会に恵まれていますが、日本は、世界的に見ると急激に経済における競争力を落としています。これは、マインドセットが凝り固まった結果、時代の要請についていけなかったと僕は考えています。つまり、コツコツ努力することに固執してしまっているわけです。何が言いたいかと言うと、僕たちは、これまでの環境や考え方にあまりにも慣れてしまっています。

マインドセットは、環境で形成されると言われます。つまり、これまでの環境の中には、行動の品質が問われるような環境はなかったのです。

日本はとても均質化発想が強く、「トップを伸ばす」ことよりも「ボトムアップ的な発想」がとても強い国であり、環境です。学校で隣の人と違うことをやると「KY、空気が読めない」と言われ、浮いてしまうような社会です。まわりと一緒が正しい世界です。

その中で、とても重要な考え方として、非言語的にも、言語的にも教わっていることとして、コツコツ努力をすることのすばらしさがあると思っています。努力は当たり前に、買ってでもすべきものと教わっています。いわば、「努力しないで、成功はない」というくらいの感覚です。

もちろん、努力は絶対に必要です。ただ、このように根強く考えてしまうと、「努力が必須」=「準備が必然的に必要」「積み上げていくもの」「時間がかかる」「いつも何かが不足している」というニュアンスを根底に持ってしまいます。

そのことによって、「最速最短最少」という発想が生まれにくくなってしまうのです。最初から何となく努力が必要と思ってしまうと、発想として、「もっと良い方法を考える」ことをしなくなってしまうのです。

これは、とても危険です。

繰り返しますが、努力することを否定しているのではありません。努力の向けるべき方向を変える必要があるのです。ズルをするわけではもちろんなく、一刻も速くゴールにたどり着けたほうがいいわけですし、そこにエネルギーも、お金も、時間も本来はかからないのであれば、それに越したことはありませんよね。いっさい否定されるものではありません。そのための大切な視点が、「最速最短最少で最大最高最適な成果を出すこと」なのです。

伊藤さんは、著書『行動の品質』の中で、「行動の品質を高める3つのポイント」として次の3つを挙げています。

①最速最短最少で最大最高最適な成果を出すことを最優先で考える
②1つの行動がそれだけで終わらず、良い波紋を広げることを考える
③自分だけでなく、まわりを巻き込もうと考える

それぞれ「具体的にどのようなことなのか」の詳しい解説をはじめ、成果につながる行動の思考法と実践法をわかりやすく解説しています。興味のある方はチェックしてみてください。

▼新刊『行動の品質』の「はじめに」「おわりに」「目次」を全文公開しています。



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