怒る一流、怒れない二流
フォレスト出版編集部の寺崎です。
昨今、パワハラだのセクハラだのコンプライアンスだのと、いろいろやかましいことが言われ、なかなか「部下を叱れない」「他人に怒れない」という人が増えているのではないでしょうか。
でも、「怒り」の感情は誰しも隠し持っているもの。
怒りを失った人間には絶望しか残されていません。
そこで、今日は「怒り」をテーマにお届けします。
指南書はフォレスト2545新書『怒る一流 怒れない二流』(向谷匡史・著)です。
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《怒り》には「愛」がある
意外に思うかもしれませんが、《怒り》の前提には「愛」があります。
「勉強しなさい!」
と母親が叱るのは、わが子が可愛いからで、他人の子供を叱ったりケツを叩いたりすることはありません。勉強しようがしまいが、どうでもいいことだからです。いたずらをすれば別ですが、そうでない限り、他人の子に対して怒ることはありません。
私が空手道場を主宰していることはすでに書きましたが、
「この子を試合に勝たせてやりたい」
と思うからこそ、稽古に手抜きをすると怒るのです。勝とうが負けようが、道場をやめようがどうでも好きにしろ――ということであれば、怒ることはないでしょう。
あるいは営業会議で、「一日百件の飛び込み営業をしたらどうでしょう」
という同僚の提案に対して、「そんなの無意味だ」と、あなたが反対したとします。
「なぜだ」
「営業は量でなく、質で勝負すべきだ」
「いや、量だ!」
「質だ!」
丁々発止の議論は、「いかにすれば営業成績があげられるか」――つまり、広い意味で仕事を愛しているからです。
そうでなければ、
「一日百件の飛び込み営業をしたらどうでしょう」
「いいんじゃない」
面倒な議論は避け、賛同だけしておいてサボればいいだけのことです。
もし、あなたが近々、転職のため会社を去る予定であったなら、
「そんなの無意味だ」
と反対はせず、黙って聞き流すはずです。
こう考えていくと、「怒ろうと思っても、つい口ごもってしまう」という人は、消極的な性格だけではなく、仕事に「愛」が足りないということも一因になっている場合が少なくないのです。
怒ることで、人間関係に一本筋が通る
飲食店チェーンのオーナーであるM会長は、全身に「逆鱗(げきりん)」があると言われるほど、ちょっとしたことで怒ります。逆鱗とは、竜の顎の下に逆さに生えている鱗うろこのことで、これに触れると竜が激高することから、「絶対に触れてはいけないこと」「やってはいけないこと」の意味に用います。
ところがM会長は、一枚どころか全身に逆鱗があるのですから、従業員はたまったものではありません。いつも誰かしら怒鳴りつけられているのです。嫌気がさして辞めていく者も当然いますが、M会長の表裏のない性格を慕う者も少なくないのです。
そのM会長が、かつては怒ることができなかったと言うのです。
「あれは第一号店をオープンさせた直後のことでしたね」
とM会長が巨体をソファにあずけながら言います。
「掃除の仕方が悪かったんで、ボーイたちを集めて注意したら店を辞めていった。それも八人のうち五人も」
オープンした直後のことで、店にとってもっとも大事なとき。「サービスが悪い」「料理が出てくるのが遅い」と悪評が立てば大変なことになる。急いで求人募集を出す一方、残ったボーイに倍の給料を支払い、残業してもらった。もちろんM会長は不眠不休でしのいだのだそうです。
このときのことがトラウマになり、M会長は従業員を怒れなくなってしまいました。
その結果、従業員たちがM会長をナメるようになります。
「遅刻しないように、ちゃんとシフトを守ってね」
「わかってますよ」
返事もぞんざいになっていきます。
従業員教育がきちんとできていなければ、サービスに影響します。客足も次第に落ち始めました。M会長は悩んだそうです。
そして、結論は、
「従業員のご機嫌をとることで売上が落ちるのなら、怒鳴りつけて従業員をクビにし、店を閉めても結果は同じことじゃないか」
そう腹をくくったそうです。
それから、堂々と怒るようになりました。
「いやなら辞めていけ」
と毅然たる態度で接しました。
怒ることによって「主人」が誰であるかを思い知らせたのです。
辞めていく者もいましたが、経営者に怒られたからといって辞めていくようでは、所詮、使えない人間だと割り切ったそうです。人間関係に一本筋が通り、これが売上にもつながっていったということです。
「怒ってはいけないという気づかいが、かえってマイナス作用する」
M社長の人間関係術です。
「怒り」は自信につながる
自分に自信のない人は、怒るのが苦手です。
「私が正しくて、あなたが間違っている」
と思うから怒りが生じるわけで、オドオドしながら怒るということは成り立たないのです。
「自信→怒る」という図式です。
ところが、この逆――「怒る→自信」ということも成り立つのです。自分に自信が持てないという人は、《怒り》をうまく用いることによって、仕事に人生に自信が持てるようになるのです。
このことを証明するのが、
「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」
とする心理学の「ジェームズ=ランゲ説」です。
この説をひとことで説明すると、
「感情というものは、内臓や筋肉のわずかな収縮が脳で知覚されて生まれる」
ということになります。「泣く」という筋肉や内臓の微細な変化が、「悲しい」という感情を生み出すと、この学説は主張するのです。
したがって、この学説にしたがえば、
「自分に自信があるから怒る」
というのではなく、
「怒るから自信がわいてくる」
ということになります。
学問的なことを抜きにしても、チンピラは怒って見せることで金品を巻き上げ、この成功体験が自信につながっていきます。猫だって、背を山なりにして威嚇することでケンカに勝てば、自分の行為に自信を持ちます。自信が怒りを生み、怒りが自信を生むという相乗効果になっていくのです。
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いかがでしょうか。
この「怒る」というテーマはちょっと深い真実を含んでいますので、あと数回にわたってご紹介したいと思います。